劇場公開日 2021年5月14日

  • 予告編を見る

海辺の家族たち : 特集

2021年9月3日更新

フランス版ケン・ローチが描く、
変化してゆく家族のかたち 心に染み入る人情の物語

画像1

話題の映画を月会費なしで自宅でいち早く鑑賞できるVODサービス「シネマ映画.com」。本日9月3日から「海辺の家族たち」の先行特別配信がスタートしました。

「マルセイユの恋」などを手がけたフランスの名匠ロベール・ゲディギャン監督の人間ドラマ。フランス版ケン・ローチとも称されるゲディギャン監督は、監督自身が生まれ育った南仏の小さな港町を舞台とし、慎ましくも懸命に生きる市井の人々に寄り添う作風が特徴です。

今作は、老いた父親が倒れたことから兄妹3人が久々に集まり、今後の生活を話し合う上で、それぞれの過去や人生を見つめ直すという物語。コロナ禍で今年は夏休みに帰省できなかった方も多かったと思われます。年を経て変化する家族のありかたを考え、故郷への思いを掻き立てる、心に染み入る良作を、ぜひこの機会にお楽しみください。


画像2


「海辺の家族たち」(2016年/ロベール・ゲディギャン監督/107分/G/フランス)

画像6
<あらすじ>

パリに暮らす人気女優のアンジェルは20年ぶりにマルセイユ近郊の故郷に帰ってきた。家業である小さなレストランを継いだ上の兄のアルマンと、最近リストラされて若い婚約者に捨てられそうな下の兄のジョゼフ、兄妹3人が集まったのは、父が突然倒れたからだった。今後の話し合いをしながら、それぞれが胸に秘めた過去があらわになっていく。町の人びとも巻き込んで、家族の絆が崩れそうになった時、兄妹は入り江に漂着した3人の難民の子どもたちを発見する。


座談会参加メンバー

駒井尚文(映画.com編集長)、和田隆、荒木理絵、今田カミーユ


和田 前回の「ブラックバード 家族が家族であるうちに」(9月9日までシネマ映画.comで配信中)に続き、「家族」と「死」についての物語ですね。

駒井編集長 あと、海辺が舞台。

和田 そうですね!シネマ映画.comでは現在「お終活」や「ファーザー」も配信していますが、この「海辺の家族たち」も「終活」や「人生の最期」についての話と言えると思います。

駒井編集長 「83歳のやさしいスパイ」もそうでした。このテーマは最近とても多いですね。世界共通で。

和田 続いていますね。ロベール・ゲディギャン監督は、労働者階級や移民など社会的に弱い立場の人々を描いてきた監督で、フランスのケン・ローチと称えられているようです。

駒井編集長 冒頭、「グダグダに始まったなあ」と思いきや、エスプリが効いてるし、時事問題も巧みに絡めてあって、意外性もふんだんにあり、男と女案件もそれなりにあり、大変驚きました。脚本がよくできてる。

荒木 海に面した素敵なテラスで高齢のお父様が「残念だ」と言いながら倒れてしまうとこから始まります。さびれた観光地、というロケーションですが、静かで美しい街並みですよね。今すぐあそこに隠居したい。

画像4

今田 全体的に静かなトーンですが、個々のエピソードのエッジが立ってるので飽きずに見られました。

和田 「市民ケーン」の冒頭の「バラの蕾」的な一言でしたw 親の死の間際に子供たちが久しぶりに集まって話し合うという作品はこれまでにもありますが、予想外な展開でした。フランスのマルセイユ近郊の故郷という設定ですね。

今田 マルセイユ付近は南仏でも治安があまりよくない印象がありますが、ゲディギャン監督の作品は過去作からずっと、エスタックという小さな漁港の町が舞台だそうです。

駒井編集長 マルセイユよりちょっと西側ですね。ニースやカンヌなんかとは、ちょっと雰囲気違いましたよね。

画像3

和田 実際に難民が流れてくるところなのでしょうか?

