【独占インタビュー】ソフィア・コッポラ監督「オン・ザ・ロック」はパーソナルな作品 「自分をさらけ出すのはとても怖い」

2020年10月20日 15:00


「オン・ザ・ロック」は公開中
「オン・ザ・ロック」は公開中

ソフィア・コッポラ監督の最新作「オン・ザ・ロック」(公開中)は、アカデミー賞脚本賞を受賞した出世作「ロスト・イン・トランスレーション」(2003)の続編と呼べるかもしれない。

オン・ザ・ロック」は、米ニューヨークに暮らす若き母親ローラ(ラシダ・ジョーンズ)が、ひょんなことから夫の素行に疑念を抱き、伝説のプレイボーイである父フェリックス(ビル・マーレイ)を連れ立って夫の尾行に繰り出すというストーリーだ。

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表面上は、「ロスト・イン・トランスレーション」との共通点はあまりない。いずれも都会を舞台にしたメランコリックなコメディで、ビル・マーレイ演じるキャラクターが主人公に大きな影響を与えることくらいだ。

それでも、「オン・ザ・ロック」を「ロスト・イン・トランスレーション」の続編と呼ぶのは、どちらも脚本・監督を手がけたコッポラの等身大の悩みが反映された、きわめてパーソナルな作品だからだ。

ロスト・イン・トランスレーション」の主人公は、カメラマンの夫に同行して日本にやってきた若い妻(スカーレット・ヨハンソン)だ。ホテルに置き去りにされて孤独な生活を過ごす彼女は、落ち目のハリウッド俳優(マーレイ)と異国の街をさ迷うことになる。仕事に夢中で家庭をないがしろにしている夫と、スキルも経験もなく夫に依存するしかない妻との関係は破綻寸前だ。実際、ソフィアは元夫スパイク・ジョーンズとの結婚生活を反映させたと告白している。

それから17年の歳月を経て発表された「オン・ザ・ロック」のヒロインは、人生の異なるステージにいる。作家として成功を収め、優しい夫とふたりの娘がいる。だが、すべてを手にした完璧な女性という見かけとは逆に、アーティストと家庭の両立という悩みを抱えている。まさに、いまのコッポラが反映されたキャラクターといえるだろう。

さらに、本作では父娘の関係が軸になっている。フランシス・フォード・コッポラという偉大な映画作家を父に持つ彼女は、ようやく同じ土俵に立った手応えを得たからこそ、このテーマに挑戦できたのだろう。

映画.comは、Zoomを通じてコッポラ監督と、ヒロインを演じたラシダ・ジョーンズに取材した。

ソフィア・コッポラ監督】
――本作はどういう経緯で誕生したのですか?

子どもが生まれて家庭を持つようになってから、親としての私は両親の影響をどれだけ受けているんだろうとか、男性との関係は父親との関係がどれだけ影響しているんだろうとか、考えるようになったの。また、アーティストと母親との両立とか、家庭を持ったことで人との付き合い方を再発明しなくてはいけなかったこととか。当時の自分の頭にあったことをこの作品に詰め込んだといえるわ。あと、友だちのお父さんが根っからのプレイボーイで、すべての男は生まれながらに女好きだと言ってはばからない。それで、友だちはお父さんの協力を得て、夫の素行調査をしたのね。そういった要素をこの映画に反映させたの。

――前作「The Beguiled ビガイルド」はリメイクでしたが、オリジナル映画の製作はいかがですか?

原作があるものを脚色するより、オリジナルの脚本を書く方が常に難しい。今回は、これまで手がけた映画のなかでもっともセリフが多いの。新作をやるとき、いつも新しい挑戦をすることにしているわ。それで今回はセリフ主導の映画をやってみようと決めた。最初は父と娘のバディ映画をやりたいというイメージがあって、次にふたりが一緒に冒険に繰り出すための小さなミステリーを作った。父と娘の会話は、小さなアイデアからはじめて、そこにユーモアや感動や自分が伝えたいと思う要素を織り込んでいく感じで作っていったの。

――マーレイ演じるフェリックスは、あなたの父であるフランシス・フォード・コッポラ監督をモデルにしているのでしょうか?

父から影響を受けている部分は間違いなくある。父と娘との特殊な親密さとか。たとえば、ある男の子を好きになったとき、父に相談したことがあるの。男性の視点がまったく理解できなかったから。だから、ローラとフェリックスとの親しい関係性は、父との経験からきているわ。

ただ、とてつもなく社交的で、ちょっとエキセントリックなキャラクター像は、子どもの頃から私が思い描いていた想像上の人物なの。それに、父はどんな状況でも口八丁手八丁で切り抜けるようなキャラクターじゃない。ビル(・マーレイ)や、あの世代の男性特有なものね。父の友人にも、女好きのプレイボーイがたくさんいるし。だから、フェリックスはいろんな人をかけあわせた架空の人物といえるわね。

もっとも、わたしの父にもちょっとフェリックスらしいところがある。「地獄の黙示録」の公開後、ロサンゼルスに滞在していたときに、ヘリコプターのパイロットをしている友だちにディズニーランドまで送ってもらったの。でも、駐車場にヘリで降り立つと、警備員が駆け付けて大騒ぎになった。あれは強烈な思い出ね(笑)。

――マーレイは代理人がいないので、連絡を取るのが非常に難しい俳優として知られていますが、あなたは「ロスト・イン・トランスレーション」と「ビル・マーレイ・クリスマス」と2度も仕事をしています。出演交渉はスムーズでしたか?

