【コラム/「賞レースのユクエ」byオスカーノユクエ】史上初!秋の重要映画祭スイープを成し遂げた「ノマドランド」はこのままアカデミー賞も制するのか?
2020年11月6日 18:00
この映画祭がユニークなのは、もっとも注目を浴びる最高賞が、お祭りに参加する人たちの投票によって決まる“観客賞”であること。カンヌやヴェネチアといった権威ある映画祭が、プロの審査員によって選ばれるのとは対照的だ。しかし、一般の参加者によって決められるこの観客賞は、他のどんな賞よりもアカデミー賞を占う眼力に優れている。
過去20年、トロント国際映画祭で観客賞を受賞した作品がアカデミー賞作品賞にノミネートされたのは実に12回。ノミネート確率は驚異の60%にのぼる。そのうち受賞に至ったのは4作品で、一昨年は全くノーマークだった「グリーンブック」を見事にすくい上げている。
そんなトロント観客賞を今年受賞したのが「ノマドランド」だ。60歳を過ぎて夫と死別し、職を失った女性が現代の遊牧民=ノマドとなって生きる姿を描いた作品で、静謐な画面から発せられる力強いメッセージに多くの賛辞が寄せられた。
このトロントでの戴冠だけでもオスカーレースで主役を張る資格十分なのだが、そのわずか1週間ほど前、「ノマドランド」は世界三大映画祭のひとつであるヴェネチア国際映画祭の最高賞(金獅子賞)をも手中にしている。毎年9月に行われる両映画祭はイベントとしての性格も、選ばれる受賞作の性質もまったく違っており、だからこそ同じような時期での開催にもかかわらず、それぞれが独自の存在感を保っている。
それが、今年は両映画祭の最高賞が史上初めて一致するという“事件”が起きた。後発のトロント国際映画祭が誕生した1978年から42年間、ただの一度も受賞作が被っていなかったのだから、「ノマドランド」が成し遂げた秋の重要映画祭スイープはとんでもない快挙と言っていい。
ちなみにヴェネチア国際映画祭金獅子賞とアカデミー作品賞の一致は、過去20年でノミネート4回、受賞1回(「シェイプ・オブ・ウォーター」)。トロント観客賞に比べれば決して一致率は高くない。ただ、ここ3年は連続してアカデミー作品賞ノミネートを輩出しており、その影響力は以前よりも増していると言えるだろう。
そんなわけで、現時点の前哨戦実績では「ノマドランド」が一人勝ち状態なのだが、この作品には、このままアカデミー賞を席巻するに足るさらに大きな強みがある。
その強みとは、女性プロデューサーの主導による女性監督の映画であること。この映画はそもそも、主演も務めるフランシス・マクドーマンドが原作本の映画化権を獲得したことから始まっている。そして、2017年のトロント国際映画祭で出品作「ザ・ライダー」を観たマクドーマンドが、中国生まれの女流監督クロエ・ジャオという才能を発見し、本作の監督をオファー。その後、マーベルにもその才能を認められて新作映画「エターナルズ」のメガホンを任されるジャオ監督の参加が、「ノマドランド」を唯一無二の個性あふれる映画へと導く決定的な要因となった。
ここ数年のアカデミー賞は、“白すぎるオスカー”問題に端を発する偏った投票母体の改善が進められている。老齢の白人男性ばかりだったアカデミー協会の構成は、少しずつだが女性会員の割合も大きくなってきた。また、Me Too問題を経て、業界内での女性の地位向上がこれまで以上に大きなテーマになっている。
このような状況下で「ノマドランド」のような作品が生まれたことはある意味必然だが、一方でこうした女性映画が黙っていても増えていくと考えるのは楽観にすぎるだろう。「ノマドランド」がアカデミー賞を受賞すれば、後続の女性クリエイターたちにこれ以上ない勇気と機会を与えることになる。こうしたメッセージもまた、アカデミー会員たちの投票意欲を刺激することになるのは間違いない。
「ノマドランド」はこのまま本年度のアカデミー賞を制することになるのか? 現時点での回答はYES。これから公開される作品たちにとって、「ノマドランド」は高く高くそびえ立つ壁になることだろう。
▼トロント国際映画祭 観客賞 過去20年
◎グリーンブック
◯スリー・ビルボード
◯ラ・ラ・ランド
◯ルーム
◯イミテーション・ゲーム
◎それでも夜は明ける
◯世界にひとつのプレイブック
私たちはどこに行くの?(レバノン)
◎英国王のスピーチ
◯プレシャス
◎スラムドッグ$ミリオネア
イースタン・プロミス
ベラ
ツォツィ
ホテル・ルワンダ
座頭市
クジラの島の少女
アメリ
◯グリーン・デスティニー
▼ヴェネチア国際映画祭 金獅子賞 過去20年
◯ROMA ローマ(メキシコ)
◎シェイプ・オブ・ウォーター(アメリカ)
立ち去った女(フィリピン)
彼方から(ベネズエラ)
さよなら、人類( スウェーデン)
ローマ環状線、めぐりゆく人生たち(イタリア)
嘆きのピエタ(韓国)
ファウスト(ロシア)
SOMEWHERE(アメリカ)
レバノン(イスラエル、フランス、ドイツ)
レスラー(アメリカ)
ラスト、コーション(中国)
長江哀歌(中国)
◯ブロークバック・マウンテン(アメリカ)
ヴェラ・ドレイク(イギリス、フランス、 ニュージーランド)
父、帰る(ロシア)
マグダレンの祈り(イギリス)
モンスーン・ウェディング(イタリア)
チャドルと生きる(イラン)
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