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ソフト化、配信なし 自局内部を映し話題の東海テレビドキュメンタリー「さよならテレビ」が劇場公開

2019年12月30日 08:00

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プロデューサー阿武野勝彦氏(右)とディレクター土(ひじ)方宏史氏
プロデューサー阿武野勝彦氏(右)とディレクター土(ひじ)方宏史氏

2018年に東海テレビ開局60周年記念番組として放送後、“裏ビデオ”ならぬ“密造酒”として業界内でDVDが出回り、あいちトリエンナーレでも満員の観客に迎えられた「さよならテレビ」が満を持して映画化、2020年1月2日より劇場公開される。制作は「ヤクザと憲法」「人生フルーツ」など、出色のドキュメンタリーを世に送り出してきた東海テレビ。「取材対象にタブーなし」の看板に偽りなし、苦楽を共にする仲間に向けたカメラが描いたテレビの自画像とは。プロデューサー・阿武野勝彦とディレクター・土方宏史がテレビへの愛を語る。(取材・文/木村奈緒)

画像2(C)東海テレビ放送
■ 最も難しい取材対象
土方 「ホームレス理事長」(2013制作、2014公開)の宣伝で配給会社の東風さんに来た時に「今度、社内のドキュメンタリーを撮ってくださいよ」なんて話が出て、「それはすごく面白いかもしれない」と思ったのが「さよならテレビ」に至る最初のきっかけです。そんな番組見たことないし、東海テレビのドキュメンタリーは「取材対象にタブーなし」を謳っているので、東海テレビにいるからこそやるべき内容だと思いました。ただ、自社を撮るのは一番難しいから、その時はまだ出来ないなと。それで、「ヤクザと憲法」(2015制作、2016公開)を形にした後、今がそのタイミングかなと企画を持っていきました。そしたら阿武野が「さよならテレビだなぁ」「自画像を描くようなもんだなぁ」とヒントめいたことをつぶやいて。さらに阿武野も1997、8年ごろに同じようなメディアリテラシー番組を作ろうとしたことがあると知って、これは何かの縁だと思いました。
阿武野 でも、私の時は蓋を開けられなかったんです。「さよならテレビ」で描かれる「Z(是非ネタ)」という営業ネタ、局長ネタ、社長ネタ……を白日の下に晒します、タブーなしでやらせてくださいと言ったら、取材中に電話がかかってきて「営業に配置転換」と。飛ばされたんですね。ですから因縁の番組と言ってもいいかもしれない。今回「さよならテレビ」が出来たのは、やっぱり東海テレビが、いい意味で混沌としているんでしょうね(笑)。それと、ドキュメンタリーを作る私たちにやや力がついた。経営トップはスタッフを信頼してくれているし、番組制作を後押しする環境が出来ていると思います。しかし「さよならテレビ」だなんて、えらいタイトルがネガティブだよね。土方も「それだ!」なんて言って、ちょっと、オツムがおかしいんだよね。
土方 いやいやいや(笑)。僕はしっくりきましたね。変な話、「さよならテレビ」ってタイトルだけは最後まで死守したいというスタッフの気持ちがあったんですよ。ともかくも「さよならテレビ」という言葉からインスピレーションをもらってスタートしました。
画像3(C)東海テレビ放送
■ 撮り終わっても終わらない
阿武野 あいちトリエンナーレでの上映も、お客さんが入りきらなくて驚きましたが、それ以前に、放送関係者と業界人にものすごい勢いで(2018年のテレビ放送版を録画した)DVDが出回って、上映会を開きたい、話に来てくれという依頼が相当数ありました。こんな状態になる番組は稀です。東海テレビと競合する名古屋局のスタッフが「DVDを何枚も焼いて系列の人に渡しました!」とか言っていて。
土方 なんで得意気なんですか(笑)。でも、映画監督の森達也さんは誰もやらないなら自分がやろうと思ってたとおっしゃってたので、先にやられたと思った人はいるでしょうね。テレビ局ではなかなか出来ないと思いますが。
阿武野 そうだね。仲間の取材は一番やりにくい。友達のカップルのすごいケンカが撮れちゃったから、それをネットに出していいでしょって言えないでしょう(笑)。だから放送後は会社の居心地はずっと悪いです。映画の宣伝にしても、東海テレビのいろいろな枠で協力的にやってくれるか。ある意味、人間関係と作品の見方のリトマス試験紙。あぁ、やっぱりそうなんだ……って、この妙な気分、終わらないんですよ。
土方 それ、思いますよねぇ。僕は1月に(報道局)ドキュメンタリー班からニュース班に戻るので、戦々恐々としています……。
阿武野 だったら映画にするのをやめりゃあいいじゃないって話ですけど、たくさんの人に見てもらいたい。特に劇場で見てもらいたい。子供の頃、お茶の間で家族みんなでテレビを見ていて、ラブシーンでお母さんが恥ずかしがったり、お兄ちゃんが変な声を出したり、お父さんが「お茶お茶お茶!」と言ったりするように、ひとつの画面を通じて他者を感じる環境に作品を置きたいんです。それが、映画公開の醍醐味です。
