弱者たちの貧困と暴力…「パラサイト」と競った仏映画「レ・ミゼラブル」監督「現実を見せたい」
2020年2月29日 08:00
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ビクトル・ユゴーの代表作の舞台となったパリ郊外の街に住む人々と警察官との衝突をリアルに描き、昨年のカンヌ映画祭で「パラサイト 半地下の家族」と最高賞を競い、今年のアカデミー賞国際長編映画賞にもノミネートされたフランス映画「レ・ミゼラブル」が公開された。貧困と暴力の中で生きる、移民や低所得層の“悲惨”を容赦のない描写で突きつける本作で長編デビュー、世界で高い評価を得たラジ・リ監督が来日し、作品を語った。
地方都市からパリ郊外のモンフェルメイユの犯罪防止班に配属された警察官のステファン。同僚は権力を用い、恫喝するようなやり方で住民たちを監視することにステファンは驚きを隠せない。ある日、アフリカ系の少年イッサがロマのサーカス団から、子ライオンを盗んだことから大きな騒動が巻き起こる…。
2018年秋から始まった黄色いベスト運動に対する警察の暴力が問題視され、仏国内外で広く報道されるようになったが、リ監督は「黄色いベスト運動に参加している人々は、我々のような下層の暮らしをしている人間より、もう少し中流の人々です。もちろん彼らも苦しい。黄色いベスト運動の報道は、一部の富裕層を除いて、フランスの多くの人が苦しい生活を送っていることを共有し、感じてもらえるきっかけになったと思います。しかし、僕らは30年以上前から貧困の中に生き、警察という権力からの暴力に直面しているのです」と語る。
映画は2018年サッカーW杯の優勝時、人々が口をそろえて「フランス万歳!」と声を上げる光景から始まる。しかしその後の物語は、警察と住民、ルーツや宗教の異なる住民同士、警察同士の仲間割れ、そして大人と子供…と様々な要因から対立の軸が複雑に変化し、巧みな脚本と生々しいカメラワークでドキュメンタリーのように展開する。
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「貧しく、社会の弱者が寄り集まる場所では、自然に和解が生まれるほうが不自然で、常にある種のパワーバランスが生まれます。フランス人という国籍を持っていても、民族的にはばらばら。モンフェルメイユには27くらいの民族が住んでいて、低所得者向け団地に、パキスタンの階、アラブの階…など分かれて何とか共生し、できるだけ状況が暴走しないように抑えている状況です。そういった民族間の対立を調整するような役割を果たすのがこの映画に出てくる自称“市長”のような人間で、警察では手に負えないような住民同士の問題を示談にし、見掛けだけの平和を守ろうとしているのです」
プロの俳優とともに、実際にモンフェルメイユに暮らす演技経験のない少年少女を起用した。ラスト30分、物語の鍵を握る少年イッサを演じた子役の迫真の演技に息を呑む。暴力を子供に演じさせること、そして脚本をどのように理解させたのだろうか。
「この映画で描かれている暴力は、全て自分が見聞きしたことからインスパイアされています。イッサはこの作品の短編版で初めて起用し、演技経験はありませんでしたが素晴らしい俳優だと思います。彼の母親は白人のフランス人、父親はマリ人で、その混血性も意味があるキャラクターだと思ったのです。子供たちが暴力シーンをどのように理解するか…ですが、あの地域に育っている彼らにとっては日常茶飯事のことです。演技指導に関しては、シナリオは読ませていません。シナリオとは関係のないリハを行い、話し合って動いてもらうやり方を取りました」
生まれ育った街の現状を見て欲しいという、リ監督の切実な思いが込められている本作。マクロン大統領にモンフェルメイユでの上映会への参加を呼びかけた。「カンヌで審査員賞を獲ったので、モンフェルメイユで上映会を行うので是非来てください、と連絡しました。しかし、返答は『エリゼ宮に来てください』と。僕は断り、DVDで見てもらいました。的確な描写であるという感想をもらい、閣僚に郊外の生活改善対策の指示を出したと聞いています。まだチャンスはありませんが、近いうちに大統領に会うことになるでしょう」
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「外国の方は、フランスに華やかな良いイメージをお持ちかもしれませんが、その裏側には僕らの住むような街の悲惨な物語がある。もちろん、アフリカの国々に比べたら、フランスは恵まれているかも知れませんが、フランス社会はとてもデリケートな時代に入っています。政治家は日和見主義で、自分達の利益のことばかり考えており、本気で国を良くしようと考える政治家はいないのです。そんな中で、国民の半分以上が苦しんでいます。我々の街は失業率70パーセント、このような貧困層を気にかけない政治家がほとんどです。だからこそ現実を見せたい、とこの映画を作ったのです」
モンフェルメイユで暮らす人々の多くは旧植民地からの移民をルーツに持ち、リ監督もそのひとりだ。「植民地主義をとっていたフランスの歴史の中で、祖先は奴隷のような扱いを受けていました。僕の祖父は第1次世界大戦でフランスのために戦い、父は戦後のフランスの経済を立て直し、インフラを支えるために低賃金で働きました。しかし、政府は彼らのそういった恩を知らず、我々を郊外のゲットーのような場所に封じ込めています。僕自身アフリカのルーツを持っていますが、フランス人として生まれ育っています。しかし、高校を卒業した頃から、(白人)社会が僕らを見る目が変わって、自分がフランス人ではないかもしれないという懐疑を抱くのです。心が動揺し、フラストレーションが溜まります。怒りも出てきます」と本音を吐露。
取材に同席し、劇中で“市長”を演じた俳優のスティーブ・ティアンチューも、「フランスにはもちろんいいところもたくさんあります」と前置きし、「僕も子供時代は白人と同じように、学校で良い時間を過ごさせてもらいました。しかし、就職ということになると冷遇されることがあり、とても複雑です。人種差別といっても、真正面からのものでなく、こういった婉曲的な差別がフランスにはあると思うのです」と自身の経験とともに、未だに存在する根深い問題を指摘した。
「レ・ミゼラブル」は、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開中。
(C)SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS
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