菅田将暉&有村架純、坂元裕二の“役者が生きられる脚本”で積み上げていった2人の時間
2021年1月30日 16:00
「東京ラブストーリー」「それでも、生きてゆく」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」など、数多くの名作ドラマを手掛けてきた名脚本家・坂元裕二。初めて映画オリジナルのラブストーリーを手掛けた「花束みたいな恋をした」では、とある男女が過ごした“最高の5年間”を鮮やかに描出している。主演を務めたのは、「何者」以来4年ぶりの映画共演となった菅田将暉と有村架純。2人は、坂元が紡いだ「役者が生きられる脚本」とどのように向き合っていたのだろうか。(取材・文/編集部、写真/間庭裕基)
物語の始まりは、2015年。大学生の山音麦(菅田)と八谷絹(有村)は、東京・京王線の明大前駅で、終電を逃して知り合った。“好きなもの”が同じだった2人は恋に落ち、大学卒業後、フリーターをしながら同棲スタート。現状維持を目標に就職活動を続けるが、月日が経つにつれ、麦と絹の「生活」に陰りがさしていく。
坂元が映画脚本を手掛けたのは、10年以上前のこと。本作は、20年の付き合いとなるプロデューサー・孫家邦氏の後押しもあり、企画実現へと至っている。そして「麦と絹の物語」が形作られるまでに、「問題のあるレストラン」でもタッグを組んだ菅田からの要望が反映された。それは「ラブストーリーがやりたい」というものだった。
菅田「なんでそんなこと言ってたんでしょうね? 当時、ずっと言ってたんですよ。20代後半にさしかかり、ちゃんとラブストーリーをやってみたいという思いが出てきたのかもしれません。ちょうど『カルテット』を見た直後だったと思いますが、坂元さんとある授賞式でお会いしたんです。それまでにも何度かお会いする機会があって、お話することがありましたけど、その場で伝えたんです。『ラブストーリーがやりたいです』と」
やがて、仕上がった脚本を手にすることになった菅田。初見の感想は「くらいましたね」と唸るしかなかったようだ。
菅田「麦と絹の日常って、誰にも見られていないわけじゃないですか。でも、それを坂元さんは“知っている”。2人がカラオケで歌っている曲ひとつにしても、それは『本当に僕らが歌った曲』なんです。何故この感覚をわかっているのか……それが本当に不思議でした」
前述の「役者が生きられる脚本」という表現は、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」に出演した有村が、書籍「脚本家 坂元裕二」(ギャンビット刊)で行った坂元との対談で用いたものだ。本作の脚本でも、その思いは「変わりません」と話した有村。「(役を)変に作り込まなくていいというか、特にギアをあげなければならないということもないんです。(脚本の内容は)自分たちの生活と地続きで、その延長線上にあるという感覚を抱きました」と語る。
では、その脚本を基に、麦と絹の「恋模様」と「生活」をどのように築き上げていったのか。
有村「大切だったのは、芝居の場でどうこうするというよりも、それ以外の部分で、どこまで時間を共有できるかということ。ほぼ毎日、朝から夜までずっと一緒にいたんですが、約1カ月半という撮影期間で、5年分の光景を演じなければなりません。だからこそ、互いに歩み寄っていった部分はあると思います」
撮影は、ほぼ順撮りで進行。菅田将暉として、有村架純として、積み上げていった“2人の時間”が、麦と絹という架空の人物を形作っていく。
菅田「時間の共有――それでしかなかったんです。何気ない会話のなかで『こういうものが好きなんだな』『それは、よくわかる』『それはちょっとわからない』なんて思いが交わされていくじゃないですか。そういうやり取りって、意外と他の現場ではやらない作業なんです。でも、麦と絹には、それが必要だった。劇中同様、撮影を重ねるごとに、仲良くなっていきました」
坂元作品の特徴のひとつとして、固有名詞や実在の場所を取り入れるというものがある。本作でも、その要素を踏襲。押井守が“本人役”で登場するだけに留まらず、お笑いコンビ「天竺鼠」のワンマンライブが重要なキーとなり、脚本には巻数の指定もある「ゴールデンカムイ」「宝石の国」といった漫画群、早稲田松竹や下高井戸シネマといった映画館の名前、「きのこ帝国」「Awesome City Club」「フレンズ」の楽曲、さらには実在の小説家たちの名前が頻出し、芥川賞作家・今村夏子氏の新作が発表されたという下りで、文学ムック「たべるのがおそい」までも登場する。驚くべき点は、ここで紹介したものが“ほんの一部”でしかないということだ。
菅田「よくこんなにカルチャーを取り入れましたよね。“崎山蒼志”がセリフとして出てくるんですよ? 『崎山蒼志さん、ベイキャンプで見ました』なんて……彼の名前をセリフとして取り入れた最速の映画だと思います(笑)。(役作りには)めちゃくちゃ役に立ちました。想像する部分が減りますし、既に“モノ”がそこにあるんですから」
