「グリーン・デスティニー」でオスカー獲得! ティム・イップ、自身の“歩み”を振り返る
2019年8月19日 18:00
[映画.com ニュース] ハリウッド映画や香港映画の美術、衣装に長年携わり、アン・リー監督作「グリーン・デスティニー」で第73回アカデミー賞美術賞を獲得したティム・イップ。ニューヨーク・メトロポリタンオペラの仕事が控えるなか、単独インタビューに応じ、映画界での“歩み”を語ってくれた。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
香港理工大学で写真を学んでいたイップが、映画界へ足を踏み入れるきっかけとなったのは、香港で開催されたアートの大会だった。「僕の手がけた絵画や写真が1等賞を取ったことがあった。その頃『Film Workshop』というプロダクションを設立したばかりだったツイ・ハーク監督が、僕のアート作品を気に入ってくれて、雇ってくれたんだ」と明かし、ジョン・ウー監督作「男たちの挽歌」のアシスタントディレクターとして働くまでの経緯を語った。
イップ「ツイ・ハーク監督が、当時香港で頭角を現していたジョン・ウー監督とタッグを組むことを決めたんだが、その際に僕を紹介してくれたんだ。ジョン・ウー監督は、若手のスタッフとも気軽に話すタイプの人物。『男たちの挽歌』から、僕らは親しい友人関係になれたんだ。当時さまざまなことを話したのを覚えている。この作品のセリフの大半は、監督自身が執筆しているんだよ」。
しばらくの間、香港映画界で働き続けたが、クリエイティブ面で息詰まった25歳の時、欧州へ長期の旅に出ることに。欧州の芸術作品に影響を受けてきたイップは「直接それらの作品を見に行くことを決めた。そのなかでもミケランジェロの作品群は、内包された彼のエネルギーが作品に満ちあふれていて、とても素晴らしかった。時が止まったような平静を感じさせるギリシアの彫刻も好きだったが、特に影響を受けたのは、ヨーロッパの女性の美やセクシーさを描いたボッティチェリの絵画だ」と振り返り、帰国後は、台湾の演劇に関わることになった。
香港映画「Temptaion of Monk(原題)」の後、次回作の予定を入れず、魅力的な舞台を上演していた台湾で仕事を始めたイップは、同所でアン・リー監督と運命的な出会いを果たす。「台湾では7年間を過ごしたが、多くの世界の文化や音楽も学んだ。アン・リー監督から『恋人たちの食卓』の美術担当を打診されたが、別の仕事の都合で、惜しくも参加は叶わなかった。でも、当時の台湾の舞台は、観客の態度があまり良くなかった。そろそろ映画の世界に戻りたいと思っていたんだ」という思いに応えるように、「グリーン・デスティニー」へのオファーという吉報が届いたそうだ。
イップ「(オファーを受けた時は)撮影まで2カ月、脚本も完成していない状態。既に決まっている内容をベースに、どのように美術を進めていくのかを毎日検討していた。『グリーン・デスティニー』は低予算の製作、さらにロケーションも多かったため、次から次へと撮影を進めていかなければならなかった。監督とスタッフが撮影を行っている際、僕ら美術チーム(約10人)は、次のロケーションへ行き、セットの準備を進めていたね。監督とデザインに関して話し合ったことは、時代設定は清朝だがリアルを超越した幻想的な世界を描くこと、次にあくまで叙情的でアートなものに仕上げることだ。だからこそ、建物の柱を極力含めない映像を目指し、衣装をモノトーンカラーで統一した」
「レッドクリフ Part I」「レッドクリフ Part II 未来への最終決戦」については、相次ぐキャスティングの変更で撮影が遅れた。「当初予定してた撮影日から1年も延長したが、その影響で準備に十分な時間を割くことができ、『三国志演義』に詳しい教授19人のサポートも入っていた」と告白。重要な課題となった「“赤壁の戦い”の描き方」については「アメリカの映画プロダクションの方々と会い、美術に関する助言をもらったんだ。劇中では何百、何千もの船が描かれているが、実際に造ったのは16隻。セットにはエキストラ2000人がいたんだが、スタッフだけでコントロールをするのは難しかったので、中国の軍隊にも手伝ってもらった」と述懐しつつ、同作が壮大なスケールで撮影されていたことを打ち明けた。
イップ「(超大作だったため)予算を大幅に超え、プロデューサーのテレンス・チャンは大変だったはず。中国とアジア諸国では『Part I』『Part II』という形で公開されたんだが、アメリカでは2時間以上も編集し、1本の作品として上映されることになってしまった。監督は、その処置に対して怒っていたね。でも、アメリカでチケットを売るには仕方のないことだったんだ」
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
ホワイトバード はじまりのワンダー NEW
いじめで退学になった少年。6年後、何をしてる――?【ラスト5分、確実に泣く“珠玉の感動作”】
提供:キノフィルムズ
映画料金が500円になるヤバい裏ワザ NEW
【12月“めちゃ観たい”映画が公開しすぎ問題】全部観たら破産確定→ヤバい安くなる裏ワザ伝授します
提供:KDDI
【推しの子】 The Final Act
【社会現象、進行中】鬼滅の刃、地面師たちに匹敵する“歴史的人気作”…今こそ目撃せよ。
提供:東映
モアナと伝説の海2
【「モアナの音楽が歴代No.1」の“私”が観たら…】最高を更新する“神曲”ぞろいで超刺さった!
提供:ディズニー
失神者続出の超過激ホラー
【どれくらいヤバいか観てみた】「ムリだよ(真顔)」「超楽しい(笑顔)」感想真っ二つだった話
提供:プルーク、エクストリームフィルム
食らってほしい、オススメの衝撃作
“犯罪が起きない町”だったのに…殺人事件が起きた…人間の闇が明らかになる、まさかの展開に驚愕必至
提供:hulu
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
文豪・田山花袋が明治40年に発表した代表作で、日本の私小説の出発点とも言われる「蒲団」を原案に描いた人間ドラマ。物語の舞台を明治から現代の令和に、主人公を小説家から脚本家に置き換えて映画化した。 仕事への情熱を失い、妻のまどかとの関係も冷え切っていた脚本家の竹中時雄は、彼の作品のファンで脚本家を目指しているという若い女性・横山芳美に弟子入りを懇願され、彼女と師弟関係を結ぶ。一緒に仕事をするうちに芳美に物書きとしてのセンスを認め、同時に彼女に対して恋愛感情を抱くようになる時雄。芳美とともにいることで自身も納得する文章が書けるようになり、公私ともに充実していくが、芳美の恋人が上京してくるという話を聞き、嫉妬心と焦燥感に駆られる。 監督は「テイクオーバーゾーン」の山嵜晋平、脚本は「戦争と一人の女」「花腐し」などで共同脚本を手がけた中野太。主人公の時雄役を斉藤陽一郎が務め、芳子役は「ベイビーわるきゅーれ」の秋谷百音、まどか役は片岡礼子がそれぞれ演じた。