仏アニメ界の巨匠ミッシェル・オスロ監督が描く、ベル・エポックのパリと女性への優しいまなざし
2019年8月24日 12:00
[映画.com ニュース] アヌシー国際アニメーション映画祭2018のオープニングを飾り、第44回セザール賞で最優秀アニメ作品賞を受賞したフランスアニメーション界の巨匠ミッシェル・オスロ監督の最新作「ディリリとパリの時間旅行」が公開された。ニューカレドニアからやって来た少女ディリリを主人公に、19世紀末から20世紀初頭のベル・エポック期の美しいパリの街を舞台に描いた冒険物語。来日したオスロ監督に話を聞いた。
ディリリは、パリで出会った最初の友人オレルとともに、少女たちの誘拐事件の謎に挑む。キュリー夫人やパスツール、ピカソ、モネら時代を彩った天才たちに協力してもらいながら、エッフェル塔やオペラ座、バンドーム広場などパリの街中を駆け巡って事件解決を目指す。
もともと、この時代を取り上げようとは考えていませんでした。まず、ストーリーとして、女性や少女を擁護する作品を作ろうと思ったのです。そして、美しさも重要なことです。パリという街そのものの風景がすばらしい。そして、ベルエポックについて、多くの資料を読み込みました。プルーストの「失われた時を求めて」の全巻も読みましたし、サラ・ベルナールの回想録も素晴らしいものでした。そこで、ベルエポックがとても豊かな時代であったことを知ったのです。フランスのみならず、様々なところから集まった才能がパリに集結していたのです。この時代を選んでよかったと満足しています。私にとって、文明こそが男性支配の解毒剤の役割を果たすと思ったのです。そしてまた、衣装が美しいことも理由のひとつです。女性たちが、すそが地上に着く位のロングドレスを着ていた、最後の時代です。そんな夢を見てもらうのも私の仕事ですから。
女性と少女を擁護するという目的の映画ですから、まず主人公を少女に設定しました。ベルエポックリサーチするなかで、素晴らしいことをたくさん発見しましたが、唯一の欠点は、記録にほぼ白人しかいないことだったのです。私の作品群では、白人しか出てこない作品はありません。すべて、いろんな文明、いろんな人種が混ざり合ったできたものです。今回も、中国人、アフリカ人、チュニジア人などの登場人物がいます。また、当時実在したカナック原住民村というものも描きました。ディリリは有色人種で、混血の子。それは、どちらの国に行っても、排斥される、そういう設定を敢えて選びました。
今回の作品のために、すべて私が撮ったものです。環境局の人たちを含め、パリの人たちは好意的な反応で、オペラ座にも下水道にも入ることができ、ひとりで、自由気ままに写真をとりました。普段は立ち入り禁止のオペラ座の屋根にも登れましたし、古くはビクトル・ユゴーのレ・ミゼラブルで書かれていますが、やはり下水道のミステリアスな部分にもワクワクしました。
残念ながら、やはりまだまだ男性社会です。プロデューサーやアニメーターに女性はいますが、作画も脚本も手掛ける女性監督はほとんどいませんね。有名な監督は「ペルセポリス」マルジャン・サトラピくらいですが、これから増えていくでしょう。ふたりの女性監督が手掛けた「カブールのツバメ」という作品が、今年のカンヌ映画祭ある視点部門に出品されました。
「ディリリとパリの時間旅行」は、東京・YEBISU GARDEN CINEMAほか全国で順次公開。