たしかに、最初に仕事をさせてもらったときより見つけやすかった。私のことを信頼してくれていたし、フェリックスっていうのは演じるのが楽しいキャラクターだから、喜んで参加してくれた。数年前に「ビル・マーレイ・クリスマス」というコメディ映画をやって、そのときにラシダも出てくれていたの。ふたりの共演シーンの相性や掛け合いがとても良くて、記憶に残っていたわ。私は、彼女は幅広いコメディをたくさんこなしてきたけれど、もっと深くて繊細な面があると踏んでいて。それに、彼女自身が大物音楽プロデューサーを父に持っているから、主人公の父との関係に共感してくれるかもしれないと期待したの(笑)。

――本作はニューヨーク映画祭でお披露目され、高評価を得ていますね。

ありがとう。映画を作るには数年かかるので、公開前はいつも不安になる。ひどい結果になったらどうしよう。みんなに嫌われたらどうしよう、とかね。特にこの映画の場合は、いつもよりスウィートで、繊細な映画を目指したので、お涙頂戴の映画になってしまうことを心配していた。あるいは、感傷的でありふれた映画になってしまうんじゃないかって。クールな題材と違って、こうやって自分をさらけ出すのはとても怖い。でもいまは、自分が表現したいと思っていたものがきちんと理解されたことを知って、とてつもない自信を感じているところ。そもそも映画を作るのは他人と繋がるためだもの。私が考えたこと、伝えたいと思っていたことをみんなが感じ取っていると知って、とても素敵な気分ね。

――映画監督としてあなたがフランシス・フォード・コッポラ監督から受けた影響はありますか?

私のなかには、母から得た部分と父から得た部分が共存していると思う。母はとても観察力があって、細部まで気を配るタイプで、私はその点を引き継いでいると思う。父はとても頑固者で、私もその頑固さを引き継いでいる。頑固さっていうのは実は映画を作る上でとても役に立つの。彼は頑なに自分のビジョンを貫き、ノーと言われても諦めない。危機的状況のなかでも頭を働かせて、柔軟に行動する父の姿勢には刺激を受けた。父からはたくさんのことを学んだと思うわ。

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ラシダ・ジョーンズ
――ソフィア・コッポラ監督は、父親との関係が娘の男性観を左右すると言っていますが、あなた自身はどう思われますか?

それって、よくカウンセリングで言われることよね。両親との関係、とくに父親との関係が、自分の男性との付き合い方に影響を与える、という。もちろん関係していると思うわ。この映画では、ローラにはカリスマ性のある父がいる。彼は行く先々で、ムードや興奮を生み出してしまう。だから、明るく外交的な夫のディーンを見て、もしかして父と同じ男性を選んでしまったのではないかと不安になるの。

――ビル・マーレイと親子役を演じるのはいかがでしたか?

ビルにはとてつもない存在感があって、周囲の誰もがそれに気付くほどなの。この映画において、彼が演じるフェリックスはスパイのようになる。謎解きに完全に夢中になって、次々と面倒を起こしてくれるので、ローラはいつもイライラしている。この関係を演じるのは、とても楽しかったわ。

ビルの演技はダイナミックなだけでなくて、実は深みがあるの。なにかを話したり、あるいは耳を傾けているだけのときも、常に能動的で、深く、正直でいる。異なるレイヤーで同時にいろんなことをしているの。ビルとの共演は魔法のような体験だった。

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――ソフィア・コッポラ監督とは長いお付き合いのようですが、現場でも物静かなのでしょうか?

そうね、物静かな権威者という感じね。ソフィアは外面的には大きく振る舞うようなことはしない。でも、内面はまったく違う。長い付き合いのなかで、彼女のことが分かってきた。ソフィアは自分らしさを失わずに、まわりの人をリラックスさせる方法を知っているの。私の場合は、みんなを喜ばせるために、ついお喋りしすぎちゃうことがあるのだけれど、ソフィアはもっと優雅に、本音で話してくれる。言いたいことを伝えて、あとは相手に任せる。くどくど説明して、無理に説得しようとしない。同時に、監督としてコラボレーションをとても大事にしていて、どんな提案も歓迎してくれる。たとえ採用しなくても、拒絶しているような印象は与えない。いつもほかの人の気持ちを大事にしてくれるの。

――今作のテーマのひとつに、育児とアーティストとの両立があると思うのですが、あなた自身はいかがですか?

現代の生活において、女性は様々なことのバランスを取るよう求められているわ。仕事はもちろん、家庭や人間関係など色んな要素があって、私の身にも、特にこの5年間は色んなことが降りかかってきた。すべてを軽々とこなし、ストレスを感じずにいるなんて、絶対に不可能よね。上手くこなしているように見せる努力はしているけど、実際のところ、何ひとつきちんとこなせていない。ある分野に集中しているときは、ほかの分野を犠牲にしているんじゃないかっていう罪悪感があるしね。非常事態宣言が発令されて、みんなが家庭で過ごす時間が増えて、ますます苦労している。同じ人たちとずっと生活して、自分の時間を確保するのは本当に難しい。とにかく目の前のことを、こなしていくしかないわね。

――あなたの父は有名音楽プロデューサーのクインシー・ジョーンズですが、あなただからこそ知る、彼の偉大さはどんなところですか?

実は数年前に、「クインシーのすべて」というドキュメンタリー映画を作ったの。この映画で伝えたかったのは、彼のコミュニケーション能力の高さだった。他人に対して常に紳士的に対応し、他人の生活に興味を抱き、深いレベルで繋がることができる。彼が偉大なプロデューサーなのは、音楽的な才能はもちろんだけど、他人のなかにある真実を見いだし、それを音楽として引き出すことができるからだと思うの。それこそが父の最大の長所ね。これは学ぶことができる種類のものかどうかわからないけれど、遺伝的に、あるいは、生涯をかけて間近で観察することで引き継ぐことができていたらいいなって思う。とてつもなく素敵な才能だと思うから。

(取材・文/小西未来

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