【コラム/細野真宏の試写室日記】劇場版「鬼滅の刃」のメガヒットで、どの会社に、いくら利益が出るのか?
2020年11月12日 14:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
このコラムは、基本は週末公開作品を取り上げますが、今は日本の映画史上で類を見ない状況が起こっているため、小規模でも注目したい作品は映画.comのプロレビュアーアカウントのほうで随時紹介し、こちらでは劇場版「鬼滅の刃」を題材に考察したいと思います。(なお、次回は「STAND BY ME ドラえもん2」を取り上げます)
「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は公開24日目で興行収入204億8361万1650円と、超最速で200億円を突破しました。
これは、これまで数々の歴代1位の記録を持っていた「千と千尋の神隠し」でも公開25日目に興行収入100億円だったので、いかに今回の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が異例なのかが分かると思います。
しかも、公開わずか24日目で見事に「歴代興行収入ランキング5位」にまでなっています。
さて、今回の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」のメガヒットで配給の東宝の利益が大きく上がるから東宝の株価が上がる、といった記事をよく見かけます。これは間違いとまでは言えないものの、少し違和感があります。
なぜなら、東宝は、「共同配給の1社」に過ぎず、「製作委員会に入っていない」からです。
この辺りの仕組みがキチンと分かるように、今回は「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」のメガヒットでお金の流れはどうなるのか、を解説します。
最初に押さえておきたいのは、映画の上映においては、主に「配給会社」、「興行会社(映画館)」、「製作委員会」が直接、利益を得られます。
まず、基本的には興行収入(チケット代)の半分が映画館に行きます。
もし「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の興行収入が350億円になるまで大ヒットしたとしましょう。
そうなると、175億円が全国の映画館の売り上げになるわけです。
これは、例えば、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言で全国の映画館が止まっていた際に、「ミニシアター・エイド基金」が立ち上げられ、2020年4月13日から5月15日までに3億3102万5487円を集めました。
3億円超と大きい金額ですが、参加団体数117劇場・102団体なので、1団体あたりの平均額は306万円となったようです。
しかも、3人に2人が主に「未来チケットコース」という入場券の先払いの形だったので、この306万円が丸々寄付されたわけでもなかったのです。
こうして考えると、今回メガヒットした「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は、窮地に陥っていた全国の映画館にとって救世主的な作品だったと言えると思います。
ちなみに、こういうメガヒット作品が出た時には、その作品の配給会社がどこであろうと、東宝や松竹、東映などの決算報告書に載ることになります。
これはどういうことかと言うと、要は東宝や松竹、東映などは興行会社(シネコンチェーン)も持っているので、自社が配給に関与していなくても、そのメガヒット作品を自社系列の映画館で上映することによって利益を得ることができているためなのです。
つまり、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」のメガヒットによって、東宝だけではなく、松竹、東映なども利益を上げることができるわけです。
では、興行収入350億円のうち、残りの175億円はどうなるのでしょうか?
ここで「配給会社」が出てきます。
まず「配給会社」が175億円のうち20%の35億円を受け取ります。
さらに、今回の配給は、東宝とアニプレックスの共同配給なので、通常は半々となり、その場合は東宝の取り分は17.5億円、アニプレックスの取り分は17.5億となります。
つまり、もし「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が興行収入350億円のメガヒットをしたとしても、冒頭の記事のように東宝が大儲けするわけではなく、あくまで(TOHOシネマズを除くと)東宝の取り分はここまでになるのです。
それでは、残りの140億円はどうなるのでしょう?
ここで「製作委員会」が出てきます。
「製作委員会」とは、作品を作るときに出資をした会社の集合体で、映画がコケてしまえば損失を抱えることになりますが、逆に映画がヒットすれば利益が出ることになるのです。
今回の「製作委員会」は、アニプレックス、集英社、ufotableの3社となっています。
大まかに言うと、この3社で140億円を分けるのですが、その前に、支出となっている「映画を作った制作費」、「映画を宣伝するための広告費」の清算が必要になります。
「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は、非常に作品のクオリティーが高いので、あくまで想像ですが、制作費は5億円程度と想定されます。
また、広告費は2億円程度と想定されます。
その場合は、利益が133億円となります。(制作費は、アニメーション制作をしたufotableに入ることになります)
さらに、利益の10%にあたる13億円が「制作成功報酬」としてufotableに入ると想定すると、残った利益120億円を製作委員会の出資比率に応じて分けるわけです。
出資比率は、あくまで想像ですが、おそらくアニプレックス45%、集英社45%、ufotable10%と想定されます。
その場合は、アニプレックス54憶円、集英社54億円、ufotable12億円となります。
基本は、このようになりますが、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の場合は、アニプレックスが得意とする入場者プレゼントが今週末から始まるので、この制作費用などは映画館に来た観客への「利益還元」という意味合いを持ちます。
つまり、「アニプレックス54憶円、集英社54億円、ufotable12億円」から、出資比率に基づいて、入場者プレゼントの制作費が引かれていくことになるわけです。
いずれにしても、アニメーション作品を多く手掛ける会社である「アニプレックス」の利益は大きく、「アニプレックス」はソニーの子会社なので、「アニプレックス」の業績がソニーの決算に上方修正をもたらしたのにも納得がいきます。
また、原作本の権利を持っている「集英社」も出版不況が囁かれる今、かなりの大きな利益につながったことが分かります。
そして、アニメーションを実際に作った「ufotable」は、この成功によって、さらに人材育成にもお金をかけることが可能になります。
「ufotable」の作品は非常にクオリティーが高いのですが、その原動力になっているのは、エンドクレジットからも分かるのです。
他のアニメーション作品においては、原画はさておき、動画に関しては外注は当然で、東南アジア系に任せている場合も少なくありません。
ところが、「ufotable」の作品の場合は、動画も「ufotable」に所属する人が担当している割合が多く、キチンと人材教育がなされていることがここからも読み取れるのです。
今回のようにクオリティーが非常に高い作品を作った会社がキチンと報われるような仕組みになっていて、今後にも期待できそうな結果になりそうで、作品のファンにとっても映画業界にとっても良い状況が生まれそうです。 (もちろん、原作者にも契約に従って、キチンと利益が行くようになります)
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