ベルリン国際映画祭はイスラエル人監督作に金熊賞!F・オゾン監督作は審査員グランプリ
2019年2月18日 13:00

[映画.com ニュース] 第69回ベルリン国際映画祭の授賞式が2月16日に行われ、金熊賞をイスラエル人監督ナダブ・ラピドの「Synonymes」が受賞した。
本作は、国籍を捨てたいイスラエル出身の青年が、仏パリに渡り同化しようとしながらもさまざまな壁に突き当たる物語。だが粗暴ともいえる主人公のキャラクター設定や説明を省いた描き方、暴力的なまでに荒々しい映像などから、いかようにも解釈できる内容ゆえ、賛否両論に。また物語の性格上、イスラエルやフランスでもすでに議論が持ちあがっている。もっとも、ラピド監督は受賞会見で、「政治的な観点からだけでこの作品を見ないで欲しい。博愛主義や実存主義的な面もあり、祝祭的な部分もある」と語った。
審査員グランプリに輝いたのは、フランソワ・オゾンが実際に起きた神父による性的虐待事件を題材にしたフィクション「By the Grace of God」。カトリックの僧侶が長年にわたり少年たちに性的行為をおかしてきた事実を、教会組織全体が見逃してきたなか、30年余を経てようやく訴訟に持ち込もうとした被害者たちの姿を描く。これまでの作品とは一線を画した社会派だが、オゾン監督は「『スポットライト 世紀のスクープ』のフランス版と呼んでもらって構わない。ただし僕は教会を糾弾することが目的ではなく、むしろ被害者たちの苦しみ、彼らの声を知ってもらうことを目的に作った」と語った。
男優賞と女優賞は、中国映画「So Long, My Son」で夫婦を演じたワン・ジンチュンとメイ・ヨンが揃って受賞。事故で息子を失う夫婦を中心に、彼らをとりまく親戚、友人たちの長年にわたる絆を叙事詩的に描いた作品である。監督賞には、こちらも金熊賞同様に野次と拍手が同時に沸き起こったアンゲラ・シャーネレク監督のドイツ映画「I was at Home, but」。ストローブ=ユイレ的とその作家性を絶賛する声と、神経に障る勿体ぶった演出という批評に分かれた。

脚本賞は、「ゴモラ」の作家ロベルト・サビアーノが共同脚本を務める、ナポリの少年たちの犯罪グループを描いたショッキングな作品「Piranhas」。革新的な映画を評価するアルフレッド・バウアー賞は、母親に見放され施設に預けられる問題児の少女を追ったパワフルなフィクション「System Crasher」へ、芸術貢献賞はハンス・ペテル・モランドのノルウェー映画「Out Stealing Horses」の撮影を担当したラスムス・ビデベックに、それぞれ授与された。
今年は中国映画が急きょ2本も上映中止になったり、映画祭期間中にドイツの名優ブルーノ・ガンツが死去し、今年でディレクターの座を去るディータ・コスリックが追悼を捧げたりと、突発的事態に見舞われた。全体の特徴を振り返るならば、やはり女性監督の活躍が目立ったと言える。また併設部門では日本映画の若手世代の監督たちの活躍も忘れられない。
第70回に当たる来年は果たして、新ディレクターのもとで映画祭がどのような局面を迎えるのか、伝統を受け継ぎながらもどんな変貌を見せるのか、今から楽しみである。(佐藤久理子)
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