【中国映画コラム】配信と劇場の関係性、Netflixとアジア映画――大阪アジアン映画祭に参加して考えたこと
2021年4月25日 13:30
北米と肩を並べるほどの産業規模となった中国映画市場。注目作が公開されるたび、驚天動地の興行収入をたたき出していますが、皆さんはその実態をしっかりと把握しているでしょうか? 中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数279万人を有する映画ジャーナリスト・徐昊辰(じょ・こうしん)さんに、同市場の“リアル”を聞いていきます!
2020年3月6~15日に行われた「第15回大阪アジアン映画祭」。私も参加させて頂いたのですが、その頃の記憶は、なぜかもう遠い昔のことのように感じています。今思い返してみると、ちょうど新型コロナウイルスの影響が出始めた頃。政府の自粛要請を受けつつ、ギリギリまで開催に尽力した「大阪アジアン映画祭」は、無事最後まで完走することに。その後、世界はとんでもない時代に突入しました。全世界で猛威をふるう新型コロナウイルスの感染状況は、いまだ収束の気配が見えません。ハリウッド大作の公開延期をはじめ、映画業界は今までにない混乱に陥っています。
そのような状況下で「第16回大阪アジアン映画祭」は、今年の3月5~14日に予定通り開催されました。
「第15回大阪アジアン映画祭」は、世界的に見ても、最初にコロナの影響を大きく受けた映画祭だと言えるでしょう。昨年の経験をいかし、今年も無事にフィジカルでの開催を実現させました。私は、今回も全日程に参加。“アジア映画最前線の映画祭”として、多くの面白い作品を発見することができました。一方で「大阪アジアン映画祭」を通じて、コロナ禍後における映画界の“地図”は間違いなく変わると確信することになったんです。
「オンラインではできないことがある!」
「大阪アジアン映画祭」プログラミング・ディレクターの暉峻創三さんは、映画祭のフィジカル開催の重要性を強調していました。「第15回大阪アジアン映画祭」以降、世界各国の映画祭はコロナによる危機に直面し、カンヌ国際映画祭をはじめ、多くの国際映画祭が開催中止、もしくは延期の判断を下しました。
私は、アジアの映画祭を中心に、毎年各地に足を運んで参加しています。しかし、2020年の春には、香港国際映画祭が幾度かの延期を経て、最終的には中止に。秋に行われた釜山国際映画祭はフィジカル開催を実現しましたが、渡航が厳しい状況のなかでは、海外から映画祭に参加することは絶望的でした。初めてプログラミング・アドバイザーに就任することになった上海国際映画祭も、渡航問題によって、現地に赴くことはできなかったんです。
一部の映画祭は、オンライン開催という選択肢を選びました。完全に情報化社会となっている現代、映画祭のオンライン開催自体は技術的にほぼ問題はありません。しかし、昨年に幾つかのオンライン映画祭に参加しましたが……正直に言えば、何か物足りなさを感じたんです。
まずは、作品に関して。多くの映画会社はオンラインという手法に警戒心が強い。そのため、ワールドプレミア作品などは、オンライン上映されないという事例が多かったんです。各映画祭のオンライン上映ラインナップを振り返ってみると「全体的に寂しかった」と思いました。
そして、何より「映画はただ“見る”ということだけではない」ということを、1年を通して考え続けていました。暉峻PDも同様に「映画を見るということは、その作品を見るということだけではなく、同じ場所にいる観客同士で感情を共有しあっていることにも大きな意味がある」と話していました。技術がどんどん進歩していったとしても、オンラインだけの映画祭では、多くのことができない。そして、観客も映画祭をより楽しく体験することができないと考えています。
コロナ禍によって、世界中で多くの映画館が休業を余儀なくされました。代わりにNetflixをはじめとした配信プラットフォームが一気に台頭し、市場を占領することになりました。「映画は、劇場で上映すべきなのか。オンラインで上映し、世界中の多くの人々に見せるべきなのか」。この議論は延々と続いています。
「第16回大阪アジアン映画祭」では、多くの監督たちに、この問題についてお聞きしました。すると、さまざまな答えが返ってきたんです。
ペマ・ツェテン作品などの映画音楽を担当したドゥッカル・ツェランは、自身の新作「君のための歌」を披露しました。ツェラン監督は、配信と劇場の関係性について、このように語っています。
ツェラン監督「映画館は消えないと信じています。私は映画音楽の仕事を多くしているので、映画館は“映画の器官”みたいな存在だと思っているんです。映画館がなければ、映画はある意味“命”を失った感じです。配信については反対ではないのですが、映画館は、やはり『映画の絶対条件』だと思います」
香港亞洲映画祭(2020年)のオープニング作品であり、第57回金馬奨において7部門ノミネートを果たした「手巻き煙草」の若手監督チャン・キンロンも「映画館は映画の一部分です」と語りました。
キンロン監督「オンラインで見ると、映画の魅力をすべて体験することはできないと思います。ただし、今後Netflixで映画を見ることは、もしかしたら主流になるのかもしれません。もしそうなったとしたら、Netflixで配信が決まったとしても、配信前に劇場で作品を上映してほしいです」と
続いて話を聞いたのは、第15回時に上映された「アレクス」に続き、新作短編「すてきな冬」を披露した中国・新疆ウイグル自治区生まれの新鋭エメットジャン・メメット監督。たとえ短編映画だとしても“配信を断る”という姿勢を示しました。
