第71回ベルリン国際映画祭がオンラインで開幕 コンペはトム・シリングが主演作で熱演
2021年3月5日 16:00

第71回ベルリン国際映画祭が、3月1日から5日にわたりオンラインで開催された。今年はパンデミックの影響で、開催を2回に分け、3月は業界向けにオンラインのみ。そして状況に変化がなければ、6月に2回目の開催を一般観客向けにフィジカルにおこなうと発表している。
コンペティションに選ばれたのは15本。日本から濱口竜介の「偶然と想像」が入選したほか、ホン・サンス、レバノンの注目の若手コンビ、ジョアナ・ハッジトマス&ハリール・ジョレイジュ、フランスのセリーヌ・シアマとグザビエ・ボーボワなどが並ぶ。またドイツ映画は4本と目立ち、ともに俳優として知られるダニエル・ブリュールとマリア・シュラーダーそれぞれの監督作、トム・シリングが主演するドミニク・グラフの新作、3時間37分のドキュメンタリーとして注目を集めるマリア・スペス監督作などがある。
招待作品には、ティナ・ターナーのドキュメンタリー「Tina」、アカデミー賞の呼び声も高い「ザ・モーリタニアン(原題)」、ミシェル・ファイファーとルーカス・ヘッジズ共演の「French Exhit」、「マーティン・エデン」のピエトロ・マルチェッロ監督がイタリアの人気歌手ルチオ・ダルラを取り上げた新作ドキュメンタリー「For Lucio」など。規模は小さいながらも、「エンカウンターズ」「パノラマ」「フォーラム」「ジェネレーション」部門なども例年通り存在する。
もっとも、映画祭ディレクターのカルロ・シャトリアンは、オンライン開催への切り替えがセレクションに影響を及ぼしたと語っており、出品側は違法ダウンロードを恐れたり、フィジカルな開催の可能性を求めて他の映画祭に乗り換えようとする動きがあったようだ。たしかに今回はビッグネームに欠けることは否めない。

初監督作となったブリュールの「Next Door」は、彼自身の原案による、俳優を主人公にした風刺的なコメディ。自分のことしか願中にないナルシストの俳優が、じつは隣人に私生活が筒抜けだったとい物語を、ブリュールが自虐的ユーモアを込めて演じきる。業界裏話のような要素や、徐々に真相が明らかになるセリフの応酬に妙味がある。シュラーダーの「I’m your man」は、理想の恋人をロボットで注文できたら、というアイディアがユニークなものの、いまひとつ映画的な醍醐味に欠ける印象を拭えない。一方、ナチスにより発禁、焼却されたエーリッヒ・ケストナーの原作を映画化したグラフ監督の「Fabian Going to the dogs」は、20から30年代の退廃したベルリンを舞台に、希望を失った若者たちの姿を、めくるめく映像スタイルと情報量で表現した野心作。とくにシリングの熱演には、男優賞候補の声もあがった。

ワールドプレミアの「Tina」は、元夫アイク・ターナーのDVを乗り越え、アーティストとして女性としてみごとにサバイブしたティナ・ターナーの横顔に迫る。あくまでオーソドックな手法だが、本人の生き様があまりに凄まじく、彼女の発言も率直なだけに、もう他のものはいらないと思わせられる迫力に満ちている。
映画祭の各受賞は5日に発表され、6月の第2弾で受賞作品が一般上映される予定だ。(佐藤久理子)
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