夏帆&妻夫木聡「Red」 禁断の恋と濃密なラブシーンであぶり出した人間の「生」
2020年2月23日 12:00
[映画.com ニュース] 直木賞作家・島本理生氏がセンセーショナルな描写で新境地を描いた小説を、三島有紀子監督が実写映画化する「Red」が、2月21日から公開となる。10年ぶりに再会し、互いに強く惹かれ合い禁断の恋に溺れていく男女を演じた夏帆と妻夫木聡に、役や関係性を作っていく過程、ラブシーンへのアプローチ、そして作品にこめられたメッセージについて話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/間庭裕基)
原作は、2017年に行定勲監督が映画化した「ナラタージュ」や、第159回直木賞を獲得した「ファーストラヴ」などで知られる島本氏の小説。誰もがうらやむ夫、かわいい娘と暮らし、“何も問題のない生活”をおくっていた村主塔子(夏帆)は、かつて愛した男・鞍田秋彦(妻夫木)と10年ぶりに再会する。鞍田は、ずっと行き場のなかった塔子の気持ちを、少しずつほどいていく。もう二度と会いたくなかった、本当に愛していた人に出会ってしまったら――。塔子は、誰もが想像しなかった“選択”、そして“決断”を下すことになる。
本作で初共演を果たした夏帆と妻夫木。関係性づくりのため、クランクインの前にキッチンスタジオを借り、ふたりだけでシチューを作り、お酒を飲み、和やかな時間を共有した。妻夫木は、「食べることは生きることに直結しているので、少しでもそういうことが一緒にできたのは良かったのかなと思います」と振り返る。劇中でも、大雪の中で立ち寄った食堂で2人が蕎麦を食べる印象的な場面がある。「食べることは生きること」という言葉の通り、数々の食事シーンが挿入されていることは、命を燃やすように愛し合うことで自らの「生」を見つめ直す塔子の思いを伝えているかのようだ。
ふたりは、一緒に過ごした時間や撮影で抱いた、互いの印象を明かす。
夏帆「妻夫木さんは、すごくストイックに、真摯に役と向き合っていらっしゃる方だなという印象を受けました。撮影期間中は常にどこか役を身にまとって、現場にいらっしゃる方。絶対に妥協されないですし、私自身もそんな妻夫木さんの佇まいにとても影響を受けました」
妻夫木「夏帆ちゃんは、とても強い女優さんだと思います。覚悟を持って役と向き合うのは労力が必要ですが、そういう覚悟をきちんと持っている人です。あと、意外と男っぽさを持っているんです。作品で見るイメージが強かったので、どちらかというと女の子っぽい感じなのかなと思っていたんですが、すごくさばさばしてるし、はっきりと自分の意見を言う方ですね」
塔子と鞍田の過去は明確に描かれず、非常に余白が多いが、ふたりの間ではどのような会話が交わされたのだろうか。妻夫木は「僕はとにかく塔子を愛すだけだった。塔子が全てだったので」と確信に満ちた口調で語る。物語が現在と過去が交錯する構成となっているため、最初は前半と後半で印象を変えるために演じ分けを考えていたそうだが、役づくりを進めるにつれて、アプローチも変化していった。
妻夫木「脚本を読む時に、構成をパパっと頭の中で考えてしまうんですが、役づくりを始めた時から『そういうことじゃないな』と思いました。一貫して塔子を愛す、ということに尽きるんだろうなと。自分の生きる意味を見つけた鞍田の強さは、何にも代えがたいですよね。『もう塔子しかいらない』と気付いてしまったから。その感情だけでしたね」
一方の夏帆演じる塔子は、自分に激しい愛情をぶつける鞍田以外に、どこか自分を見透かしてくるような不思議な魅力を持った同僚・小鷹淳(柄本佑)や、“価値観のずれ”ゆえに、無自覚に塔子を追い詰めてしまう夫・村主真(間宮祥太朗)という3人の男性と関わっていく。夏帆は、それぞれの男性や家族との関係を通し、芝居を組み立てていった。
夏帆「妻夫木さんとシチューを作って食べたり、間宮くんと娘役の(小吹)奈合緒ちゃんと一緒に遊園地に行ったり、役を作っていく環境を用意して頂いたということもあるんですが……。まず家庭があって、その先に社会とのつながりや鞍田さんとの恋愛があることをきちんと演じなければならないと思っていました。また、私は子どもを産んだ経験がないので、『母親になるってどういうことなんだろう』と想像するのが難しかったですね。奈合緒ちゃんと過ごす時間を大切にし、三島監督と話し合いながら、手探りの状態でひとつひとつ積み重ねていきました」
