二宮和也の“憂い”を帯びた芝居に魅了され、ともに作り上げた家族の形 「浅田家!」中野量太監督が語る
2020年10月3日 08:00
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「湯を沸かすほどの熱い愛」「長いお別れ」など、これまで様々な家族の形を描いてきた中野量太監督。最新作「浅田家!」では写真家・浅田政志氏の写真集を原案に、強い絆で結ばれた家族の物語を紡いだ。そんな浅田家を体現したのは、二宮和也をはじめ、妻夫木聡、平田満、風吹ジュンという日本映画界を支える珠玉のキャスト陣。ドラマ「優しい時間」で惚れこんだという二宮とのタッグや涙の芝居、「語りたい物語」を探すときに重視しているポイント、そして取材を通して見出した写真が持つ力について、中野監督に話を聞いた。(取材・文・写真/編集部)
中野監督によるオリジナルストーリーの題材となったのは、浅田氏による2冊の写真集。「家族がなりたかったもの」や「家族でやってみたいこと」をテーマに、両親と兄、自分の4人家族が消防士、レーサー、バンドマンなどに全力でなりきるコスプレ写真をおさめた「浅田家」は、写真界の芥川賞とも呼ばれる第34回木村伊兵衛写真賞に輝いた。もう1冊は、東日本大震災の津波で泥だらけになったアルバムや写真を洗浄し、元の持ち主に返すボランティア活動に取り組む人々を約2年にわたり撮影した「アルバムのチカラ」だ。
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2冊の写真集と呼応するように、ストーリーは展開する。前半は幼い頃から写真に親しみ写真専門学校に進学するも、一時は定職に就いていなかった政志が、自分の家族を被写体に再び写真と向き合う物語。そして震災後の東北を舞台にした後半では、政志が被災地で家族を失った人々と出会い、家族写真の意味を見つめ直していくさまが描かれる。中野監督は浅田政志というユニークな人物に惹かれ、クリエイターとして「いつかは描かなければ」と葛藤していた3.11を語る覚悟ができたという。
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「(浅田さんは)最初に『たった1枚の写真で自分を表現しろ』という専門学校の課題から家族を撮り始めて、『浅田家』で木村伊兵衛写真賞をとって。受賞までには家族の多大なる協力があって、調べていけばいくほど『ドラマになるな』ということが分かりました。そして後半部分、実際に被災地を訪れて写真洗浄のボランティアをしたことは、僕にとってとても興味深く、心を動かされました。『浅田さんっていう面白い、ユニークな人を通せば、僕らしく3.11が描けるな』と思いました」
そんな魅力的な政志に扮したのは、キャスティングの段階で中野監督がタッグを熱望し、プロデューサーら関係者全員が候補に挙げたという二宮。クリント・イーストウッド監督作「硫黄島からの手紙」でハリウッドデビューを果たし、「母と暮せば」で第39回日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を獲得した天才的演技力は誰もが認めるところだが、彼なら無茶で自由奔放、家族や恋人を巻きこんでいく政志を憎めない、人間味のあるキャラクターとして、愛嬌たっぷりに演じられるという思惑があった。中野監督が二宮の芝居に惚れたのは、彼が22歳で出演し、倉本聰が脚本を手掛けたドラマ「優しい時間」だったという。二宮は自らが起こした交通事故で母を死なせてしまった過去に囚われ、父との関係に悩む青年を繊細に演じた。
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「『何て素敵な芝居をするんだろう』と思いました。ドラマの中に徹底的に馴染んでいて、その役をちゃんと生きているという感じがしました。あと僕は、(二宮さんの)どこか寂しさを持っている雰囲気が好きで。俳優の条件として、『何か憂いを背負っている』という要素があるんですよ。寂しかったり、何かを背負っていたりする芝居というのは、なかなかできない。彼はそんな感情を表現する力を持っているので、『いつか二宮さんとやりたいな』と思っていて、『浅田家!』のキャスティングをする時に『やっとここで一緒にできるんじゃないか』と思いましたね」
