中村倫也&石橋静河が考える、自由の定義
2020年9月5日 10:00
[映画.com ニュース] CMプランナーとして数々のCMやMVを手がけてきた荒木伸二の長編映画初監督作「人数の町」が、9月4日から封切られる。第1回木下グループ新人監督賞で準グランプリに選出された今作に主演した中村倫也とヒロインに扮した石橋静河に話を聞いた。(取材・文/編集部)
主演とヒロインと書いてはみたものの、途端に違和感を覚える。表記についてはもちろんだが、言ってみれば本編111分を覆う何もかもにだ。このモヤモヤの正体を知るために2人と対峙したが、中村と石橋はどこまでも朗らかに、違和感の根幹であるであろう荒木監督について話し始める。
中村「現場では、割とアワアワしていましたよ。CMクリエイターとしては巨匠なので、そういうキャリアもある方が長編初監督を務めるという初々しくもある姿が、貴重な思い出として僕の中には残っていますね。作品の構想も10年くらい前からお持ちだったそうで、ご一緒できて嬉しかったです」
石橋「すごくチャーミングな方でした。最初にアイデアブックのような資料を見せていただいたんです。それをもとに、こういうテイストで、こういう映画を作りたいと説明してくださり、すごく分かりやすくイメージもしやすかった。監督にしか見えない明確なビジョンがあると感じていたので、私が現場で迷うことはありませんでした。完成した作品を見て、監督はやりたいことをやり通したんだなと感じることができました」
今作の舞台は、衣食住が保証され、セックスで快楽を貪ることも可能だが、決して離れることはできない町。借金で首の回らなくなった蒼山(中村)は、黄色いツナギを着て蒼山のことを“デュード”と呼ぶ髭面の男に誘われ、その奇妙な町に足を踏み入れる。やがて住人となった蒼山は人々との交流を深めていくが、強い意志を秘めて町へやってきた紅子(石橋)と出会う。
幼少期から多数決が苦手で、人間が「人数」に変わるときに恐怖を覚えていたという荒木監督の深層心理が如実に詰め込まれているが、誰しも環境に慣れていくと当初は立ち止まって考えていたことにも疑問を持たなくなる経験はあるはずだ。本編の鑑賞を進めていくと、自ら考えて行動することの意義を考えずにはいられなくなる。多くの出会い、きっかけ、タイミングはあるにせよ、自分の力で道を切り開いてきた2人に、いま考える「自由」の定義を聞いてみた。
中村「自由ってあるのかなと思いますね。自由と錯覚する瞬間が幸せを感じることなのかな。だって、何層にも張り巡らされた大きな枠組みは、社会の一員として生きている以上、たくさんあるじゃないですか。それに疑問を持っても仕方がないので、慣れたり、良い意味で鈍化していくことって必要だとも思うんです。そんな中でだって自由を謳歌している感覚になることは僕にもあるし、自由の定義って人それぞれのはず。僕個人はいろんな制約やルールの中で泳ぐことが好きなのですが、クリエイティブな意味でそれをたまたま何らかの理由でぶち破っちゃった瞬間、『ああ、今日は良い1日だったなあ』って感じたりします。漠然とした自由、不自由って分からないのですが、仕事をしていてそういう日はあるので、毎日楽しくやらせてもらっています」
石橋「旅をするのが好きなんです。友達や家族と行くのもいいけど、何も決めずにひとりで出かけて『こっちの道を歩いてみよう』というスタイルの旅が好き。そこで面白い人がいたりすると『楽しい!』ってなっちゃって。ただそれって、そうじゃない時間があるからこそ楽しいわけですよね。いつもそうしていたら飽きてくるし、自由ではいられなくなる。旅で訪れた町の状況や歴史を深く知ったり、町の人と繋がっていけばいくほど自由な感覚はなくなっていくと思う。そういう時間があるからこそ、そうではない時間も楽しくなるのだと思います」
舞台となる町で暮らす人々は、ネットの書き込みや別人を装っての選挙投票といった労働と引き換えに生活が保障されているわけだが、詳細を知らされることもなければ、何も深く考えずに受け入れていく。タイトルにもあるように、ただの「人数」になることを受け入れてしまい、そこに「個」は存在しなくなる。ふたりが「人数」を意識した瞬間は、どのような局面だったのだろうか。
中村「動員数とか視聴者数というのは、仕事をしていくうえで意識しますね。よく考えることなんですが、自分が消費者側の何かのサービスだとして、5000人がある商品を買ったとしても、買ってもらう側、供給する側は5000ではなく、1×5000って考えないといけないよなあって。こういう仕事をしていて、本を出して買ってもらう、舞台のチケットを買って劇場に来てもらうとか、そこは漠然とした数字ではなく「1×●●」という一番小さい区切りから考えていかないと、サービスっていけないと思いながら仕事をしていますね」
石橋「東京って人、多いじゃないですか。いつも『人混み嫌だなあ』って思うんですが、それって自分のような個人がいて、その結果が人混みになるわけですよね。誰かと出会ったりしても、もしかしたら『人混み嫌だなあ』と思っていた中にいた人かもしれない(笑)。世の中がこういう状況になって、そういう場所に行くことが減ったということもあるんでしょうが、みんな、それぞれ理由があってそこにいるんですよね。そういう気持ちのままいたんですが、東京ってそう思うことが難しい場所だなって思います」
真摯な眼差しを注ぎながら話してくれたが、ふとした瞬間に中村の軽妙な語り口が石橋の爆笑を誘う一幕があったので、紹介しておこう。共演を経て感じた、互いのストロングポイントを聞いたときのこと……。
中村「何だろう? バク宙が出来ることかな? 違ったっけ?」
石橋「出来ませんから(笑)。私が感じたのは、確固たる芸がある方なんだなあと。だから、すごく芝居がしやすいと感じましたね」
中村「蒼山のセリフにもありましたが、『とっても綺麗な瞳だね』ってことですかね。この現場で初めましてだったのですが、瞳の輝きや色って、生き方そのものだと思うんです。きっと、とてもビューティフォーな生き方をしてきたんじゃないかと想像しています。あとは、家から持ってきた特別な水の効果もあるのかもしれない(笑)」
石橋「(ラベルのないペットボトルをかざしながら)ただの水です!(爆笑)」
中村「僕のこういうやり取りに飽きず、無視しないでくれるからありがたいですね。だいたいは無視されるんです」
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