ディスり上等! 二階堂ふみ&GACKT「翔んで埼玉」に刻んだ耽美な“愛”
2019年2月26日 09:00
[映画.com ニュース] 「パタリロ!」で知られる魔夜峰央の人気コミックを実写映画化した「翔んで埼玉」が2月22日から公開されている。初週の映画ランキングでは堂々の第1位を獲得。2次元で完成されている荒唐無稽かつ耽美的な魔夜ワールドと、埼玉をとことんディスる内容の映像化に踏み切ったスタッフ陣の心意気に、まずは拍手を送りたい。さらに、ダブル主演を務めた二階堂ふみとGACKTによるキャラクターの作り込みは、感嘆に値するものだった。ディスり上等! そしてなによりも、作品の仕上がりも上等である!(取材・文/山崎伸子、写真/江藤海彦)
二階堂が演じるのは、東京都知事の息子にして、都内の超名門校・白鵬堂学院で生徒会長を務める壇ノ浦百美。都民から迫害を受けている埼玉県人に対し、百美も「そこら辺の草でも食わせておけ!」などと罵詈雑言を浴びせる。そんななか、アメリカ帰りの帰国子女・麻実麗(GACKT)が転校してきたことで、百美の心は大いに揺さぶられていく。映画では、原作にはなかった埼玉VS千葉という構図も盛り込み、物語をさらにドラマチックに盛り上げていく。
二階堂は初の男性役。「最初にどの役をオファーされたのかわからなくて、『女性の役ですか?』と聞いたら『百美です』と言われました。『ええ!? できるかな』とも思いましたが、それよりは『楽しそう!』という期待感が先行しました。きっとありえない世界観になっていくんだろうなという予感がしました」と振り返る。
その名のとおり、眉目秀麗な麻実麗役のGACKTは、オファーを受けた際、一度は断ったという。「本気かな? と。高校生役だし、ちょっと無理があると。でもボクは魔夜先生の大ファンだったので、先生のご指名だと聞いて『やってみます』となった。そして衣装合わせで、ここまで作り込んでくれる作品なんだとわかり、さらに初日にふみちゃんの姿を見て『これなら大丈夫』と確信した」。
メガホンをとったのは「のだめカンタービレ」「テルマエ・ロマエ」シリーズの実写化作品で知られるヒットメーカー・武内英樹監督。なんと百美と麗のキスシーンを、いきなり初日から撮ったそうだ。
GACKTは「それは武内さんの狙いだったのではないかと。最初にボクとふみちゃんを含め、関わっている人たちに、あの世界観をわからせようとしたんじゃないかな」と推測。「ボクたちは漫画やアニメのように美しいキスシーンにしようと思った。感情よりも画が大事だということで、2人の唇がつくタイミングが合わなければ終わりだから、距離感や角度を、カメラマンの谷川(創平)さんとも話した」と言葉を重ねる。全編を覆う耽美的なオーラは、撮影初日から発露されていたというわけだ。
武内監督が2人に求めたのは、決して笑いを取りに行かない真摯な演技。二階堂は「変にウケを狙おうとか、面白くしようと思うと、すぐ監督にばれてしまいます。そこの差し引きは、監督がコントロールしてくださいました」と、同監督への信頼感を口にする。GACKTも「どのシーンもすごく真剣にやっていたけど、正直、演じているボクたちは全体のつながりが見えてないから、なにが面白いのか、わからなくなることもあった。ボクだけなのか? と途中で心配になって、ふみちゃんに『このシーン、理解している?』と聞いたこともあって。ふみちゃんは『いえ、理解はしてないです。でも、それは武内監督が導いてくださいますから。それと……』とさらっと言って、言い切らないうちにどこかに行ってしまった。ボクはもう少し、最後の部分を聞きたかったんだけど」と苦笑いを噛み殺した。
日本映画としてはかなりの意欲作となったが、現場に入った2人は全くひるむことなく、振り切った演技を見せてくれた。だからこそ今作は、荒唐無稽のコメディ映画ではなく、極上のエンタテインメント作品に“着地”することができたのだろう。
GACKT自身も「正直、ボクも試写を見るまでは、大丈夫かな? と思うところがあった」と、最初は仕上がりに半信半疑だったよう。しかし、その不安は試写会場で払拭された。
「映画を見ながら『なんてくだらないんだ』と何度も思い、自分も心から笑ってて。周りは関係者ばかりで、けっこうお堅い人たちもいるのに、みんなが声を出して笑って。途中で『海外の映画館みたいだ』と気づいた。映画館って、海外ではひとつのコミュニティーだと思っていたけど、日本でもこういうふうに見てもらえるのなら、もっと映画界も盛り上がるのでは、と思った」
完成した映画を見ると、この2人なくして「翔んで埼玉」は成立しなかったと改めて実感させられる。キャストやスタッフ陣の並々ならぬ思いは、“ディスり”を“愛”へと昇華させ、普遍的なメッセージをも組み込んだ壮大な“オペラ”を編み上げた。
GACKT「人は誰でも心のなかに優越感や劣等感を持っていて、その間で右往左往していると、ボクも昔、言われたことがある。これは特定の人の話ではなく、それぞれの人たちが住んでいるエリアでも当てはまる話。だからこそ、『くだらない』と笑いながら見てほしい」
二階堂「映画はいろいろなタイプのものがあります。本作を経て、必ずしも共感だけで映画を作る必要はない、と感じました。例えば本作だと、意図していないところで共感が生まれることもある。自分のアイデンティティや劣等感、自尊心などをかきたてられる、エンタテインメント作品に仕上がったと思います」
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