有村「麦君の家には、ルービックキューブとか、ガスタンクの模型とか、本当に色々あるんです」
菅田「登場する漫画に関しては、実際に読んでいたものばかり。だからこそ、例えば『ゴールデンカムイ』の何巻の展開はどうだという下りが、凄く共感できるんです」
有村「(麦と絹は)お笑いが好きで、本も音楽も好き。エンタメをこよなく愛する良いお客さんなんです(笑)」
製作期間中、坂元とは何度も話す機会があったという。どのような印象を抱いたのだろうか。
有村「坂元さんは“恋愛モノ”を書く時『起承転結といったわかりやすいところ以外の部分で、いつも勝負をしている。そこが僕の課題なんだ』と仰っているんです。だから、ラブストーリーは、坂元さんにとっての挑戦。普通だったら流し見してしまいそうなものにも、常日頃からアンテナを張っている方なのかもしれません」
菅田「大ベテランのはずなのに、まるで同世代のようなことを仰られることもあるんです。じっとして色々なものを感じている印象です」
有村「喫茶店にいそうだよね。町中の喫茶店」
菅田「いそうだよね。やっぱりファミレスとか好きなんだろうなぁ」
菅田が言及したファミレスは、坂元作品に頻出する重要な場所だ。本作でも「ジョナサン」を舞台に、脚本の力をまざまざと感じさせるシーンが展開していく。麦と絹が希望の一歩を踏み出した場所は、菅田と有村が芝居に臨んで「苦しかった」と述べるほど、がらりと意味合いが変容してしまうのだ。
2008年「猟奇的な彼女」で初めて坂元脚本の演出を担当し、「カルテット」ではチーフプロデューサーを務めた土井監督。菅田は「(本作は)土井さんじゃないとできなかった」と断言する。
菅田「現場ではイキイキされていました。僕自身、ラブストーリーにおける“ドギマギ感”とか“テンパリ感”をあまり経験してこなかったから、どうしようかと探っていた部分があったんです。でも、現場に行って土井さんと喋っていたら、全部スムーズにできたんです。土井さんのチャーミングさのおかげですね」
有村「土井さんって、たまに現場でお芝居をしてくれるんですよ。それが愛らしい(笑)。ちゃんと自分たちにも寄り添ってくれて、それだけじゃなく、スタッフさんたちにもしっかりと寄り添ってくれる。心根が愛情深くて優しい方なんです」
土井監督とは「映画 ビリギャル」でもタッグを組んだ有村は、さらに技術的な側面に触れていく。その指摘には、菅田も頷くばかりだった。
有村「編集点の余韻をきちんと残してくれるんです。役者が自分たちで考える、感じることができる“余白”をくれる。だから、良いんです。土井監督の手掛けたドラマを見ていてもそうですし、映画でも全く同じ。人によって、その部分が全然異なりますから」
菅田「確かに! 喋ってない部分でも、ちゃんと使ってくれるもんね。今回の作品、編集の仕方では(5年間の)ダイジェストになってしまう可能性があるんですよ。それをスパっと切る部分と、余韻を残す部分をきちんと押さえている。だから、物語が“響く”という形になっているような気がします」
封切りは、1月29日。いまだ新型コロナウイルスを巡る状況は、好転したとは言い難い。2人はコロナ禍での公開について、どう感じているのだろうか。
菅田「コロナ禍を通じて『人と会う』という事の見方が変わりました。この映画が描いているのは、恋愛だけに限りません。人と人が盛り上がって通じ合う瞬間、触れ合うこと自体の面白さのようなものが詰まっています。カップルで観ようと、ひとりで観ようと、また独身の方、既婚者の方、劇中のような経験をしたことがない十代の若者、それぞれで見え方が異なってくるはず。意外とコアなものを映しているのに、万人受けするような気がしています。“触れ合い”が増える映画になるんじゃないかな――そうなってくれるといいなと思っています」
有村「簡潔にいうと“大事なこと”を教えてくれるお話なのかな。会いたい時に会えて、手に触れたい時に触れて、抱きしめたい時に抱きしめられる。今の世の中では簡単にはできない、その単純でストレートな愛情表現が映されているんです」
菅田「きちんと好きなものがある人たちの話――そこが結構好きなんです。今は色々なカルチャーがあふれているだけに、他人が好きなものを追いがちです。だけど、麦と絹は、自分の好きなものがきちんとあった上で出会っている。だから、深いところまでいくんです。そういう意味では、十代の方々に見て欲しいです」
花束みたいな恋をした。「一体、どういう意味なのだろう」と考え込んでしまう不思議なタイトルだ。麦と絹の会話のなかで、こんなエピソードが語られる。「女の子に花の名前を教わると、男の子はその花を見るたびに一生その子のことを思い出しちゃうんだって」。エンドロールが流れる頃、実感するはずだ。麦と絹の“最高の5年間”を的確に表す「“最高のタイトル”だった」ということを――。
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