富司純子「椿の庭」で演じた“絹子さん”は「私のベストワンじゃないかと思うほど」
2021年4月8日 13:00
写真界の巨匠・上田義彦が初めて映画監督に挑戦した「椿の庭」が、4月9日から公開される。本作は、上田監督が自身の記憶、節々の出来事で感じ取った感情を書き留め続けた“言葉”を土台に脚本を練り上げ、構想から十数年の歳月をかけて完成へと至った意欲作だ。このほど、主演を務めた富司純子が、本作への思いを明かしてくれた。
脚本、撮影も担当した上田監督は、写真家として24歳から活動をスタート。卓越した美学で撮影された作品は、国内外で高い評価を得ており、2014年には日本写真協会作家賞を受賞している。巨匠の映画監督デビュー作に主演するのは、富司とシム・ウンギョン。そのほか、鈴木京香、チャン・チェン、田辺誠一、清水紘治が脇を固めている。
椿が咲き誇る一軒の家に住む絹子(富司)と絹子の娘の忘れ形見である渚(シム・ウンギョン)、そしてそこを訪れる人々の1年間――富司が主演として映画作品に参加するのは、06年に公開された「待合室」以来のこと。参加の経緯について「上田先生から台本にする前の段階のものをいただいて、それを読ませていただいた上で了承させていただきました。本当に素晴らしい映像がどんどん目に浮かんでくるような台本だったんです。これはもうぜひやらせていただきたいと思いました。この段階でそこまで思わせてくれたのは、初めての体験です」と説明する。
富司「夫が亡くなって、長年住んでいた家を手放さなくてはいけなくなっていくというお話の中で、私自身はまだその家を一度も見ていないにも拘らず、庭であるとか木々であるとか、そういった四季折々の風景が美しい映像として感じられたんです。ですから撮影が始まってロケ地に着いたときも、すっとその家の世界観の中に入っていけました。また、実際に使用された古民家も素晴らしいと思いました。門を入ると石畳みの敷かれた正面の佇まいとか庭の風情など、すごく素敵で、また家の中に入っていくと、お台所もとてもモダンで、部屋も私の好きなものがいっぱい飾ってあったりして、すごく心地良いんです」
撮影時に印象に残ったのは、上田監督の「家に対する想いの深さ」だった。
富司「ふと見ると監督がお庭を掃除なさってたり、本当にこのおうちを愛しんでいらっしゃるんです。そこの芝生は踏まないでくださいとか、庭の石とかも。また家の中のじゅうたんや時計など、とにかく家の敷地の中に置かれたものはすべて監督の想いが込められているように私には思えてなりませんでした。また撮影中もとにかく監督はお優しくて、ワンカット終わるたびに『良かったですよ』とか誉めてくださるんです。それがとても励みになるというか、嬉しかったです」
18年から1年をかけて撮影――つまり、富司は長期にわたり“一軒家”で仕事をすることになったのだ。
富司「一軒家って現実的には主婦が大変なんです。庭の掃除や手入れくらいは自分でできても、木の手入れを植木屋さんに頼んだりといったメンテナンスなどを考えますと本当に大変です。歳とともにマンションの方が楽だなあ、なんて思っちゃう事も正直あります。ですから、ああいったおうちで1年間もお仕事させていただけたというのは、とても楽しいというか、幸せな時間でした」
また、シム・ウンギョンとの共演について「とても素敵な時間」と言い表した富司。「一緒に撮影していてすごく自然だし、可愛い人です。日本語もお上手ですし、撮影の最初の頃は本当にお忙しくて他の仕事も入ってらしたようで。それでいて日本語を一生懸命お勉強してらっしゃるのを知って、頑張っていらっしゃるなと思いました」と振り返りつつ、「私が韓国の言葉を覚えるとなったら大変ですから。でも彼女はすごく努力していて、しかもひとりで日本に来て頑張ってらして、もちろん今も素晴らしいですけれども、もっともっと素晴らしい女優さんになっていかれると思います」と思いの丈を述べている。
本作では、全編にわたり、自身の所有する着物を着用している。「着物の所作」に関しては台本通りだったようで「着物って手入れが大変で、今の時代はなかなか着物を着る人が少なくなっています。私は6歳から仕唄舞のお稽古で着慣れていたのが役に立ったと思っています」と告白。やがて“静かで厳かな現場”の様子を語り出した。
富司「最近は撮影の形態も変わってきていますが、この作品は自然光を使い、昔ながらのフィルム撮影をしています。現場はとにかく少人数でした。きっと上田監督が気に入られた腕の良い録音さんや照明さんといった精鋭の方々をお揃えになったんだと思うんです。ですからそういう中でお仕事させていただけるありがたさというものも、今回はすごく感じました」
やがて「絹子さんはもとより、女性たちを本当に素敵に撮ってくださって、女優冥利に尽きると思いました。本当に嬉しいです」と打ち明ける。絹子という役どころは「私のベストワンじゃないかと思うほどで、今後これ以上良い作品に出会えるのかなあとまで思ってしまいます」と語るほどだ。
上田監督は「移ろいゆくものの美しさを残したかった」と語っている。この言葉を受けて、富司は最後に自らの考えを述べてくれた。
富司「この映画は絹子さんだったり、陶子(鈴木)だったり、渚(シム・ウンギョン)だったり、そういう女性3人の想いを上田監督が椿を通して込められてるのではないかなという気もいたしております。本来の日本の良さをこの映画を通してわかっていただければ嬉しいなって思います」
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