【海外ドラマ用語辞典:第8回】映画とドラマで立場が逆転?“ただの脚本家”ではないショーランナーの仕事
2020年8月9日 12:00
[映画.com ニュース] ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの業界用語を通じて、ドラマ制作の内部事情を明かします。
映画とドラマは、尺や露出方法の違いはあれど、見世物(ショー)であることに違いはない。だが、ハリウッドにおいて物語を生み出す脚本家の立場は映画とドラマでまったく異なっている。
たとえば、あなたが書いた映画脚本をメジャースタジオが獲得したとする。でも、その脚本がそのままの形で映画化されることはほぼない。スタジオ側が人気俳優を引きつけるためにキャラクター設定を変更したり、人気のトレンドを盛り込むことなどを要求するからだ。修正作業は、最初の脚本を執筆した無名の脚本家ではなく、ベテラン脚本家に委託するのが通例だ。改稿を重ねていくうちに、監督が決定する。すると、監督の意向に沿ってまたリライトが行われる。そのうち主導的な役割を果たしていたスタジオの重役が異動となり、新重役のもとで最初からやり直しとなることも珍しくない。いつまで経っても制作のゴーサインが出ず、企画開発を延々と続けるこの期間は、Development Hell(開発地獄)と呼ばれたりする。
スタジオが映画製作へのゴーサインを出すことに消極的なのは、映画作りは何千万ドルも投入する大きなギャンブルだからだ。いったん製作をスタートしたら、後戻りできない。ならば、比較的少ない予算で可能な企画開発に時間を費やして、リスクの芽を摘んでおこうというわけだ。悲しいかな、ヒットを生み出すコツは誰も知らないので、堂々巡りしがちになる。
有名監督や人気俳優の参加が決まっていたり、原作モノの場合は、低リスクなのでゴーサインが下りやすい。それでも、たとえばジョージ・ルーカス制作、スティーブン・スピルバーグ監督、ハリソン・フォード主演というオールスターを揃えた「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」は、15年以上ものDevelopment Hellを過ごした。作品の方向について3人の意見が合わなかったためで、そのあいだにジェブ・スチュワート(「ダイ・ハード」)、ジェフリー・ボーム(「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」)、フランク・ダラボン(「ショーシャンクの空に」)、ジェフ・ネイサンソン(「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」)、デビッド・コープ(「パニック・ルーム」)といった有名脚本家たちが執筆に関わっている。完成作にクレジットされているのは、「ストーリー」としてジョージ・ルーカスとジェフ・ネイサンソン、「脚本」としてデビッド・コープのみ。このことからも、ハリウッド映画において脚本家は取り替えがきく便利屋のような存在であることがわかるだろう。
これがテレビドラマとなると脚本家の立場ががらりと変わる。ドラマ作りを統括する制作総指揮は、たいていの場合、脚本家が務めている。一方、各話の演出を手がける監督はひとつのドラマに複数人いて、彼らは制作総指揮の指示に従う。つまり、ドラマにおける監督と脚本家の関係は、映画と逆転しているのだ。
この違いは、ドラマの成りたちに起因している。テレビドラマの企画を立ち上げるのは、脚本家だ。自身が企画を生みだし、制作会社やネットワーク局にピッチを行う。うまくいけばパイロット版の脚本が発注されるので、ひとりで1話ぶんを書き上げることになる。そして、もしパイロット版の制作にゴーサインがおりたら、自分でキャストやスタッフを集める。つまり、企画を生みだした脚本家が、内容から人材に至るまですべてをコントロールできるのだ。そのドラマ制作を指揮する脚本家のことを、ショーランナーと呼ぶ。
ショーランナーの仕事は、ドラマがシリーズ化したときに本格化する。ネットワーク局のドラマは1シーズンあたり22話前後あるから、ひとりの脚本家が全話執筆するのは不可能だ。そこで、複数の脚本家を雇用し、「ライターズ・ルーム」を立ち上げる。ほかの脚本家たちとのディスカッションを通じて、全体のストーリーから各エピソードの展開を詰めていくのだ(ライターズ・ルームに関しては、次回詳しく説明します)。ショーランナーの担当は、ドラマの内容に留まらない。大量のエピソードを生産するためには、同時進行で進めていく必要があるため、異なる段階にある各話の制作状況を把握し、それぞれが抱えるトラブルに対応していく。つまり、クリエイティブとマネジメントの両方において責任を負うことになる。かなりの重責だが、ショーランナーがいるからこそ、数百人が関わるドラマ制作においても、統一感を維持できるのだ。
ちなみに、ショーランナーは制作総指揮のひとりだが、製作総指揮にクレジットされている人すべてがショーランナーというわけではない。制作総指揮には制作会社の重役やドラマの実現に関与した有名監督などの名前も載っているためだ。例外もあるが、企画を兼ねている制作総指揮が、ショーランナーである場合が多いといえる。
ショーランナー(Showrunner):ドラマの制作総指揮のひとりで、ドラマ制作を統括する責任者。たいていは企画を立ち上げた脚本家が務める。
PR
©2024 Disney and its related entities
Amazonで関連商品を見る
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
【推しの子】 The Final Act NEW
【知ってはいるが、まだ体感してない人へ】今が新規参入の絶好機!この作品で物語の最後まで一気に観よ
提供:東映
モアナと伝説の海2 NEW
【私&僕が「モアナ」を選ぶ理由】音楽も物語も大好きな傑作の“超進化最新作”絶対観るでしょ!
提供:ディズニー
テリファー 聖夜の悪夢 NEW
【全米が吐いた】鑑賞し失神する人が続出、なのに全米No.1ヒット…なんで!? 人気の秘密を徹底解剖
提供:プルーク、エクストリームフィルム
アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師
【ナメてた公務員が“10億円詐欺”を仕掛けてきました】激推ししたい“華麗どんでん返し”映画
提供:ナカチカピクチャーズ
犯罪が起きない町で、殺人事件が起きた――
【衝撃のサスペンス】AIで守られた完璧な町。なぜ事件は防げなかったのか? 秩序が崩壊する…
提供:hulu
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。