“可能な限り自分一人でつくる” 自主映画の極北、中尾広道監督「おばけ」が劇場公開
2020年7月13日 14:00
「船」(15)、「風船」(17)で2作続けて世界最大の自主映画の祭典PFF(ぴあフィルムフェスティバル)アワードに入選し、“可能な限り自分一人でつくる”制作手法が注目を集めた中尾広道監督。そんな監督が次にカメラを向けたのは、映画と向き合う自分自身だった。思うように評価されない作品、家庭と仕事と制作の狭間で揺れる日々、そんな監督を遠くから見守る存在……。波多野敦子、金属バット、真島昌利ら綺羅星のごとき才能が結集し、3度目のPFFアワード入選にして初の受賞、しかもグランプリに輝いた本作がポレポレ東中野で公開中だ。中尾監督に話を聞いた。(取材・文/木村奈緒)
友人の一言がきっかけです。「おばけ」でも出てくるように、自分でカメラの録画ボタンを押して走ったり、車で300~400メートルぐらい離れたところに行って撮影するの繰り返し。そんな非効率で無駄の多いやり方を見た友人に「お前の映画より、お前の映画撮ってる姿の方がよっぽど面白い」と言われて、それを映画にするのもありやなあと思いました。
僕が好きな映画は、王道の大衆娯楽作品なんです。これまでは自分の好きな映画と作れる映画の差は絶対埋まらんと思ってたんですけど、ちょっとでも近づきたい、みんなが楽しんで見られる映画も撮りたいと思って制作したのが「おばけ」です。自分では出来ひんことをプロの人に依頼して、もっと見やすいものを作ろうと考えました。言うたら、自分で録画ボタンを押して走っていくのってボケじゃないですか。一人だと誰もツッコんでくれへんから、良いツッコミを入れたいなと考えました。
ずっとファンやったんで、家の近くの劇場で出待ちして「近くで映画撮ってるんで出てください」って声をかけて、その後、事務所を通して正式にオファーしました。2人とも僕の家にチャリで来て勝手に駐輪場に停めたり、遅刻してきていきなりタバコ吸ったりしてましたけど(笑)、映像を見て瞬時に理解して的確にセリフを言ってくれて。これが自分の作品に加わったら最強やなと確信しました。
もともとは娯楽の一つとして見ていましたが、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を見て完全に映画の虜になりました。アメリカの文化、ファッション、スケボー、エレキギター、友情、恋愛、冒険、発明家の変なじいさん……映画って俺の好きなもん全部入んねんなって、THE BLUE HEARTSを聴いたときと同じぐらいの衝撃やったんですよ。
ちゃんと撮りだしたのは30歳を超えてからです。友だちの映画制作の手伝いに行ったら、彼ら2人組の映画監督なんですけど、撮影も録音も出演も音楽も全部自分らでやってて「このやり方やったら俺もやりたいわ」って言ったら、「ほんじゃカメラ貸したるわ。やりいや、誰でも出来んで」って言われて。それが結構衝撃やったですね。
でも、第1作の「みちくさ」や2作目の短編「船」はかなりお金も労力も時間もかかって、周りの人と揉めたり色んなものを犠牲にしたので、これで何の賞ももらえなかったら、もう映画は完全にやめようと思いました。人を巻き込んで傷つけて、良い映画撮って「どうや」みたいなこと言われへんなと思って。立派な映画監督よりも、一人のまともな人間を目指そうと。でも、自宅のカーテンに投影されたベランダのフウセンカズラの影が美しくて、それを1年近く撮ってたんです。これやったら家におって、人を巻き込まんとフウセンカズラの観察日記みたいな映画が作れるなと。それで「風船」が出来ました。
映画を取るか家庭を取るかじゃなくて、どっちも取ってうまいことやっていこうって決めたんです。自分の子どもの一番輝いてる姿を撮れるのって世界で僕一人だけやから、子どもをしっかり撮って映画を作りたいと思ってます。ずっと一緒におる僕やから撮れるもんがあると思うんです。
