クリント・イーストウッドが貫くレガシー 「リチャード・ジュエル」に込めた思い
2019年12月27日 12:00

「リチャード・ジュエル」は、いかにもクリント・イーストウッドらしい大傑作。無駄がなく、まっすぐで、かつ、奥が深い。小手先の技は使わず、ストーリーの良さと俳優の演技で引っ張っていく。(取材・文/猿渡由紀)
そんな映画は、裏側も同様に効率よくスムーズだ。自分の望むものを知っていて、撮れたと思ったら余計なテイクをせず次に行くことで知られるイーストウッドは、ほぼ年に1本のペースで作品を送り出しているが、「リチャード・ジュエル」の場合は、とりわけ早かった。イーストウッドが今作を監督するというニュースが出たのは、今年4月。キャスティングが固まったのが6月で、11月にはもうワールドプレミアをしている。
だが、イーストウッドによると、彼とこのストーリーの関係は、もっと前に始まっていたそうだ。1996年のアトランタオリンピック爆破事件の容疑者リチャード・ジュエルに関する興味深い記事を読んだのは、4年前のこと。脚本が彼の元に送られてきたのも、そのすぐ後だったのである。
「とても心を惹かれる話で、ぜひこれを映画にしようと、私はすぐに決めたよ。この映画を持っていたのは20世紀フォックスだったため、私は(ビジネスのパートナーシップを長年にわたり結んできた)ワーナー・ブラザースと共同でやらないかと提案した。それもすぐまとまり、準備が整ったと思っていたら、フォックスのエグゼクティブが、何やらごちゃごちゃ言ってきてね。弁護士に相談したら、彼は『フォックスは本当にはこれをやりたくないんだろう』と言う。ならば別の映画を作ろうと思い、そうしたんだよ」。
そんな彼がこの話のことを再び思い出したのは、昨年だ。
「またほかの映画を作ろうとしていたんだが、その前にもう一度、あの話を見直してみようかと思ったんだよね。その頃にはディズニーがフォックスを買収していた。ディズニーの今のトップは、昔ワーナーのトップだったアラン・ホーンだ。私は彼をよく知っているので、彼に連絡をすると、ワーナーだけでやってくれていいと言った。ディズニーにしたらこれはいらないということだろうが、とにかく、そんなこんなで私はこれを作れることになったんだよ。その後すぐに私たちはポール・ウォルター・ハウザーを見つけることができ、母親役にキャシー・ベイツが決まった。みんなこの作品に強い情熱を感じてくれて、それからはあっという間だった」。
ハウザーが演じる主人公ジュエルは、オリンピックのイベント会場に配置された安全警備員。ある夜、ベンチの下に不審なバックパックを発見し、すぐさま報告した。バックパックに入っていた爆弾を止めることはできなかったものの、彼が先に発見していたおかげで、観衆を現場から遠ざけることができ、被害は最小に抑えられている。だが、ヒーローと崇められ、本を書かないかとオファーまで来たのもつかの間、次の瞬間、ジュエルは、爆弾を仕掛けた張本人だと疑われてしまった。その“ネタ”を仕入れたのは、アトランタ・ジャーナル・コンスティチューション紙の女性記者キャシー・スクラッグス(オリビア・ワイルド)だ。
「人は、有罪が確定するまで無実として扱われるべき。だが、憲法では報道の自由が保障されていて、多くの場合、そちらが勝ってしまう。メディアはとても野心的。今は、当時よりもっとそうだ。情報がありすぎるし、ねじ曲げられてしまう。昔は『見たものの半分を信じろ。聞いたものは信じるな』と言ったものだが、この(ジュエルの)件については、見たものも聞いたものもまったく信じちゃいけなかったわけだよね。このアトランタの新聞は、このネタを出すと決めたら、それで貫き続けるしかなかった。ほかも追従し、自分たちなりに新しい何かを加えたりしたりしている。そんな中では、『このうちどこまでが真実なのか?』と疑問を持っていた人もいたんだろうと思うよ」。
映画の中では、スクラッグスがFBI捜査官と性関係を持って情報を得たことが示唆される。そのことについてアトランタ・ジャーナル・コンスティチューションは訴訟すると脅したが、ワーナーも、脚本家ビリー・レイも、断固としてこの映画を弁護。逆に、ジュエルの人生をめちゃくちゃにした彼らの報道のあり方を批判した。スクラッグス氏本人は01年、ドラッグの過剰摂取で死去している。
「私は彼女についていろいろ読んだが、かなり突出した人だったみたいだよ。彼女はいつも警察とつるんでいた。死体が発見されたという通報を受けて警察が飛んでいったら、先に彼女がいて、『今頃来るってどういうことよ?』と言ったという有名な逸話がある。彼女は酒を大量に飲んだし、ハードスモーカーでもあった。結局はカットしたが、彼女が警察の行きつけのバーにいるシーンも撮影しているんだよ。彼女はそういう人だったんだ。彼女が(ジュエルについての)情報をどう獲得したのか正確にはわからないが、私たちは、これは十分あり得ると考えたんだよね」。
そんな彼は、自分自身のレガシーも、正しい形で語り伝えられることを願っている。その一方で、本気では心配していない。
「そういうことは、そもそも考えないのでね。正しければいいなとは思うけれども、人は誇張したがるもの。自分についてそういうのを読んだこともある。もし間違っていても、もう自分は生きていないんだし、まあ、いいとするさ」。
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