森七菜、初めての芝居から辿り着いた“想い癖”の境地
2019年11月14日 12:00

[映画.com ニュース] 新海誠監督作「天気の子」で“声”を響かせた森七菜が、実写映画の世界で躍動し始めた。「東京喰種 トーキョーグール【S】」「最初の晩餐」の公開を経て、その比類なき才能を見せつけられることになるのは、白石晃士監督がメガホンをとった「地獄少女」(主演:玉城ティナ)だ。晴れ晴れとした笑顔を浮かべて撮影を振り返る森は、一見すると“普通の女の子”のように思える。しかし、彼女の口から飛び出した“言葉”に、その色眼鏡をすぐに外すことになったのだ。(写真/間庭裕基、取材・文/編集部)
直接対面するのは、「天気の子」製作報告会見前のインタビュー(7月2日)以来のこと。現在の状況を尋ねてみると「『天気の子』の人気の凄さ、知名度の高さに驚かされる毎日」を過ごしているようだ。
森「どこからともなく『今から晴れるよ』と聞こえてくると、思わず声をかけてしまったりするんです。私が陽菜を演じたことを明かさずに『見たんですか?』って。それにどこの現場に行っても、(“晴れ女”という役柄のため)空が晴れると私のおかげになったり。それがちょっと嬉しいんです(笑)」
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2005年よりオリジナルアニメとして放送されてから、コミカライズをはじめ、テレビドラマ、ライトノベル、ゲーム、2.5次元舞台など、幅広く展開されてきた「地獄少女」。恨みを抱く者が深夜0時にアクセスできる「地獄通信」は、地獄少女こと閻魔あい(玉城)と接触できる秘密のサイト。“報復代行=地獄送り”の依頼を受けたあいは、使い魔“三藁”を駆使して、ターゲットを恐怖のどん底に突き落としていく。
「友達と一緒にアニメを見ていましたし、漫画版を読むために雑誌を購入していたほどのファンだった」という森にとって、本作への参加は念願だった様子。撮影が行われたのは、18年の9、10月頃。その後、「東京喰種 トーキョーグール【S】」、ドラマ「獣になれない私たち」「3年A組 今から皆さんは、人質です」という流れで各現場に参加を果たした。また「地獄少女」の撮影中に「天気の子」のオーディションがあったというのだから、快進撃の始まりであり“転機”を招いた作品でもあった。
森「『地獄少女』が実写化するということを聞いて、本当に驚きました。脚本は、スピーディで面白いという印象でした。アニメ版や漫画版は“1話=1エピソード”ですが、映画では様々な登場人物の“物語”が同時進行で描かれていくので、気持ちがどんどん動かされてしまう。この形が、映画版ならではの楽しみになっているんです」
本作で挑んだ役どころは、「地獄通信」にアクセスしてしまう女子高生・市川美保。主演・玉城を中心とした“濃いキャラ”がうごめくなか、“普通さ”が際立つキャラクターだ。「一番、普通の女の子」という意識を保ちつつ「『地獄少女』は、非現実的なテーマが大部分を示しているので、見てもらう方に『実際にこんなことが起こるかもしれない』と感じて頂けるように」と徹底したようだ。その思いは、見事に作品へと反映されている。観客は“普通の女の子”を通じて「もしも自分だったら――」という思いを抱き、白石監督らしい“突飛な展開”を織り交ぜたストーリーに浸っていく。
美保は“普通の女の子”ではあるが、ストーリーが進むにつれ、「地獄通信」にアクセスしてしまうほどの情念を宿した人物へと変化を遂げる。負の感情に支配されていく姿に、痛切な苦悩を感じるだろう。森は、その代償ともいうべき“強烈な描写”にも果敢に挑んでいる。スクリーンに映る壮絶な姿は“どんな役でもこなす”という意志の表れのようにも思えた。
森「白石監督は、自分が実際にそのような目に遭っていると感じてしまうほど、モニターの前で身をよじらせていました。情熱的な方だったので、その熱量に負けたくなかったんです」

蒔かぬ種は生えぬ――森の芝居力は、どこから端を発したものなのだろうか。「原点を探りたい」という思いが沸々と沸き上がる。キーパーソンとなったのは、「Woman」「カルテット」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」といった傑作ドラマを世に放った脚本家・坂元裕二だ。「坂元さんが紡ぐセリフは、今まで自分の中にあったのに『自分でも気づいていなかった、どうしても言葉にできなかったこと』を教えてくれます。心の教科書のようなものになっているんです」と語り、16年のスカウト以前“大分に住んでいる普通の子”時代を見つめ直した。
森「坂元さんのシナリオ本を手に入れようとしたんですが、中学生の頃だったので買えなかったんです。だから、録画した作品を何度も停止させながら、自分で脚本を書き起こしていました。その脚本をもとに、友達とセリフを言い合ったりして――今考えると、それが“最初の演技”ということになるのかもしれません」
セリフの1文字1文字と向き合いながら、役者としての道を歩み始めていた森。そうなると気になってくるのが“今の試み”だ。「芝居へと還元するために、普段行っていることは?」と質問を投げかけると、「こんなことを言うと、意識高いって思われるのかな……そんなこと喋ってるのに『それまでかよ!』と言われたら、本当に悲しい(笑)」と照れ臭そうに口ごもる。やがて、彼女が告白したのは“根っからの役者”という言葉を想起せざるを得ない、驚きの手法だった。
森「いつも芝居のことを意識しすぎてしまうんです。例えば、私生活で泣きそうになってしまう時、『あ、今こういう気持ちなんだな』と冷静になってしまって涙が引っ込んでしまう。『この気持ちがいつか使えるかもしれない』『応用する時がくるかもしれない』と考えてしまうんですよね。今までの役の作り方も『こういうところが誰かに似ている』『自分の中のこういうものを引っ張り出そう』という意識なんです。その“引き出し”をまた作ろうと思って、すぐに涙が引っ込んでしまう。だから、プライベートであまり泣けなくて、悩んでいます(笑)。癖になっちゃっているんです。口癖のような――つまり“想い癖”ですね」
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さらに、目を丸くしてしまうエピソードもあった。ある時、過呼吸になってしまった森。慌てふためき、助けを求めるかと思いきや、まず行ったのは、自らの手の撮影(=記録)だった。「過呼吸になった時、手って震えて固まってしまうんです。どうしても動けなくなっていましたし、だったら『(芝居の参考にするために)この手の形を覚えておけばいい』と。思い通りの芝居ができないこともあります。だから『まだまだ(技術が)足りない』と思ってしまって――負のループですね(笑)。でも、それが楽しいんです」と明け透けに話す姿に、末恐ろしさすら感じてしまう。
森「芝居に対する自信は、まだないです。『天気の子』で“声の芝居”に熱中していた頃、実写作品の芝居を数カ月やっていなかったので、少し自信を喪失していました。でも、それからいくつかの作品に携わらせてもらったことで『やっぱり芝居は楽しいな』って思えるようになったんです。これからもたくさんの作品に携わっていきたいなと思っています。昨年よりは“見てもらえる機会”が増えたので、その楽しみも発見できています」
“夢だった”というNHK連続テレビ小説(窪田正孝主演「エール」)への参加も実現させ、活躍の場は右肩上がりで増え続けている。現在18歳、これからの成長が楽しみでならない。
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