大剣豪の真実に切り込む「武蔵」監督が明かす、“本物”への異例のこだわり
2019年5月24日 13:00
[映画.com ニュース] 「“本物”であればあるほど、人は感動します。見ている方々の心を動かそうと思ったら、しんどいこと、危ないこともしないといけない」。そう語るのは、約6年かけてオリジナル時代劇「武蔵 むさし」を作り上げた三上康雄監督。撮影の日々を振り返ってもらうと、現代では異例ともいえる強いこだわりの数々が明らかになった。
三上監督が脚本・製作を兼ねた、史実に基づくオリジナルストーリーが展開する本格時代劇。小次郎の年齢を50歳半ばに設定し、若さみなぎる武蔵と円熟の小次郎による巌流島の決闘などを群像劇として描く。武蔵を細田善彦、小次郎を松平健が演じるほか、目黒祐樹、水野真紀、若林豪、中原丈雄、清水紘治、原田龍二、遠藤久美子、武智健二、半田健人、木之元亮らが共演する。
中学から大学にかけて剣道の稽古に励んできた三上監督にとって、武蔵は憧れの人だった。これまでも数々の作品で武蔵が描かれてきたが、「今までの武蔵はマーベルのヒーローみたいに遠い人という感じがした」といい、「実は剣聖でもない、剣豪でもない、我々と変わらない“人間・武蔵”という部分を一番見てもらいたいんです」と、自ら史実を検証した結果を映画で表現することを選んだ。
監督以外にも、脚本・製作・編集をひとりでこなしたからこそ「全部とことん突き詰めるから作品ができる」と妥協はせず、「一個一個が自分のなかで納得していく作業。逆に言えば、納得していないものを人に見せたらいけないと思う」と力を込める。
長回しで撮った決闘シーンにおいては、ことさら“本物”の迫力を求めた。松平や目黒には、使用する刀に違和感がないよう、撮影前の早い段階から刀をわたしていたという。「特に、目黒さんには撮影の2年ぐらい前から刀をわたしました。『(目黒が演じる)沢村大学の刀ですよ、沢村が沢村の刀を持って現場に来てください』と言いました。目黒さんの刀の使い方は本当にすごかったです。所作の先生の道場に40回も自腹で通って、真剣で藁を切ることにも挑んだそうです。撮影していて、ここにいるのは目黒さんなのか沢村さんなのかわからないっていうこともあった。本物を撮ろうと思ったら、まずは本物を作ること。抽象的な言い方だけれど、本物の状態にまでなれば“本物”が撮れる」。
自身が納得できるまでこだわった結果、劇中に登場する畑の大根は約1年かけて種から育てて撮影に使用した。しかし、大根にクローズアップされた場面はなく、物語の一風景として通り過ぎていく。「こだわって撮ったって、見ている人には関係ないことです。ただ、いい加減なものでごまかして自分を甘やかしてはいけないという思いがあったんです。昔、黒澤(明)さんも『赤ひげ』のときに、カメラには映らない棚の引き出しの内部に色が塗っていないのを知って、役者さんが見たらそれが表情に出ると怒ったという話がありました。結局、そういうことだと思います」。
そんな三上監督の映画作りにおける原点は、尊敬するスタンリー・キューブリック監督にあるそうで、本作にもその影響が色濃く反映されている。「本作を読み解くキーワードは、キューブリックです。映像で語ること。セリフで説明してはいけない。1コマ1コマをデザインする。左右対称の画にするために、役者さんに『右に1センチ動いて』って細かく動かして撮影していました。徹底してこだわり抜くキューブリックは、僕の師匠です」。
キューブリックの揺るぎなきこだわりを継承するオリジナルの時代劇映画が誕生し、「リアルさ、本物では大概の時代劇には勝ったと思っている。オンリーワンじゃない、ベストでしょう」と胸を張った三上監督。満足できるまで本物にこだわったからこそ、その言葉にも自信がにじみ出ていた。
「武蔵 むさし」は5月25日から全国公開。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。