飽き性なので、持ち駒多い方が続けていけるんです。脚本やってて飽きたら小道具を作る。小道具でも行き詰まったら山に行く。それを繰り返してるうちに、全然思い浮かばんかった脚本の案が山の中で思いついて、家に帰って脚本をやる。無駄やと思える色んな要素を渡り歩いて膨大な時間をかけることが、良い結果をもたらしてるんやろうなって自分で正当化してます。映画制作は、多様性があるから面白いですね。
波多野さんは、昔レコード屋で働いてたときの同僚で、初めて映画を作ったときからの付き合いです。実は、波多野さんとは何回かケンカをしてます。「ここはこうやからこういう音楽やってくれ」「あなたの映像にはそんな要素はないのにこんな音楽つけられへん」みたいなやり取りを重ねて信頼関係が生まれてきました。僕の言いたいことを聞いた上で、作品で返事をしてくれるのは波多野さんだけやし、自分の映画において波多野さんを超えるミュージシャンはおらんと思ってます。もう一人、「おばけ」では松田圭輔くんというミュージシャンに宇宙のシーンの音楽をお願いしてます。松田くんは「この中から適当に使っていいで」って、わけのわからん電子音楽が何時間も入ったフォルダーを送ってくれて、使いたい曲に合わせてシーンを追加したりもしました。波多野さんと松田くんには、ほんまに感謝してます。
山道を歩いてると何かの気配を感じることがあって、目に見えへんけど、その辺にいてるやつが僕の作業を見てゲタゲタ笑ってくれてたら嬉しいよなって。そうでも思わんと頑張れなくなるというか。気温が39度ある夏の暑い日に、前にリュック、後ろにリュックで、機材を山程抱えて頂上まで登っていくと「俺ここでほんまに死ぬかもしらんな」って思うときもあるんですよ。そんなときに風が吹くと「今、誰か見ててくれた。よし、頑張ろう」って思える。目には見えないけど人間の近くにおって、困ったらさり気なく助けてくれる、そんな存在が近くにおってほしいっていう意味での“おばけ”です。
僕、何もないところに一本だけ木が立ってる画が子どもの頃からすごい好きなんです。イランの映画監督アッバス・キアロスタミの映画にも木が一本だけ立ってるシーンが結構あるんですけど、調べたらイランでは一本の木って“友情のシンボル”らしいんです。それはいいなと思って、一作目から木が一本だけあるシーンは必ず入れてます。だから、次の作品でも木が一本だけ立ってる画は探すと思います。この人の映画には毎回これが出てくるっていうのをやっていきたくて、僕の場合は、一本の木と、月と、うどんなんです。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
時代は変わった。映画は“タテ”で観る時代。 NEW
年に数100本映画を鑑賞する人が、半信半疑で“縦”で映画を観てみた結果…【意外な傑作、続々】
提供:TikTok Japan
年末年始は“地球滅亡” NEW
【完全無料で大満足の映画体験】ここは、映画を愛する者たちの“安住の地”――
提供:BS12
【推しの子】 The Final Act NEW
【忖度なし本音レビュー】原作ガチファン&原作未見が観たら…想像以上の“観るべき良作”だった――!
提供:東映
物語が超・面白い!
大物マフィアが地方都市でやりたい放題…オススメ“大絶品&新傑作”【トラブルの解決策は、金と暴力】
提供:Paramount+
外道の歌
【地上波では絶対NGの“猛毒作”】強姦、児童虐待殺人、一家洗脳殺人…安心・安全に飽きたらここに来い
提供:DMM TV
全「ロード・オブ・ザ・リング」ファン必見の伝説的一作
【超重要作】あれもこれも出てくる! 大歓喜、大興奮、大満足、感動すら覚える極上体験!
提供:ワーナー・ブラザース映画
ライオン・キング ムファサ
【全世界史上最高ヒット“エンタメの王”】この“超実写”は何がすごい? 魂揺さぶる究極映画体験!
提供:ディズニー
映画を500円で観る“裏ワザ”
【知らないと損】「2000円は高い」というあなたに…“エグい安くなる神割り引き”、教えます
提供:KDDI
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。