「きみの瞳が問いかけている」吉高由里子と横浜流星が身を捧げた、心揺さぶる圧倒的な“純愛”と“赦し”の物語
2020年10月24日 11:00
「彼女の目が問い掛けている。僕は答えなければ」――シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」に登場する、この美しいセリフをタイトルに冠した三木孝浩監督作「きみの瞳(め)が問いかけている」。不慮の事故により視力と家族を失った女性・明香里と、過去の罪に囚われ、キックボクサーとしての将来が絶たれてしまった青年・塁の恋を描いている。ふたりの甘く、狂おしいほどの純愛をスクリーンに焼きつけた吉高由里子と横浜流星に、話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/依田佳子)
原作は、チャールズ・チャップリンの名作「街の灯(1931)」にインスパイアされた韓国映画「ただ君だけ」。ある事件により心を閉ざした塁(横浜)は、かつて将来を有望視されていたキックボクサーだったものの、今は日雇いバイトで食いつなぐ日々を送っている。ある日、駐車場の管理人をすることになった塁は、目が不自由な明香里(吉高)と出会う。年齢に気付かず塁のことを「おじさん」と呼び、話しかけてくる明香里の屈託のない笑顔に、心を開いていく塁――暗闇だった人生が優しい光に照らし出されるように、ふたりは次第に惹かれ合っていく。しかし、彼女のある告白を聞いた塁は、彼だけが知るあまりにも残酷な運命の因果に気づいてしまう。
「僕等がいた」2部作(三木監督)以来となる恋愛映画で主演を務めた吉高。実年齢(現在24歳、撮影時23歳)に近い年の塁を演じた横浜。本格的な大人のラブストーリーである本作に、ふたりは並々ならぬ思い入れを抱いていたという。
吉高「悲しいところも苦しいところもある作品です。ふたりが自分を赦(ゆる)す過程や、赦すことでしか前に進めない現実的な部分や、報われない過去や、一方でふたりだけの柔らかい優しい世界も描かれていて……。いろんな表情を持った作品で、自分の中では新しい経験ができたので、大事にしています」
横浜「これまでは学生の役が多かったんですが、本作は実年齢に近いので、そういった部分で役に入りやすかったです。自分にとっても初挑戦となる作品だったので、思いはすごく強かったですし、『乗り越えてみせるぞ』という気持ちでやっていました。僕自身もすごく、いろいろ学ぶことが多かったです」
ふたりの思い入れの深さには、もうひとつ理由がある。それは、それぞれ“初挑戦”となる役どころに取り組んだことだ。視力を失った女性という難役を演じた吉高は、三木監督とともに盲学校や、視覚障がい者生活支援センターへ取材に行き、役づくりに生かした。
吉高「視覚障がいのある方たちと話して、感覚を探りながらやっていくのは難しかったですね。三木監督も『正解は分からない』とおっしゃっていたので、感覚で進めていくしかないなあ、難しいなあと思っていました。会話シーンでも、相手の目を見られない。どういう表情をしているのか、見たいのに見られないところが厳しかったですね」
様々な困難にぶつかりながらも、吉高は普段から相手と目を合わせずに会話をする練習を重ねたり、オフの日には白杖をついて歩き、目隠しして料理をしたりと、ユニークな方法で役と向き合った。
吉高「見えないぶん、視覚以外の感覚が研ぎ澄まされました。指先の感覚が鋭くなったり、ちょっとした物音に敏感になったり。例えば見えない状態でドアまで行こうとすると、怖くて小股になっているので、(普段と)同じ歩数でもドアが遠かったり。家の中でも、恐る恐る動いていましたね」
一方、中学時代に極真空手の世界大会で優勝した経歴を持つ横浜は、念願だったというアクションシーンに挑んだ。撮影前2カ月にわたりキックボクシングのプロに特訓を受けるだけではなく、筋肉を10キロ近く増やし、強じんな体を作り上げた。
横浜「自分の特技をこの仕事で生かすことができることは、すごく幸せなことだなと思います。やるからには並大抵ではない本気さ、リアルさをしっかりと、最大限出していきたいと思いました。そしてアクションの見せ方だけじゃなくて、戦っている中での思いや覚悟、そういう感情をのせて演じられたらいいなと思っていました」
難しい役どころと向き合い、劇中の明香里と塁そのままに、純愛に身を捧げたふたり。それぞれ作品への姿勢は、お互いの目にどのように映ったのだろうか。
吉高「(横浜さんは)もともとアクションのイメージがあったので、『できる』と分かっていましたが、今回は過酷な課題じゃないですか。体重を10キロ増やしたり、トレーニングしたり、見ているだけで体の変化が分かりましたし、すごい努力しているなと思いました。誰にでもできることじゃないと思います。この作品と並行してドラマ(『4分間のマリーゴールド』)もやっていたんですよ。(ドラマでは)料理上手な男の子を演じている柔らかい作品だったので、(役どころが)両極端な時期だったと思います。空き時間を見つけてはキックボクシングの練習をされていたみたいで。ちょっと休む時間があったら挑もうとするストイックな姿勢が素晴らしいなと、尊敬しています」
横浜「(吉高さんは)努力を見せない人。『私、こんなに頑張っている』というところを見せない。それで、さらりとやる」
吉高「違うんだよ~(笑)! 不器用人間です(笑)」
横浜「じゃあ不器用人間なのであれば、こちらに『私はすごい努力しているんだ』というのを見せないでやるから、すごいな~と思ってました」
目が不自由で、視覚以外の感覚が敏感になっている明香里の世界を表現しているかのように、劇中には五感が刺激される演出や仕掛けがちりばめられている。まさに全身で惹かれ合っていくふたりの浮き立つような恋心が、繊細に伝わってくる。吉高は「明香里が塁の服を着て、シャドーボクシングのような動きをするシーン」、横浜は「塁が杖の音で、明香里が来たことを察知するシーン」について語ってくれた。
吉高「好きな人の脱いだ服の匂いを嗅いでいる描写も、『嗅覚で恋している』という感じでしたね。演じている時は、恥ずかしかったです(笑)。メンタルのせいかもしれないですが、いつもより現場にいる人が多く感じました(笑)」
横浜「可愛かったですよ、皆が吉高さんを見たかったんですよ。僕は駐車場にいる塁が、杖をつく音で『明香里が来るな』と分かるシーンが印象的でしたね。塁はあの音を待っている気がしていて、『今日は来るのかな、来ないか……あっ、来た』みたいな。明香里が来ない日も常に、あの音を待っているんじゃないですかね」
塁との未来を歩むため、勇気を出して一歩踏み出そうとする明香里。彼女のため、その未来から自身を消し去ろうとする塁。本作は、お互いに見えないところや、画面に表れていないところで、ふたりの思いの深さを感じさせるような奥行きを備えている。最後に、残酷な運命に翻ろうされながらも、明香里と塁が紡ぐ“無償の愛”について、聞いてみた。
吉高「無償の愛を貫けたらいいな、と思います。お互いに『もう、こんなにやってあげているのに!』と思ってしまったら、破滅に向かってしまうから。いかだで大海原を進むんじゃなくて、大型漁船のように、ゆらりゆらり大らかな気持ちで、寛容でいられたらいいですね」
横浜「無償の愛についてはまだ分からない部分もあります。でも、自分に大切な人ができた時に、塁と同じように相手を守れるような行動をとりたい。そういう男でありたいなと思いました」
「きみの瞳(め)が問いかけている」は、10月23日から全国公開。
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