ベルリン金熊賞受賞のイスラエル映画監督、「フランス人になり切る為にサバイブ生活した」
2019年6月24日 10:00
ラピド監督が、自身の経験を基に、故郷のイスラエルを離れ、フランスに移住した青年ヨアヴが経験するパリの生活と、自国への批判をシニカルかつユーモアを交えて描き、第69回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した。ラピド監督「フランス映画祭の出品作ではありますが、自分は100%イスラエル人です」と自己紹介した。
映画ではイスラエルの兵役生活のシーンが描かれる。「高校を卒業してから3年半、国境近くでハードな兵役生活を送った」と母国の徴兵制度について話す。そして、除隊後1年半ほど過ぎた頃、「ある日突然、ジャンヌ・ダルクが天の声を聞いたように“自分の魂を救うためには、この土地を去って、二度と戻ってきてはいけない”という衝動に駆られた」という“啓示”があったことを明かす。
その10日後にはパリへ向かい、「イスラエル人としての自分は、もはや死んだものとして、ヘブライ語も今後一切喋らず、イスラエル人の知人とのコンタクトも一切止めた。2年半の間、パリでありとあらゆることをしながら、フランス人に成り切る為にサバイブ生活をした」と、告白。「映画化するにあたってはもちろんフィクションも含まれるが、自伝的な要素がかなり大きな割合を占めている」と説明した。
観客から、昨年日本でも公開されたイスラエル映画「運命は踊る」などを引き合いに、「近年、イスラエルが抱える政治的な矛盾をテーマに映画を製作する作家が増えているのか」と問われた監督は、「海外で公開されている作品にそのような内容のイスラエル映画が多い傾向にあるようだが、実際にイスラエル国内で上映されている作品の中には、大衆的なコメディ映画やロマンチックコメディなども沢山ある。それらの作品においては、一切イスラエルに対する批判は描かれることはありません」と解説しつつ、「表現活動をするアーティストにとって、自身を取り巻く環境に対して問題意識を持つ、自問自答することは、極めて自然なこと」だと持論を述べた。
さらに、ラピド監督は「本作のヨアヴを例外として、どんなに勇敢でマッチョで強い人であっても、自分たちが暮らすイスラエルに対しては何も疑問を持たずに生活している人々が大半」だと語り、本作を通じて「イスラエルの現状を批判して、新たな解決策をもたらそうとした訳ではなく、近年イスラエルに横行する“何も疑問を持たずに生きている人たち”に向けて、警鐘を鳴らしたかった」と製作の意図を説明した。
そして最後に「“アイデンティティとは何ぞや”という疑問を投げ掛けるこの作品は、決してイスラエルやフランスだけに関わることではなく、いかなる国の人たちにも共通して言えることだと思います。どんな国も決して完璧なわけではなく、暴力的な側面や偽善的な部分といったものが存在します。自身のアイデンティティを完全に捨て去ることは出来ないのです」と会場に語りかけた。
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