川村元気がフランスで明かした「天気の子」製作秘話
2019年6月17日 14:01
[映画.com ニュース] 「君の名は。」の大ヒットから3年、世界が待ち望む新海誠監督の最新長編映画「天気の子」が7月19日から全国で公開される。公開前の試写会は実施しないと発表されるなど、いまだ謎に包まれた本作の魅力の一端が、フランスで明かされた。
アヌシー国際アニメーション映画祭5日目となる6月14日朝、「Working in progress」と題されたプログラムに「天気の子」が取り上げられ、川村元気プロデューサーが登壇。同プログラムは、完成前の映画の製作過程を紹介する本映画祭ならの企画である。「天気の子」でも、企画誕生から最新の状況までをプロデューサーが自ら語った。
川村氏は東宝のプロデューサーで、同じ東宝の古澤佳寛氏と2017年に映画企画会社STORYを設立したことでも知られる。セミナーの冒頭は、川村氏のプロデューサーとしてのキャリアからスタート。「告白」や「悪人」といった実写映画のプロデューサーを手がけるなかで、細田守監督の「おおかみこどもの雨と雪」をきっかけにアニメに関わることになった。実写とアニメの両方を手がけるのは、テーマと物語に最も適した方法で表現したいからだという。実写とアニメに明確な線を引かず、表現方法を幅広く捉えていることがうかがえた。
その後が「天気の子」の製作について。ここでは「テーマ」「キャラクター」「背景」と3つのパートから作品を解説する。川村氏によると、「天気の子」のテーマは3つある。ひとつはタイトルにもある“天気”だ。“天気”は世界の全ての人に関係するもので、誰もがいつも気にするものだ。これにより普遍性がある物語が誕生することになる。
2つめは“雲のなか”。第1弾キービュアルにも描かれた雲が物語の鍵を握る。3つめは“少年と少女の東京におけるサバイバル”。都会における貧困といった今日的なテーマも、作品に関わってきそうだ。
「キャラクター」と「背景」では、設定や美術などの豊富な資料を見せながら作品の意図や、特長を説明していく。これまで公開されていない設定やビジュアルもたっぷりに、キャラクターの性格づけ、背景における光の効果など作品の意図を解説する。特に新海監督の持ち味でありながら前作「君の名は。」ではビジュアルとして使い切れなかった雨や雲、水の表現がたっぷり描かれるという。ここだけの情報が盛りだくさんで、参加者にとっては貴重な体験になったに違いない。
Q&Aでは、新海作品をよく知るファンから密度の高い質問も飛び出した。「君の名。」の大ヒットのあとの方向性に悩まなかったかを聞かれると、川村氏は次回作をもっとアーティステックに向けるのか、エンタテインメントにするのかかなり悩んだと明かした。その結果「ど真ん中のエンタテンイント」である「天気の子」に決めたという。
また、作品と音楽の関係についても興味深い答えがあった。今回も「君の名。」に続きRADWIMPSが劇中の音楽を担当するが、作詞も手がける野田洋次郎は「天気の子」ではあらすじ段階で曲を作り始めた。出来上がった野田の歌詞を見て、コンテや脚本を変えたこともあったという。映画と音楽がお互いに影響を与えているわけだ。
途中、新海監督のビデオメッセーシが紹介され、映画祭に行きたかったが仕上げの真っ最中のため訪問できなかったことを説明し、作品を楽しみに待ってくださいとの言葉が届けられた。そして最後に、映画の始まりの部分を特別に上映するサプライズ。作品の魅力と完成度の高さを感じるのは充分過ぎる内容で、会場を訪れた観客にとってはビッグなプレゼントになっただろう。(数土直志)