【「SLEEP マックス・リヒターからの招待状」評論】寝てもOK、起きて鑑賞するもOK、睡眠セラピーのような映画体験
2021年3月21日 17:30

この映画を見てからというもの、私は寝室で、毎日マックス・リヒターの音楽を聞きながら眠る習慣になりました。本当にぐっすり眠れるんですよ。個人的に、2021年1Q(1月?3月)のベストフィルムです。
映画の冒頭、ロサンゼルスの市庁舎が夜景に浮かび上がっています。市庁舎のふもとに広がる公園に並べられているのは、夥しい数のベッド。観客がひとり、またひとりと現れてベッドに横たわります。彼らはベッドでコンサートを鑑賞するのです。寝ながら聞くコンサート。
演奏される楽曲は「SLEEP」。音楽家マックス・リヒターが作曲した8時間の子守歌です。聴衆は、もちろん寝るもよし、静かに聞くもよし、周囲をうろうろしても問題ありません。しかしこれ、ちょっと考えると、とんでもないイベントだということに気づきます。
だって、作曲家とか演奏家がコンサートを行うってことは、演奏を聴衆に聞いて欲しいわけですよね。だけど彼らは、聴衆に安眠を提供するために演奏を行うのです。リヒター本人は静かにピアノを弾き、ストリングスはゆっくりと静かに低音を奏でる。「情熱大陸」の葉加瀬太郎のヴァイオリンとは180度逆の、抑えた弾き方をひたすら続けるわけで、相当の肉体的な負担を伴うことは想像に難くありません。演奏者は交替で休憩を取ってはいるものの、深夜から早朝まで8時間も演奏を続けるのです。
マックス・リヒターは「普通は演奏を聞いてもらい、主題を伝えようとする。だけど『SLEEP』は、寝ている人たちが主題なんだ」と。凄い発想です。カテゴリー的には現代音楽の部類ですが、私たちが若いころの現代音楽は「ギギギー」とか「ガラガラゴローン」といった、癇にさわるような前衛音楽が主流でした。しかし、今どきの現代音楽はマインドフルネスに満ちている。
実はマックス・リヒターは、映画音楽も作っています。「戦場でワルツを」や「アド・アストラ」など、スコアを担当した映画もいくつかありますが、個人的には「メッセージ」のオープニングとエンディングに使われた音楽が印象的でした(「メッセージ」のスコア自体はヨハン・ヨハンソン)。
これは「On The Nature Of Daylight」という曲で、映画のために書き下ろされたのではなく「Blue Notebook」というアルバムに収録された楽曲ですが、「メッセージ」では非常にうまく使われていました。見る者のエモーションをかき立てるんです。
本作「SLEEP」では、シドニーのオペラハウスや、アントワープの聖母大聖堂といった世界の名所で行われた「SLEEP」の公演の模様が紹介され、夜が明けた早朝のロサンゼルスにおけるフィナーレで終了します。女性ヴォーカルによる神々しい独唱で目覚めを迎えた観客(爆睡を続けている人も大勢いる)が、スタンディングオベーションを贈るシーンで、オンライン試写で見ていた私も、ひとりで立ち上がって拍手をしていました。マックス・リヒター、最高かよ。
この人、ドイツ系イギリス人なんですが、13歳でクラフトワークの「アウトバーン」を聞いて「雷に撃たれたような衝撃を受けた」って告白を聞いて、ますます大好きになりました。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
映画ラストマン FIRST LOVE
「ドラマの映画化か~」と何気なくつぶやいたら後輩から激ギレされた話「これ超面白いですから!!」
提供:松竹
筋肉・秒殺・脱獄・名作でストレス即・爆・散!!
【全部無料の神企画】最強映画フェスで自分を劇的チェンジ!! 1年の疲れを吹き飛ばそう!!
提供:BS12
“愛と性”を語ることは“生きる”を語ること
【今年最後に観るべき邦画】なじみの娼婦、偶然出会った女子大生との情事。乾いた日常に強烈な一滴を。
提供:ハピネットファントム・スタジオ
こんなに面白かったのか――!!
【シリーズ完全初見で最新作を観たら…】「早く教えてほしかった…」「歴史を変える傑作」「号泣」
提供:ディズニー
映画を500円で観よう
【2000円が500円に】知らないとめっっっっっっっちゃ損 絶対に読んでから観に行って!
提供:KDDI
今年最大級に切なく、驚き、涙が流れた――
双子の弟が亡くなった。僕は、弟の恋人のために“弟のフリ”をした。
提供:アスミック・エース
ズートピア2
【最速レビュー】「前作こえた面白さ」「ご褒美みたいな映画」「最高の続編」「全員みて」
提供:ディズニー