村上春樹が描く女性像「日本的ではなく、世界のどこにでもいる女性」デンマーク人翻訳家が来日
2019年10月1日 15:00
[映画.com ニュース]村上春樹作品の翻訳を手がけるデンマーク人翻訳家を追ったドキュメンタリー「ドリーミング村上春樹」の公開を記念し、村上氏が1979年に発表したデビュー作を大森一樹監督が映画化した「風の歌を聴け」(81)上映イベントが新宿武蔵野館で9月30日にあり、デンマーク人翻訳家のメッテ・ホルム氏と女優の室井滋がトークを行った。
映画「風の歌を聴け」を初めて鑑賞したホルム氏は、「その時代の雰囲気をよく伝えている。フランス映画のよう。当時の若者の寂しさを伝えている」と感想を語り、「翻訳は作家が書いた言葉をそのまま、できるだけ同じように話させたい。映画にはできないこと。でも映画は(原作を用いて)新しい世界をつくること」と翻訳との仕事の違いを説明した。
学生時代から自主映画で活躍し、「風の歌を聴け」が商業映画デビュー作となった室井。小林薫が演じる主人公“僕”の“三番目の女の子”という役柄。後に自死する仏文科の女子学生という難役だ。人物像を描写する鍵として、“三番目の女の子”が12歳の頃の写真が登場するが、当時室井は21歳。自身が12歳になりきった役作りについて明かし、「『ノルウェイの森』まで熱狂的なファンで、いつも村上さんの(小説の中の)女の子が頭の片隅にあった。でも、そんな風に生きてはいけない、あの世界にいたかったけどいちゃいけないと思った。この映画を見直して、また当時に戻ってしまいそうだった」と、村上作品に登場する女性たちに思いを馳せた時代があったそう。
メッテ氏は「彼の書く女性たちが好き。日本語で書いてあっても、日本的ではなく、世界のどこにでもいる女性。私たちの誰もが同じような部分があるのではないでしょうか」と観客に向けて語りかけた。
翻訳の仕事で行き詰まったときに村上氏に質問することはあるのかと問われると、「だいたい答えてくれません。村上さんも翻訳者だから、よくわかっている。私が読んだことを翻訳してくださいと言われます。でも、バカらしい質問には答えてくれます(笑)」と回答。世界各国の村上作品の翻訳者と英語でやり取りすることもあるそうで、「『1Q84』のふかえり(登場人物の少女の名)の言葉には漢字がありません。デンマーク語では表現できない。大文字と?などの記号を使わずに表現しました」とポーランド語の翻訳者とやり取りした際のエピソードを明かした。
そして、村上氏の小説と出合ったからこそ、翻訳の仕事を続けられたと言い、「翻訳は孤独で少し寂しい仕事。でも村上さんの作品の翻訳者として知られるようになり、デンマークで彼の声(を代弁する)になっている」と述懐した。
「ドリーミング村上春樹」は、20年以上にわたり村上春樹の小説をデンマーク語に翻訳しているホルム氏の仕事を追うドキュメンタリー。10月19日から新宿武蔵野館ほか全国で公開。
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