土方 いま、テレビは、視聴率って1分ごとに出て、パスタの湯気が美味しそうだったから上がったとか、オッサンが出てきたから下がったとか、本気でやってるんですよ。でもそれってどこまで本当なのか甚だ怪しくて、数字では表せないお客さんの反応を劇場で見ると、健全な形で、「作る原動力」につながります。テレビ制作者って、放っておくと「この後、この後」ともったい付けたり、焚き付けたりして、ちょっとした騙しのようなことをしてしまう。でも、それは誠実じゃないですよね。数字を取るために視聴者を人質にしているようなものだから。視聴率に囚われすぎてしまうのは、今のテレビの閉塞感や視聴者離れの一因というか、すごく皮肉な状況にある気がします。
阿武野 テレビは、どんどんパーソナルなものになるにしたがって、力を失ったのかもしれないね。こう言うと、その部署の人に怒られるんだけど、テレビ番組は放送後、アーカイブという名の墓場に入ってもう二度と出てこない。だけど映画化によって作品は生き長らえて、上映を繰り返すうちに地上波にもう一回戻ってくる可能性がある。テレビから映画、映画からテレビ。こういうループを考えてきたわけで、DVDやネット配信といったパーソナルなものへと作品を追い込むことに興味がなかった。第一、僕らのドキュメンタリーは映画界に育ててもらったわけだから、安易にDVD化したり配信でお金を稼ぐことは考えられない。皆と同じことをするつもりがないんです。
画像4(C)東海テレビ放送
■ ドキュメンタリーを作ることで変革の波を起こす
阿武野 取材の仕方も同じで、皆と同じように合理的に取材をしようと号令をかけたら、面白いものにはたどり着けない。無駄でもいいから日常を撮りに行くことで思いがけないものが撮れて、その中から濃縮したものを出すから、面白いものができる。ドキュメンタリーの制作は、非合理的な取材によって作品の価値が高まると信じているんです。ニュース部門の人材がドキュメンタリーのディレクターをやって、再びニュースに帰って……を繰り返すうちに、大きな変革の波が起こるはずだと思ってます。
土方 手前味噌ですけど、ここまで楽しみながら制作してるのは僕らくらいかなと。でもやっぱりプロデューサーからカメラマン、編集マンといったチームが成熟していて信頼できないと、社内で企画も通らなければ良い作品も出来ないので、いまは、すごく恵まれた環境にいると思います。
阿武野 たまたま台風の眼の中にいるようなものかもしれませんね。他の放送人は暴風域で「台風の中で激しい風雨がー」って踏ん張っているのに、私たちだけ、無風の青空の下にいる。それは、激しい暴風雨を乗り越えてのことですけど。その自覚のもとに次々行け! いっている瞬間なわけです。そういう奇跡的な時間が10年くらい続いていますが、少しずれれば、暴風域に巻き込まれてしまう。この状態を維持するのは簡単ではなく、非常に危ういと思っています。
土方 でも、そういう状況の方が健全だと思います。絶対作れるみたいなことはありえないわけで。
阿武野 「放送」っていう言葉は、実に上手いことつけたと思うんですけど、「送りっ放し」なんですよ。放送を繰り返しているのに、地域の人たちの肌触りを失っていくようなところがある。手触り肌触りを失って、数字という指標を金に換算することで大きな失敗を起こしたのが「セシウムさん事件」(※)です。当時「放送の公共性を大事にしよう」「報道の原点に戻ろう」となったけど、それをどう体現していくのかが依然として私たちの課題であり、地域の人たちとつながる一番の早い、かつ重要な道筋だと思います。
(※ 2011年8月4日に東海テレビで放送された「ぴーかんテレビ」内で、岩手県産米の当選者名を「セシウムさん」などと不適切なテロップで表示し、信頼を失墜させた事件)
画像5(C)東海テレビ放送
■ もっと面白がって仕事をしろ
阿武野 この間、関西の大学で学生に番組を見せたんですよ。大人がコマ合戦に必死になる話(「熱中コマ大戦 全国工場奮闘記」)なんだけど、多くの学生が感想に「社会に出るのは我慢すること」「大人はすごく辛い気持ちで仕事をしてると思ってた」と書いていたんです。これでは世の中良くならない。大人がやりがいや仕事の喜びを伝えられない社会だと、若者は就職したくないって思うに決まってる。事によると、テレビの人間も辛そうだっていうのが画面を通じて出ちゃってるんじゃないか。そんな風に思って愕然としました。。
土方 みんな苦しそうな顔してやってますもん。
阿武野 つまんないことばっかり、嫌な顔して仕事しているせいで、皆が「テレビってゴミだわ」って思うわけでしょ。むしろ、自分たちから進んでゴミになっているんじゃないのかな。もっと面白がって仕事しなさいよって。誰も辛いことやってくださいって頼んでないんだもん。そのためには、人に合わせるのをやめること、あんまり空気読まないこと、マーケティングも参考程度にして本気にしないこと、自分がこれは楽しいぞというものを見つけたら、この喜びを伝えるんだっていう気持ちでやればいい。そういう人が、テレビマンなんだもん、そもそも。
土方 産みの苦しみ、みたいなものはもちろんありますけどね。
阿武野 そう、仕事そのものは結構しんどいですよ(笑)。だけど、そのしんどさを乗り越えていくと、山の頂に立った時のような爽快感があるわけです。ずっと楽しいだけなんて世界はそもそもないでしょう。これからは、皆さんが求めているものを提供しようと思うんではなく、私が皆さんに伝えたいものを伝える、それが本当のテレビの公共性だと思います。
土方 根底には作る喜びがありますしね。何より、皆テレビやりたくて入ってきたんだから。

さよならテレビ」は、1月2日からポレポレ東中野で公開。

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