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「“家族”を改めて考えた」岸部一徳、野尻克己監督デビュー作で息子を亡くした父親を繊細に体現

2018年11月16日 09:00

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「鈴木家の嘘」岸部一徳と野尻克己監督
「鈴木家の嘘」岸部一徳と野尻克己監督

[映画.com ニュース]第31回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ部門」で作品賞を受賞した、野尻克己監督の長編デビュー作「鈴木家の嘘」が11月16日公開する。引きこもりだった長男が自死し、ショックで記憶を失った母のために残された家族が真実を隠し、様々な“嘘”で母の笑顔を引き出そうと奮闘する姿、そして再生までの道のりを、笑いあり涙ありのエモーショナルな演出で活写する。岸部一徳が一家の主、幸男を味わい深い演技で繊細に体現。「“家族”を改めて考えた作品」だという岸部と野尻監督に話を聞いた。(取材・文/編集部 撮影/間庭裕基

 今作は野尻監督の実体験が基になっている。現実に起こった悲しみを創作物に昇華するまでの道のりは、決して平坦なものではなかっただろう。初監督作品で、家族の喪失というテーマを選んだ理由を明かす。「いくつか過去に脚本を書いていましたが、どこか浮ついたものしか書けなくて。やはり、覚悟とか、撮る根拠のあるものを書かなきゃいけないなと考え、この題材を選びました。兄が死んだことによって、家族ってなんだろうと考えるようになりましたが、プライベートな話だけを作品に収めることは好きではないので、観客が見て、共感できる映画にしたかったのです」。

“嘘”をモチーフにしたことについては「古典も“嘘”を扱った作品が多いと思います。自分が作り出した虚構によって、よりその人の本性が見える……自ら墓穴を掘るということになるのですが、そこが人間らしいと思うのです。あとは、僕の家族が会話が少なく、あまり真剣に話したことがなかったんです。むしろ隠していることの方が多いと思っていたので。ワイワイと楽しそうに話しているホームドラマを見て、こんな家族本当にいるの? と感じる方でしたし。そういった家族への僕なりの抵抗みたいなものもあります」

脚本執筆時から幸男役には岸部を想定していた。「無口で頑固だけれども、こわいというよりもおかしみが出るような方がいいなと。それがこの映画をユーモアを交えた、広がりのあるものにしてくれると思ったのです。なので最初から岸部さんの顔しか思い浮かびませんでした。過去にお仕事をさせていただいたこともあり、現場での感じも素敵ですが、お芝居が終わった後に僕が見た、素の佇まいがよかったのです」

野尻監督の脚本を読んで出演を即決したという岸部。「一言で言うと『いい脚本』。これまで演じたものと一味違ういい本だと思っています。ですから、是非出演したいと思いましたね。最近、なかなか脚本だけ読んで出たいと思う作品は少ないんです。これは脚本も良かったし、共演の方々も良い方ばかりでした」と振り返る。

画像2(C)松竹ブロードキャスティング

突然息子を失い、その足跡を辿る父という、繊細な心の動きを求められる難役だ。家長の役目を言葉だけではない存在感で体現した。「自分自身も父親なので、この鈴木家のお父さんと自分を比べてみると、僕は父親としてどこかいいかげんで、幸男の方が父親らしいなと。でも、誰しもいいかげんな部分があるのではないでしょうか。そのいいかげんさが、幸男のどこかにもくっついていると思うのです。彼はきっと、これまでそんなにむつかしく生きておらず、長男が亡くなるという問題に直面して、初めて何かをしなければ……と、受身から始まっている。そこを面白く感じながら演じました。黙っていても成立する役って少ないんです。リアクションだけでそこに存在する――映画の良さはそこにあるのだといつも思います。そういった部分もこの映画の中にきちんとあって、とても居心地のいい役でした」

ふたりにとっての現実の“家族”について聞いた。「難しいですよね。こういう仕事をしているからというわけではなく、自分の性格なのかもしれませんが、現実では理想の家族を作れなかったのかなという気持ちもどこかにあります。今回この映画を見て、“家族”を改めて考えた気がします。自分にも息子がおりますが、一番記憶に残っているのは、生まれてから小学生あたりまで。そして、知らないうちに30歳を超えて、結婚して……その間の僕がかかわっていない時間が本当に長い。今までそれに気づかなかったんです。この映画に出て、僕が息子にかかわらなかった時間みたいなものは、どこにあったんだろうとちょっと考えさせられました。そういう意味でも、やってよかった作品です」(岸部)

「僕自身は友達や仕事の仲間がいれば十分で、家族という存在を全く気にしていませんでした。けれど、兄を失ったときに、胸をえぐられたような気がして。正直言うと、僕は兄を恥ずかしい存在だと思っていたところがあって、そういったことも含めて、人間は死んでしまえば、何も残らないだろうと思っていたのに兄は確実に痕跡を残していった。その時に、初めて家族というものを考えました。一方で、作られた“いい家族”像というもので苦しんでいる人もいっぱいいると思うんです。空気のような存在でもいいんじゃないですか、という考えも必要だと思います」(野尻)

隣に座った野尻監督を見て、「年齢的にも僕の息子でもおかしくないな」とつぶやく岸部。その言葉の通り、まるで親子のようにも見えるふたり。岸部が「ご家族は映画を見てどんな反応だった?」と野尻監督に問いかけると、「母親の第一声は『音楽がすごく良かった』でしたが、『ありがとう』と言って多分泣いてましたね。父からは『見応えのある作品だった』と握手されました」と報告していた。

誰しもが自分の一番身近な人間たちの存在について考える一作。ぜひ、劇場で鈴木家のその後に思いを巡らせてほしい。

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