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草なぎ剛×服部樹咲×内田英治監督、唯一無二となった「ミッドナイトスワン」

2020年9月26日 12:00

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[映画.com ニュース] またひとつ、時代を象徴する映画が誕生し、世に解き放たれようとしている。俊英・内田英治監督(「全裸監督」監督・脚本)が脚本を執筆したオリジナル作品「ミッドナイトスワン」には、国民的アイドルとしてトップを走り続けてきた草なぎ剛が名乗りを上げ、オーディションを勝ち抜いた新人・服部樹咲と撮影現場で真っ向から対峙した。今作を経て、3人はどこへ向かおうとしているのか、話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/間庭裕基

下衆の愛」「獣道」「グレイトフルデッド」など意欲作を撮り続けてきた内田監督が、手塩にかけて脚本を執筆した渾身の1作だ。「これまではバイオレンスやスリラーなど、ジャンル系の作品をつくることが多かったんですが、もう少し人間性を描くものをやりたいと思っていたんです。それで、もともと持っていたトランスジェンダーの脚本と、別にあったバレエダンサーの脚本をミックスして書いたのが5年前。それがスタートでしたね」。

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草なぎは、内田監督から送られてきた脚本を読み、出演を即決したようだ。

「読んだら最高じゃん! って感じでした。最高じゃん! 今じゃん! これをやらないとダメでしょう! むしろやりたい! と思ったんです。すごく感動して、今までにない感情がどんどん溢れ出てきました。最初から、脚本というよりも小説を読んでいる感じだったんです。役についても聞いてはいたのですが、自分の役がどれだか分からなくなるくらいの勢いで読んでしまいました」

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一方、女優デビューとなる服部にとっては、何もかもが初体験。これまでは、バレエ畑をひた走ってきた。平成29年・30年ユースアメリカグランプリ日本ファイナル進出、NBAジュニアバレエコンクール東京2018第1位など、実力も折り紙付きといえる。

「家でドラマなどを見ていて、自分だったらこう演じたいな、と思うことがあったんです。それからだんだんと女優をやってみたくなって……、そうしたら、この作品のオーディションがあると知って、受けてみようと思ったんです」

緊張を隠し切れない様子は初々しくもあるが、言葉を絞り出す姿は凛としている。バレエ経験を前提としたオーディションに応募すると、1000通が寄せられた書類審査を経て、約200人が参加した面談を勝ち抜き一果役を得たわけだが、当時は小学6年生だったという。役者にとって、デビュー作と名の付くものは等しく1作品だけということを考えると、服部の今後のキャリアにも大きな影響を与える財産となったはずだ。

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内田監督「オーディションでは、セリフの読み合わせをするんですが、実はそこをあまり見ていなかった。待っているときの佇まい、立っているときの佇まいを見て、ビビッときました。普段、あまり感覚的に選ぶようなことはしないんですが、役者さんに関してはそういう感覚で選ぶことを大事にしているんです。樹咲ちゃんは、存在感がすごくあるなあと感じました。高校3年生くらいかと思ったくらい。歩き方はバレエをやっている人独特のものだったから、撮影に際して本人は矯正するのが大変だったでしょうね」

今作は、新宿のショーパブのステージに立つトランスジェンダーの凪沙(草なぎ)が、育児放棄にあっていた親戚の少女・一果(服部)を養育費目当てで預かるところから始まる。ともに孤独のなかで生きてきたふたりにはいつしか、かつて抱いたことのなかった感情が芽生え始める。一果のバレエの才能に気づいた凪沙は、初めてを知ることになる。

草なぎも、稀有な才能を大きく開花させようとしている服部に微笑みかけながら、撮影を振り返る。

「樹咲ちゃんと出会わなかったら、この凪沙は生まれなかったし、映画がこんなに素晴らしいものになっていないと思います。彼女は、この役のために生まれてきたんじゃないかと感じたほど。そういうことってなかなかないじゃないですか。でも、そう思わせてくれた。本番前は監督とセッションしているんですが、本番になると彼女は一果そのものでした。その説得力ったらありゃしないというか、僕の方が焦りました。でも、それが良かったんでしょうね。僕も無になれた。その一果と凪沙の距離感というものを、監督が見事に切り取ってくれましたね」

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一果は叔父と聞かされて上京しただけに、目の前に現れた凪沙に困惑し、反発もするが、遠慮のない感情の発露がいつしかわだかまりを解いていく。「うちらみたいなんは、ずっとひとりで生きて行かんといけんけえ……。強うならんといかんで」と一果を抱きしめる凪沙の姿は、どこまでも美しい。そこには、父性や母性といったものを超越した「」が寄り添っている。だからこそ、その後のシーンで発した「あの子の可能性を潰したくない」というセリフに嘘はなく、凪沙は自らの在り方そのものを見つめ直していく。草なぎも、凪沙を演じ切ったことである思いにかられたという。