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劇中で政志は、何度も涙を流す。二宮がそれぞれ異なる思いを宿らせているからこそ、全てが違う涙に見え、そして全てが本物の感情として観客を揺さぶってくる。「見ている人に感情が伝わるか、伝わらないかが勝負」と訴える中野監督は、病気と戦う子どもを持つ佐伯家の写真を撮り、ファインダー越しに政志が涙するシーンの裏側を明かす。
「政志が佐伯家を撮るシーンは、『(涙が)あった方が良い』と思いましたね、感情を明確に伝えたかったので。最初は『どっちでもいいですよ』と言って演じてもらったんですけど、やっぱりポロッと涙が落ちる方が効果的だろうなと思って、もう1回挑戦してもらったんですよ。そしたら(二宮さんが)『やってみます』と言って、やってくれました。また最後に、被災地の掲示板で知り合いの家族の安否を確認するシーンでは、政志は涙までは流していませんが、目を潤ませて、とても感情が伝わってきましたね」
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本作で中野監督の下には、二宮をはじめ、黒木華、菅田将暉、風吹、平田、妻夫木ら日本アカデミー賞の受賞経験がある実力派キャストが結集。さらに渡辺真紀子、北村有起哉、池谷のぶえ、駿河太郎、篠原ゆき子ら中野組常連とも言える俳優陣も顔をそろえた。中野監督は、「現場で撮影をしていて、自分の想像を超えることは、なかなかないんです。最高のものを頭の中で想像しているから、それに近付けることもなかなか難しいんだけど、本当に良い俳優さんは、そこを超えてきてくれるんですね。今回はそういう可能性を持った人たちを集めたつもりなので、やっぱり面白かったですね。自分の想像を超える瞬間がいくつもあって。それが監督にとって1番幸せなんですよ」と、しみじみと振り返る。
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中野監督作品は、家族がそろって囲む食卓のシーンが印象的だ。本作でも、主夫である父・章(平田)が作る皿うどんやたこ焼き、(政志が好きな)辛いカレーなどが登場し、家族の時間をあたたかく彩る。
「家族って決まりはないんですよね、それぞれの価値観や形があって。家族の定義はないんだけど、象徴という意味では『食卓を囲む人たち』だと思っています。だからこの映画では、食卓を一緒に囲むシーンが多い。“食べる”というのは“生きる”ことの基本だから、食事をともにするのは、とても尊い行為だなと思っています。今回、実際の浅田家の大皿から取り分けるという食べ方を取り入れて、食卓シーンを作りました」
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そして、オリジナルストーリーにこだわりを持つ中野監督は、映画のアイデアや、「語りたい物語」を探すときに重視しているポイントを「時代性」だと紐解く。
「やっぱり『今撮るべき映画』を撮りたいんですよね。もちろん普遍的なものは、いつでも今につなげていくことができるし、それが家族というテーマでもあります。『浅田家!』の場合、近年、いろんな自然災害が毎年のように起きているし、困難な時代が来ることは分かっているからこそ、今、そういう困難に立ち向かう力になる映画が必要だなと思いました。常に『時代性があるものを撮り続けていきたい』というアンテナをはりながらやっています。撮影の時は(新型コロナウイルスの影響で)こんな状況になるとは思っていなかったんですが、今まさにこの映画を延期せずに公開することは、とても重要だと思っています」
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最後に中野監督に、本作を通して見出した写真の持つ力について聞いてみた。
「取材の中で『たった1枚の写真に救われる』という話をたくさん聞いたんですね。やっぱり人間は、生きる歴史の土台がないとふらふらしてしまう気がしていて。1枚でも『自分がこうやって生きてきた』という証があるだけで、人間は今を生きられる。特に(佐伯家のモデルになった)親子を取材した時に、『(写真は)今を生きるための力になる』とおっしゃっていて。今でも居間に浅田さんの撮った写真を貼っていて、見るたびに『今を頑張らなくちゃ、私たち』という思いになるとおっしゃっていました。写真は思い出を残すためだけではなく、今を生きるための力になるということを教えてもらいました」
「浅田家!」は、10月2日から全国で公開。
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