オフビートな笑いで現代社会を風刺 「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」池田暁監督の独自の世界観を前原滉、きたろうが体現
2021年3月27日 10:00
ロッテルダム国際映画祭とバンクーバー国際映画祭でグランプリを受賞した「山守クリップ工場の辺り」(13)の池田暁監督が、いつの時代ともわからない架空の町を舞台に、不条理な世界で生きる人間たちをユーモラスに描く最新作「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」が公開した。オフビートな笑いで現代社会を風刺した池田監督と、まじめな兵隊を演じた前原滉、軍の楽隊の指揮者を務めたきたろうが、今作の独特の世界観について語った。
川の向こう岸にある町と、毎日、朝9時から夕方5時まで目的も分からない戦争を何十年も続けているとある町が舞台。兵隊たちは棒読みのような抑揚のないトーンで会話し、歩くスピードや所作も古めかしいロボットのように人間らしさに欠けている――。
池田監督は「表現方法はリアルじゃないですが、実はリアルな世界のことを描いています。でもそれをリアルの現代の世界でない方が面白くできるし、テーマ的なものを押しつけるようなこともしたくない。そういう勝手な世界をつくれば何でもできる。自分のやりたいことを自由に詰め込んだ作品」と語る。
そんな不思議な世界を描いた脚本を読み、撮影前は「池田さんの世界観に自分が飛び込めるか不安があった」と吐露する前原。「出演のオファーをいただいたとき、いつもは人に相談することはないのですが、今回初めてマネージャーさんに『このチャレンジはどうですかね?』って、聞きました。過去の池田監督の過去の短編を見返していたらワクワクしてきて、池田さんとの化学反応がどうなるのか想像できなかったのが楽しかった」と好奇心とともに飛び込んだ。
池田監督にとって“笑い”の大先輩でもあるきたろうは、池田監督の短編「化け物と女」(18)に続く出演。「池田監督の基本的な笑いのテイストが好きなの。読んだ瞬間からおかしくておかしくてしょうがないの」と絶賛し、「でも、そのおかしさが分からない人が多いだろうな、とも思ってて。こういうおかしさを表現する人はあまりいないから。でも俺には全部わかる」とその類い稀なセンスに太鼓判を押す。
寓話的なトーンを出すために、登場人物の演技に関して「この映画の中のルールみたいなものを決めた」という池田監督。セリフもノーアドリブで進めた。「もちろん、役者さんのやりたいようにやっていただきましたが、リミットを超えた時に『それは違います』と幅を決めていました。その幅を皆さんが理解してくださって、その中に収まって、楽しんでくださった。その幅は感覚的なもので、皆さんに言葉では説明できないのですが、徐々に共有していけるようになった」と振り返る。
前原ときたろうのほか、石橋蓮司、竹中直人、嶋田久作、片桐はいりら錚々たる個性派俳優陣が顔を揃える。池田監督は「妖怪のような個性的な方が好きなんです。僕は水木しげるさんの漫画がすごく好きで。妖怪と人間の境界ってあいまいなもの。だから役者は人間でも妖怪でもどっちでもいいんです(笑)」と独特なキャスティングの基準を明かす。
そんな大御所たちに囲まれた前原は「名だたる方たちが参加されていて、『俺はこういう風にやりたい』と言ったら通せる方たちなのに、池田さんの世界に楽しみながら乗ってるのが印象的。そんな先輩の背中を見られたのが、すごく幸せだった」と述懐し、「池田さんの感覚の中で会話する。その理由を言語化して説明しないことも面白いと思いますし、それが逆に自由だったりもする。(劇中の独特な)ああいう話し方をすると、開いている感じがするんです。きっとこうだろうな、と予測できるのとは違った、意外な方向から感情がわいてきたり。自分の中にも、見ている側にも余白が多い豊かな作品だと思います」と本作独自の魅力を語る。
きたろうは「ただ、万人に受けるかどうか、っていうのが非常に難しいところでね。メジャーでお客さんがいっぱい入ることは予想できない」と、ストレートに評しながらも、「そこが心配だけど、俺はめちゃくちゃ面白い。たとえばお客さんがたくさん入る劇団を見ても、俺は『これのどこが面白いの?』っていうのがいっぱいある。そういう感覚は大事にしたい。少数だけど、こういう作品を面白がってくれるような社会になってくれればいいなと思う」と期待を込める。
きたろうの言葉を受けた池田監督は「僕もメジャーになる気はしません(笑)。もちろん、お金はあればあるほど撮影は楽になると思います。でもいろんな映画があっていいと思うんです。こういう映画もあっていい気がしていて。受け入れていただけるのであれば、これからも撮っていきたい」とあくまでマイペースに、我が道を貫く決意を新たにしていた。
「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」は、東京・テアトル新宿で公開中、全国順次公開。
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