今田 難民の状況はちょっとわかりませんが、マルセイユやその近郊は移民が多い地域です。ヒップホップも盛んです。

和田 なるほど! ヒップホップですかw

荒木 かつては活気のあった町が廃れ、住んでいる人々も高齢化、町自体が瀕死って感じでしたね。倒れてしまった父さんと同じように、在りし日をじっと見つめているような、生死の境目。大きな音を立てて通り過ぎる電車が度々カットインしてくるのも印象的です。

今田 ちょっと寂しい雰囲気で、日本でもあんな感じの町はありそうですよね。若いとは言い難い漁業の男性が独身だったり。

和田 別荘地は美しくもあり、そしてなんだか悲しい景色でした。漁業の男性は一歩間違うとストーカーですよねw

駒井編集長 定住していた人たちは老いていき、別荘としては高く売れる傾向にある。地中海沿岸ならではですね。

和田 隣人夫婦の決断には驚きました。

荒木 私も、老夫婦のエピソードは結構ハッとしました。あぁ、そうかそういう映画か……!って。

駒井編集長 究極の夫婦愛の結果ですよね。

和田 息子がちょっと可哀想でしたが……。その代わり新しい彼女ができるという。

今田 あの息子のロマンスの描き方は、王道のフランス映画っぽかったですね笑。

和田 そうですね。「死」だけではなく、「生きる」「人と人のつながりの大切さ」ということについても静かにメッセージを投げかけている作品だと思います。

画像2

今田 この監督の作品を知らなくても、ミニシアター系作品ファンは、常連俳優のジャン=ピエール・ダルッサン(やや偏屈な次男役)を、アキ・カウリスマキ監督の「ル・アーヴルの靴磨き」などで見たことがあるという方も多いのではないでしょうか。あの映画も、フランスの難民事情を扱っていました。

和田 見たことある俳優さんだとは思っていましたが、アキ・カウリスマキ監督作品でしたか。人種や社会問題についてもメッセージが込められているんですね。

駒井編集長 フランスで起きたテロの件絡めて、ユダヤの話もしていましたね。難民はなくても良かった感もありますが、時節柄組み込んだんでしょうかね。非常に面白いスパイスでした。

今田 こういった作品からは、普通に日本で生活しているとなかなかニュースだけではわからない、外国の社会問題を知ることができます。

駒井編集長 老いの問題は日本でもそこら中にありますが、難民問題や宗教問題は、実感すること殆どないですからね。難民の処遇について、登場人物たちが同じように考えてる(反政府的スタンス)のが面白かった。

今田 そのあたりもフランスのケン・ローチとも言われる所以なのかもしれません。

和田 老いの問題を描いた作品となると、日本では山田洋次監督作品や吉永小百合さんの主演映画などでしょうかw

駒井編集長 「長生き」は、果たして幸せなのか、あるいは罪なのかというテーマが、ここのところの老人を描く案件に共通して横たわっていますね。残された家族がいる場合、特に。あの決断をした隣家の夫婦は、改めて「スゲエ」って思います。

今田 女優の妹は、人生で非常につらい経験もありましたが、若い彼氏ができて第2の人生が始まった感じで、幸せに長生きされそうです!

画像8

駒井編集長 あれ、年の差、いくつぐらいですか?

今田 ひとまわり以上は違いそうじゃないですか? 漁師の彼が子どもの頃、彼女の芝居見て憧れていたという設定ですし。

駒井編集長 もっと、親子ぐらい離れてない?

荒木 うーん確かに親子でも不思議ではない……。「年の差カップル」もひとつテーマとしてありますよね。偏屈な次男の「若い女と付き合うとツレェ……」ってぼやきがリアルでした……。最終的に前に進む気持ちになれてよかったですが。

駒井編集長 そっちは大学の先生(本業は物書き)と教え子という設定でしね。

今田 年の差カップルもの、として見るのも、それぞれの結末が面白いですね!

画像5

荒木 地味な作品に見えて、結構内容がもりもりですね。

和田 難民の子供たち(姉弟)が橋を見上げながら大声を出す姿を見て、年をとった兄妹たちが昔を思い出すシーンが印象的でした。

今田 あの回想シーンは素敵でしたね……。

荒木 高森郁哉さんが映画評で書かれていましたが、あれ本人たちの映像なんですよね。

駒井編集長 私は、その場にいる者たちが、次々にタバコをねだって一服するシーンが印象的でしたね。そりゃあんなことあったら、止めてたタバコも吸いたくなるよ、分かる分かるって。

和田 そういえば、よくタバコを吸ってますね。いいシーンでした。

今田 派手な演出などはありませんが、登場人物のエピソードの一つ一つが心に染み入って、彼らのその後の人生の続きを知りたくなるような良作でした。

画像2

映画評論

「海辺の家族たち」の作品トップへ