メガホンをとったのは、第41回モントリオール世界映画祭コンペティション部門の審査員特別賞に輝いた「幼な子われらに生まれ」の三島監督。夏帆は「ビブリア古書堂の事件手帖」に続き、妻夫木は初のタッグとなる。妻夫木は「僕たちが役本人になっていないとOKがもらえなかった。『演じる人物として生きてほしい』という三島監督の思いは、撮影中ずっと感じていました」と述懐する。
濃密なラブシーンでも、役を生きることに集中した。世間にはあっけなく否定されてしまう可能性もはらんでいるふたりの関係が、それでも切実な恋愛として胸に迫ってくるのは、ふたりの眼差しや言葉が“本物”として息づいているから。妻夫木は「夏帆ちゃん、三島監督と3人でいろいろ話して、例えば『夏帆ちゃんのホクロを辿っていく』という動きなどは決めましたが、基本的には感情のままにやりました」といい、夏帆も「それこそすごく切実に、真剣にシーンと向き合いました」と思いを馳せた。
映画の冒頭では、塔子が抱える日々の様々な抑圧や生きづらさが描かれる。少女のようなワンピース姿で同行した夫の会社のパーティで“お飾り”のような扱いを受け、キッチンで料理をするのも完全同居する姑に気を遣わなくてはならない。経済的には恵まれているが、家族で暮らす瀟洒な一軒家は檻のようで、塔子は自分の意志や考えを押し殺し、空っぽな人形のように日々を過ごしている。そんな塔子は、本当の自分を気付かせ、そして受け入れてくれる鞍田の存在によって、心も身体も解放し、どんどん美しく、そして自由になっていく――。三島監督が「個人と社会との距離にバランスが取れていない時代に恐怖すら感じることがある」と語るように、世間が押しつけるルールや期待が、個人の人生をつぶしている現状がある。そんな現代を生きる、ひとりの女性の生き方を“男と女”を通して描いた本作は、個人と社会のアンバランスな関係に、どのような回答を提示したのだろうか。
夏帆「塔子は良き母として、良き妻として、もっと言えば良き娘でいなきゃいけないという価値観で生きてきました。本来自分というものをちゃんと持っているはずなのに、それを隠して、我慢して、押し殺して生きてきた……。そんな塔子が自分の人生において大きな決断をした、自分の手で何かを選び取ったというのは、ひとつ重要な意味があったんじゃないかなと思います」
妻夫木「この作品は決して、ただ不倫を描きたかったわけではないと思うんです。塔子を中心に、『生』を感じてほしいということを表現している。塔子にとっては、我慢して家を守ってきたことが、実は(本当の自分自身からの)『逃げ』だった。世間から見たら、僕と一緒にいることが『逃げ』なのかもしれないけど……。『何が大切なのか』ということに正直になることが、本当の『生』につながることだと思います。幸せの価値観の違いなのかもしれないですが、人間っていろんなことを平和にやり過ごしていければ、それが幸せだっていう解釈がありますよね。自分の心のままに生きた鞍田や、そんな鞍田と出会った塔子は、不幸に見えるかもしれないけど、他の人よりも人生の経験値を得て幸せな人生を送っているような気がするんです。『生きるとは何か』を考えさせる、生命力あふれた映画になったと思います」
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
【推しの子】 The Final Act NEW
この実写化は本当に“大丈夫”なのか? 原作ファンがプロデューサーにガチ質問してきた
提供:東映
ラスト5分、確実に泣く“珠玉の傑作” NEW
いじめで退学になった少年。6年後、何をしてる――? 2024年の最後を、優しい涙で包む感動作
提供:キノフィルムズ
映画を500円で観る“裏ワザ” NEW
【「2000円は高い」というあなたに…】知らないと損する“安くなる裏ワザ”、こっそり教えます
提供:KDDI
“私と僕”がこの映画を観に行くワケ
【全世界が注目、史上最大ヒットの予感!?】あの“歴史的大傑作”を超える評価も…魅力を徹底解説!
提供:ディズニー
失神者続出の超・超過激ホラー
【閲覧注意】どれくらいヤバいか観てみたら…「無理」「超楽しい」激烈に賛否両論だった
提供:エクストリームフィルム
【衝撃作】ハマり過ぎて睡眠不足に注意
ショッキングな展開に沼落ち確定…映画.comユーザーに熱烈にオススメしたい圧巻作
提供:hulu
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。