メメット監督「私はオンライン上映に関しては、ずっと反対し続けています。映画鑑賞はオンラインになってしまうと、観客の集中力が分散され、映像自体も映画館との差が生じます。お金に関する問題ではなく、たとえ短編だとしても、映画は映画館で見るべきです。観客が同じ空間で静かに作品を見る――これが映画製作者にとって、一番ありがたいことです。昨年は、新型コロナウイルスの影響で、多くの映画館が潰れてしまいました。さらに、観客の方々も、家で映画を見ることに慣れていますよね。おそらく今後はオンラインで映画を見るということが、さらに普及していくと思います。でも、もし時間があるのなら、映画は映画館で見てほしいです」
日本人監督にも話を伺うことができました。まずは、クロージング作品として上映された「アジアの天使」の石井裕也監督です。
「私は基本的に配信に対して賛成というか、当然そういう時代になったんだと思います。ビジネス面に関して、今後絶対配信と関わった方がいいと思いますし、私もそうするつもりです」と配信に対しては積極的な姿勢を示しています。その一方で「問題は映画だけでなく、音楽や文学も間違いなく、モノとして価値が下がっていく――それについてどう考えるかは、かなり重要だと思います。映画や文学の価値が下がることは、人間の価値が下がることと同じです」と課題を指摘してくれました
また、久々の新作「ホテル・アイリス」を発表した奥原浩志監督は「自分が作ったものを、いきなり全世界に発信できる。ある意味、以前よりはかなりの可能性を感じています」と説明。やがて「映画って、ひとつひとつ丁寧にカットを作っているので、やはりお金がかかりますよね。映画の製作費と製作者に還元するお金のシステムがちゃんとできていけば、さらに良いですよね」と指摘していました。
配信と映画館に関する議論は、しばらく続くと思いますが、2020年に大きなダメージを受けた映画業界に対して、今年の「大阪アジアン映画祭」は最も相応しいオープニング作品をセレクトしました。香港映画界のレジェンド、アン・ホイ監督を追ったドキュメンタリー映画「映画をつづける」です。映画への思い、そしてこの世界への思いをすべて出し尽くした1本となっています。暉峻PDは「多くの人々が苦しんでいるなか『自分の仕事を続ける』という勇気を与えてくれる。いまの時代にこそ上映されるべきべき映画」と「大阪アジアン映画祭」の姿勢を示しました。こういう思いがあるからこそ、「大阪アジアン映画祭」は、日本国内最大のアジア映画イベントとして最高の映画体験を届けてくれるんです。
「第16回大阪アジアン映画祭」への参加で、もうひとつ大きく感じたのは、グローバル化が急速に進み、映画業界が激動していることです。Netflixとアジア映画の関係性を見てみましょう!
ワールドプレミアで上映された「人として生まれる」(リリー・ニー監督)は、元々は中国本土での製作・上映を予定していましたが、検閲の問題で中国での製作を断念。台湾での製作に移行したという経緯があります。近年の台湾映画の特徴として、世界中の人々に作品を見せるため、多くの受賞作が海外での劇場公開を行わず、直接Netflixでの配信を選択しているというものがあります。そうすることで、今まで中国本土を意識し、海外展開を行っていた形式が、一気に変わったんです。
Netflixでの全世界配信は、今まで届くことがなかった世界各国の観客に、アジア映画を発信することができます。これを積み重ねていけば、アジア映画は、よりグローバルでの可能性が生まれてきます。もちろん、Netflixは独占配信を重視しているので、劇場公開が難しい状況。この状況に対して、暉峻PDは「実は、大阪アジアン映画祭とNetflixが選ぶアジア映画はわりと重なるんです」と分析しました。
暉峻PD「ある意味ではライバル関係になります。昨年の『君の心に刻んだ名前』のように、Netflixより一瞬でも早く上映を決めることができるように頑張りたいと思っています。Netflix自体への抵抗感も全くないんです。Netflixは、今のアジア映画にとって、すごく大きな役割を果たしているからです」
実は、今回の「大阪アジアン映画祭」では、忘れ去られていくローカル文化の世界進出の可能性も強く感じました。中国映画市場からは、2020年の興収世界1位を記録した「八佰(原題)」だけでなく、「君のための歌」(チベット映画)、「すてきな冬」(ウイグル映画)といったさまざまな一面が垣間見える作品がラインナップされました。
グローバル化とローカルの文化――ここには、グランブリと観客賞を受賞した横浜聡子監督作「いとみち」も関わってきそうです。同作で使用された津軽弁は、ただの方言ではなく、文化として、そして“音”としても多くの観客に素晴らしい体験をもたらしました。これは日本映画界における“今後の可能性”のひとつではないだろうかと感じました。いつか詳しく書かければと思っています。
暉峻PDは「映画の配信が増え、さらに誰でも作品を配信することができる時代になっているからこそ、映画祭の本質である“作品を選ぶこと”の重要性が増していると思います。『この映画祭に選ばれたのならば見よう』という動機にもなる。その信頼性だけは失わずに続けていきたい」と「大阪アジアン映画祭」の方針を示しました。私は、来年以降の「大阪アジアン映画祭」にも大きな期待を寄せています!
最後に、私が企画・プロデュースを務めているWEB番組「活弁シネマ倶楽部」(https://youtu.be/_COzivmoixE)では、暉峻PDへのロングインタビュー(1時間超!)を実施しました。お時間がございましたら、是非ご覧ください!
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