【「海辺の家族たち」評論】美しい入り江の町を舞台に描かれる、確執を抱えた家族の再会と明日への希望
2021年5月7日 17:00

「地中海で一番美しい海岸」「沿岸地域で唯一真の姿を残した場所」と劇中の台詞で紹介される、マルセイユ近郊のメジャン入り江。その湾景を望む一軒家のバルコニーで、老いた父親が後悔を口にして倒れた。父から小さなレストランを継ぎ実家で同居する長男アルマン(ジェラール・メイラン)のもとに、教授職をリストラされた次男ジョゼフ(ジャン=ピエール・ダルッサン)、人気女優でパリに暮らす末っ子アンジェル(アリアンヌ・アスカリッド)がやってくる。20年前のある出来事が原因で、アンジェルは家族と疎遠になっていた。
2017年のヴェネツィア国際映画祭コンペ部門に出品された本作「海辺の家族たち」。監督のロベール・ゲディギャンはマルセイユで生まれ育ったフランス人だが、父親は20世紀初頭に起きたアルメニア人虐殺からフランスに逃れてきた移民で、マルセイユの港湾で働いていた。そうした出自と育った環境の影響で、労働者や移民・難民といった社会的弱者に寄り添う眼差しで家族や小さなコミュニティーを描く一貫した作風は、日本語字幕版が鑑賞可能な「マルセイユの恋」「幼なじみ」「キリマンジャロの雪」でも確かめられる。
ゲディギャンの一貫したスタイルは、ロケ地にマルセイユや西の近郊エスタック地区(メジャン入り江はさらに西のはずれ)を選ぶことと、先に紹介したメイラン、ダルッサン、そして監督の妻でもあるアスカリッドの3人を起用し続けてきたことにも表れている。そんな一貫性の賜物が、中盤で挿入される回想シーン。実はこれ、1985年の監督作「Ki lo sa ?」から抜粋された映像なのだが、やはり先の俳優3人が船着き場でふざけあっているので、本作において3兄妹がまだ仲良しだった若かりし頃のフラッシュバックとして完璧に機能している。
ゲディギャンは淡々とした筆致に控え目なユーモアも時折添えて、過去と現在のさまざまな別れや、新たな恋の始まりを綴っていく。そして終盤、予想外の出会いによって3兄妹は明日に向かって歩き出すきっかけを得る。それは、悲しみや憎しみや分断を克服する力として、愛と善に希望を託す監督のつつましい意思表示だ。たしかに理想主義かもしれない。それでも、ラストシーンのバルコニーに訪れるささやかな奇跡は、長く反響するこだまのように、観客の心に温かな余韻を残し続けるだろう。
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