「僕だったら、自分を犠牲には出来ないと思うんです。まず自分が幸せでしっかりしていないと、他人に何が出来るのか……と感じてしまうんですよ。自らを犠牲にしてまで守るって、それはまさしく母ですよね。だから凪沙を演じて、うちの母にも改めて感謝しました。全ての母親に感謝ですよ。母なる大地よ、ありがとう、という」

時に暴れ、涙を流すことも求められた服部は、演技経験が一切なかっただけに当初は難儀したそうで、「撮影が始まる前に、監督とそのシーンをたくさん練習しました。最初は泣きわめいたり出来なかったんですが、恥ずかしさを捨てれば難しくはなかったです」とはにかむ。

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すると、内田監督が演出について明かしてくれた。「この人は面白いですよ。なかなか感情をガッ!と出せないんですが、バレエの話になると急に感情的になるんですよ。彼女にとって、バレエというものが大きなものなんでしょうね。お母さんに怒られて悔しかったこととかないの? と聞いても、ふふーんってしているんですが、バレエのことを僕がチクチク言うと、目が徐々に変わってくるんですよ」。

この話をしていると、それだけで何かを思い出したのか、服部はポロポロと涙を流し始めてしまった。

草なぎ「あれ? なんで泣いているの? バレエで悔しかったことを思い出しちゃったの? 泣くなよ、樹咲! どうした、どうした。大丈夫だよ」

草なぎが肩を優しく撫でると、落ち着きを取り戻して涙を拭う服部は、はにかみながら2人への感謝を口にした。「監督は、オーディションで私を見つけてくれた恩人です。草なぎさんは現場で、ずっと凪沙の雰囲気、オーラをまとってくださっていたから、私も一果になり切ることが出来ました」。今後についても、女優を続ける意思を問いかけると「はい、あります」と即答。これには草なぎも「そうだよなあ、やらないと! そうだよ、バレエチクチクした監督を見返してやれ! そして、偉くなって僕を指名してね」とジョークを交えながら激励してみせた。

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新型コロナウイルス感染拡大の影響により、当初予定していた米ニューヨークでのロケを断念するなど、紆余曲折あるなかで完成させた内田監督も、さまざまな思いが去来しているようだ。

「本当に、色々ありました。樹咲ちゃんはコロナ禍でラストシーンに向けたバレエの練習が思うように出来ず、大変だったと思う。それでも、本当に頑張ってやり切った。彼女にとってはデビュー作なんで、いい結果に繋がってほしい。草なぎさんに対しては、まさかこういう映画を一緒に撮るとは想像もしていませんでした。脚本を気に入ってくれた役者が、やる気満々で現場に来てくれるって、本当に嬉しいこと。僕は作品で恩返しをしたいと思っている。多くの人に、草なぎさんと樹咲ちゃんの姿を見てもらいたい」

内田監督が2人の姿を見てもらいたいと願う気持ちは、鑑賞した者ならば十二分に理解できるはずだ。凪沙が抱える「女性になりたい」という苦悩は、一果と出会うことで「女性として生きていきたい」という願いに変わっていく。多様性という言葉は頻出するようになってきたが、日本は世界に比べるとまだまだ寛容な社会とはいえない。今作が奇をてらった作品という扱いを受けず、1本の新作映画として受け入れられることを草なぎも望んでいる。

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「都市型映画とか、マイノリティ映画とか、それで終わっちゃうのもつまらない話ですよね。ハリウッド大作とか僕は大好きですが、映画っていろんなジャンルがあるべきじゃないかな。もっと自由に受け入れてもらっていいんじゃないかなとは感じます。『好きな人は好きでしょう?』みたいなテイストの作品って、普段見ない人が見てくれた時にフィットしなかったら、毛嫌いされてしまうと思うんですよ。『ミッドナイトスワン』には、それがない。僕もこの映画をたくさんの人に受け取ってもらいたいという思いが強いし、固定観念みたいなものがこの映画を通してなくなってほしい。映画界がもっと自由になれるように、風穴が開くくらいヒットしてほしいですね。ああ、今まで気づかなかった。本当に、ひとりでも多くの方に見ていただきたいと心から思っているんです」

この声が、多くの映画ファンのもとに届くことを願わずにはいられない。どこまでも真摯に作品と向き合い、3人にとっても唯一無二の存在となった今作が、孤独を抱えた多くの人々の心を救済する一助になるはずだから。

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