【パリ発コラム】カンヌ映画祭ラインナップ発表 今年の傾向とNetflix問題
2019年4月28日 16:30
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[映画.com ニュース]4月18日に公表された今年のカンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション部門に続き、翌週に併設の監督週間、批評家週間のラインナップも相次いで発表され、一通りラインナップが出揃った。
今年はオフィシャルセクションに日本映画が入らなかったが、監督週間には三池崇史の「初恋」と、振付家、吉開菜央の短編監督作「Grand Bouquet」、批評家週間に富田克也の中編ドキュフィクション「典座 TENZO」が入選した。
監督週間は今年からディレクターが変わり、長年ベネチアで元ディレクター、マルコ・ミューラーのアシスタントとしておもにオリゾンティ部門に携わったイタリア人のパウロ・モレッティが就任。去年より4本も増えた24作のコンペラインナップは、そのうち16監督がカンヌ初体験というフレッシュな面子だ。アジアからは三池監督の他にラブ・ディアズ、ジョニー・マー。コンペに国際的なスター監督はいない替わりに、スペシャルスクリーニングにロバート・ロドリゲスの「Red 11」が上映され、マスタークラスを開催。同部門にはまた、音楽を坂本龍一が担当するルカ・グァダニーノの中編がある他、「黄金の馬車」賞がジョン・カーペンターへ授与される。全体的なカラーとしては、ファンタ、ジャンル系の他、大胆な作風のものが多いようで、若々しく攻めている感じがする。
それに比べるとオフィシャルセクションは逆に、新人が並んだ去年に比べ、常連の集いに戻ったような印象だ。オープニング作のジム・ジャームッシュに加えてケン・ローチ、ダルデンヌ兄弟、テレンス・マリック、ペドロ・アルモドバル、アルノー・デプレシャン、グザビエ・ドラン等。初監督は1本のみ。このなかに(常連を含めて)日本映画が食い込めなかったというのは、やはり邦画の力不足なのか。たとえばクエンティン・タランティーノのように(本人自ら『カンヌに来たい』と公言し、新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を突貫でポスプロ中だが、どうなるかはまだ不明)、ぎりぎりまで待ってでも、なんとしてもカンヌに参加して欲しいと映画祭側が願うような大物は、キャストにスターを擁しレッドカーペットの耳目を集めるハリウッド系に限られるのかもしれない。
劇場公開の有無を巡るNetflix問題も未だ解決を見ない。日本ではあまり知られていないので誤解を招きやすいのだが、「映画を守る国」フランスには特殊な税制とともに、公開システムにおいて他国で類を見ない厳しいウィンドウ規定(劇場公開から配信までのスパン)がある。これに乗っ取ってもし劇場公開をしたなら、Netflix作品はその後3年待たないと配信できないそうで、それゆえに対立が起こっているのだ。法律である以上一個人もしくは一会社の判断でなんとかなるものでないだけに、当然この問題は容易には解決しないだろう。Netflixが、カンヌがダメでなぜベネチアならいいのかとは、国によるこういったシステムの違いが背景にある。
そのかわりカンヌは、仏ユニバーサルと示し合わせジャームッシュのゾンビ映画「The Dead never Die」を、カンヌと同時にフランス全土400館以上で同時公開し、一般観客とともにカンヌのオープニングを祝うというお祭りを考案した。パワマウント(アウト・オブ・コンペのエルトン・ジョンの伝記『Rocketman』)やワーナー(『シャイニング』の修復版を上映)といった伝統的なスタジオと絆を強めているのも、新興の配信企業を睨み、従来の映画産業を守ろうとする姿勢の表れかもしれない。(佐藤久理子)
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