【ホラー映画コラム】“これはマジ勘弁”詰め合わせパック「ネイルズ 悪霊病棟」の地獄の入院生活
2019年6月22日 20:00
[映画.com ニュース] Twitterのホラー界隈で知らぬ者はいない人間食べ食べカエル氏(@TABECHAUYO)によるホラー映画コラム「人間食べ食べカエル テラー小屋」では、ホラー映画専門の動画配信サービス「OSOREZONE」の配信中のオススメ作品を紹介。“人喰いツイッタラー”が今回セレクトしたのは、“地獄の入院生活”を描いた「ネイルズ 悪霊病棟」だ。
プロの怖がりにとってトップレベルの大敵が入院である。様々なホラー作品により、病院は霊の集合団地みたいなものという認識(※あくまで私個人の考えです)を植え付けられているので、もう入院が怖くて怖くてたまらない。
先日、ある検査のため一晩だけ病院で寝泊まりしたのだが、その時も本当に怖かった。泊まった部屋が個室で、部屋の中央にベッドが配置されており、左側には大きめの鏡、右側にはトイレがあり、どちらを向いて寝ても霊に背後を取られる恐怖に苛まれ、どうか何も出ないでくれと祈りながら朝を待った。夜中に突然、隣の部屋からおばあちゃんらしき人の大声が聞こえたのもかなりキツかった。
一晩だけでもあれだけ辛かったので、長期入院なんかした日には耐えきれないだろう。できる限り病院のお世話にならないよう、体を大切にしたい。
さて、前置きが長くなってしまったが、今回紹介する作品は「ネイルズ 悪霊病棟」だ。この作品は、観る者に入院=恐怖という図式を植え付ける非常に凶悪な作品である。
交通事故で瀕死の重傷を負った陸上競技コーチのデイナ(ショーナ・マクドナルド)は、なんとか一命をとりとめるが、身動きを取れない入院生活を送る羽目になる。しかもその病院には当たり前のように曰くつきで、恐ろしい悪霊が夜な夜な現れては、彼女を襲うのだった……。
「ディセント」シリーズのショーナ・マクドナルド主演で贈るオカルトホラー。怪我の影響でベッドの上から身動きが取れず、人工呼吸器をつけているため声を出す事すらままならない不便極まる入院生活。薄汚れた不気味な病室。毎晩のように悪霊の恐怖に脅かされて、しかも周りの人はそれを信じてくれない……。もしも入院生活を送るようになったときに、こんなことが起きたら嫌だなと思うこと全ての詰め合わせパックみたいな内容だ。
この逃げ場のない設定だけでも十分怖いが、その設定を存分に使った恐怖描写、次の瞬間にも何かが出てくるかもしれないという不安を高める巧みな画作りと演出で、その恐怖を更なる高みへと引き上げる。体が固定された状況で、夜中になると目線の先にある扉が開いて……というような、本当に性格の悪い(※褒めています)シーンの目白押しだ。更には、誰も怪現象を信じてくれないことによる孤独感もセットで襲ってくる。心身ともに追い詰められる主人公の恐怖を、嫌というほど体感できる作りとなっている。
その恐怖の元凶となるのは、ネイルズと呼ばれる爪の悪霊だ。爪の悪霊って何?という方が殆どだと思うので、ネタバレにならない範囲で簡単に説明すると、爪がそこそこ伸びている恐ろしい悪霊である。先に書いたように、こいつは驚かすよりもジトーッと嫌な汗をかかせるような奥ゆかしい怖がらせ方を得意としている(後半はまあまあ攻めてくるけど)。恐怖が後を引く一番厄介なタイプだ。
病院のホラー映えする景観を活かした、音や空気感を駆使した恐怖描写が冴え渡る。顔面もインパクト抜群で、本作を観た日の夜は高確率で夢に出てくることだろう。このネイルズが本格的に襲撃してくる中盤以降も、若干パワープレイ感は否めないが恐怖感は途切れない。悪霊の魔の手は、主人公だけでなくその家族や病院の職員まで巻き込み拡大していく。嫌だけど目が離せない、地獄の入院生活の果てに待ち受けるラストには本当に震え上がる。
本作は、(私の観測範囲では)日本国内リリース当時はあまり話題にはならなかったように感じるが、個人的にはかなり印象深い作品である。特に前半の、絶妙な湿度と不穏さを感じさせる作りと、病院という舞台設定が見事にマッチして、私の恐怖のツボに見事に刺さってしまった。「フッテージ」や「オキュラス 怨霊鏡」を観た後と似た後味の悪さもあるので、あのジワジワと追い詰められるような恐怖が好きな人はハマるかもしれない。
私個人としては、今後また入院するときに支障をきたすと困るので、もうしばらくは観ないで封印しとこうかなと思っているが、ホラー映画としては非常に良くできているので、入院に耐性があるホラー好きには是非お勧めしたい一本だ。
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