一人っ子政策がもたらした問題とは?「一人っ子の国」監督が語る“中国上映NG”の真実
2020年4月10日 12:30
[映画.com ニュース] Amazon Prime Videoで配信されているドキュメンタリー「一人っ子の国」は、1979年から2015年まで中国で行われていた“一人っ子政策”を題材にし、サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門のグランプリ(審査員大賞)を受賞した衝撃作だ。このほど、メガホンをとったナンフー・ワン監督にインタビューし、驚きの製作背景を語ってもらった。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
“一人っ子政策”の影響を受けながら、中国で生まれ、現在ではアメリカで暮らしているワン監督。映画では、中国で暮らしている自身の家族とともに“一人っ子政策”時代を振り返りながら、この政策によってもたらされた様々な問題を浮き彫りにしていく。製作のきっかけは、15年の“一人っ子政策”の廃止、そして妊娠による気づきだった。
「妊娠が発覚した最初の週、私の心と体に様々なことが起きました。フィルムメイカーとして無謀なプロジェクトにも果敢に関わってきた私が、自分の人生を見つめ直すことになったんです。私の人生において、赤ちゃんと安全に暮らすことが、何よりも優先することになりました。やがて、赤ちゃんを目の前で育てている段階から世に送り出すまで“この子の周りの世界が常に安全であるか”を確認していかなければいけないと思ったんです」
母性の目覚め――ワン監督は、この経験を経て、母親に電話することになった。その際の会話を通じて明らかになったのは、自身の母親がいかに“一人っ子政策”に怯え、恐ろしい体験をしてきたのかということ。ワン監督は“一人っ子政策時代の中国”への回帰を決めるのだが、製作にはひとつの問題が生じていた。
問題となったのは、16年に発表した映画「Hooligan Sparrow(原題)」(日本では未公開)の存在だ。同作は、中国政府を批判した内容であることから、ワン監督はアメリカへの帰国前、国家安全部から目を付けられ、尋問を受けることに。その尋問から逃れるために、ワン監督は嘘の証言を行っていた。さらに、その証言が嘘であり、映画の内容こそ真実であるということを「Hooligan Sparrow」のオープニングで説明をしている。そのような経緯があったため、再び中国国内で撮影ができるかどうか、懸念を抱いていたそうだ。そんな時、アメリカでの大学時代に知り合ったジアリン・チャンに連絡をとり、「このプロジェクトを一緒に撮影する共同監督になってくれない?」と依頼したそうだ。
チャン監督が“一人っ子政策”に影響を受けた人々を取材する一方で、ワン監督は生後2カ月の子どもを抱え“家族に会う”という名目で中国へ赴き、撮影をスタートさせた。その製作過程で、尋問を受けることも、逮捕されることもなかったため、自身がブラックリストから除外されたことに気づいたという。
では、36年という長期間にわたって続いた“一人っ子政策”を解き明かすため、どのような人々を撮影対象としていったのか。「(本作は)非常に大きなテーマを持つ作品。しかも、36年という期間、何十億人もの人々が影響を受けたため、誰にでも、どんな家族にもそれぞれの話を聞くことができました。(撮影を行ったが)本作の映像には含まれなかった人々もかなりいるんです」と振り返るワン監督。やがて、今作の核となる人物にたどり着く。その人物とは、ワン監督の母親の出産、つまり“自身の誕生”を手伝った助産師だった。
「その女性の助産師は、現在84歳で、当時不妊治療も行っていました。彼女へのインタビューで衝撃を受けたんです。私が『これまで、どれくらいの赤ちゃんの出産を手伝ったのか?』と聞くと、彼女は『覚えていない。でも、5、6万人の中絶に立ち会った事は覚えている』と答えてくれました」
ワン監督が育ったのは、小さな村だ。その地の助産師が、5、6万人の中絶に立ち会ったとするならば――都市部にいた助産師が行った中絶は、想像だにしない数字となっていたはずだ。この事実にショックを受けたワン監督は、中絶を受けた人々、中国からの養子を迎え入れたアメリカ人夫妻まで取材することになっていく。
“一人っ子政策”は、不妊治療や中絶以外にも、男児出生率の上昇という問題も発生させていた。17年の中国では、女性よりも男性の方が3266万人も人口が多いという結果が出ている。この事態が要因となり、人身売買が行われ、性的虐待も増えているそうだ。
「男の子の比率が増えたことで、女性と結婚できない人々が増えたんです。だから、ミャンマー、ラオス、ベトナムなどの国から女性を誘拐、もしくは人身売買をし、地方の村に住む中国の男性と結婚させ、子どもを産ませているという現実がある。もちろん、村の役人は、それらの女性がこの村の人ではないことに気づいているけれど、見て見ぬふりをしています」
専門家や学者によって、当時の中国の実情を暴露した書物や記事、ビデオは、検閲によって一般の人々がアクセスできない状況となっている。「今作は(“一人っ子政策”の研究者にとって)新たな発見があるわけではないし、観客にどれだけの赤ちゃんが中絶で亡くなったかを統計的に知って欲しいわけでもない。人々の物語として見て欲しいんです。『こんなに悪いことをするのが中国。彼らのことは、私と関係がない』というようなことは簡単に言えますが、このような政策やプロパガンダを通して、歴史的に間違いが繰り返されてきたことを知って欲しい」とワン監督は訴えかける。
「中国では、この映画を上映したり、配信することはできません。中国の人々は、本作を鑑賞できませんし、この映画が存在していることさえ知らないかもしれませんね。存在を知る唯一の手段は、この作品が中国国外で“声”を持った時です。本作が記事として扱われ、海外に行く機会を得た中国の学生や社会人の目に触れてほしい。そして、中国に帰った際、その内容を家族や友人へ語ってほしいと思っています」
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