舘ひろし&黒木瞳が体現した、夫婦が求める理想形
2018年6月10日 10:00
[映画.com ニュース] 端的でいて、なんとも意味深なタイトルである。舘ひろしは「ちょっと引きましたね」と身構え、黒木瞳は「ギャグだと思いました」とすんなり受け入れた。真逆の印象を抱いた2人が「終わった人」で見せた夫婦像は、真剣であればあるほどユーモアにあふれ、思いが強いほどにすれ違う。ただ、そこには互いへの敬意を込めて長年連れ添ってきた確かな時間が流れていた。
舘と黒木の共演は映画では初めてだが、空白の間に互いに培った経験があったからこそ、機が熟し自然な形で夫婦になれたと声をそろえる。
黒木「30年くらい前から知っていますし、舘さんが限りなく夫婦に近い友人でいてくださったので」
舘「(ドラマ上では)結ばれなかったけれど、どこか夫婦みたいなところはありましたよ。ちょっと前だったら肉体関係までいっちゃうと思うから危なかった」
黒木「“あぶない夫婦”になっていました。でも、舘さんなら身も心も捧げますよ」
舘「よく言いますよ。ほら、上から目線でいい加減なことを平気で言う」
舘の言葉通り、「終わった人」はダメ亭主としっかり者の妻という構図である。出世競争に敗れ、子会社で定年を迎えた田代壮介は“妻孝行”にいそしもうとした矢先、美容師の妻・千草からあっさり突き放されてしまう。ダンディズムの象徴ともいえる舘のしょぼんとした哀愁漂う演技は新鮮だ。
舘「楽しかったですよ。中田秀夫監督がとにかく格好悪くということで、おなかも出して老眼鏡もちょっと斜めになっている。監督がそういう画(え)が欲しかったんだろうし、『アバウト・シュミット』のジャック・ニコルソンのようにしたいというので、共有して入れたのは良かった」
黒木「本当に無防備でだらしない、情けない舘さんを初めて見ました。おかしくて、ずっと笑いっ放しでした」
その黒木は自身の夫が定年まであと数年ということもあり、千草の心情がよく理解でき「先に疑似体験させていただきました」という。
「今のままじゃダメでしょって、撮影中は千草の気持ちで本当に腹も立ちました。愛し合って結婚したわけで、輝かしい頃の壮介を知っているから、千草自身も輝きたいし、あなたにも輝いていてほしいという思いは女性の中にはあると思います」
壮介は30歳近く年下の女性にほのかな思いを寄せ、IT企業の顧問に請われるなど生きがいを見つけていくが、ことごとく災難に見舞われる。だが舘は、終わった起点は定年ではないと力説する。
「下請けの会社に飛ばされた時点が終わった人だと思っているんです。この映画はずっと終わっていた人が、実はそこ(定年)から始まっているんですよ。いろんなことが起きて、恋もするし会社もつぶすけれど、失敗しようが何しようが何かやろうと思ったら終わっていない。自分が終わったと思った時が終わりなんじゃないのかな」
千草に三くだり半を突き付けられた壮介は、故郷の盛岡に帰ることを選ぶ。高校時代の友人らの後押しである決断を下すが、その後、千草と再会するシーンは前半との対比もあって秀逸だ。
「壮介はロマンチストで、結局は逃げたんですよ。そこに日本の男子の弱さが垣間見える。そこに来る千草はすごく強くて、やっぱり日本は女性の方が強いし余裕があるんですよ。千草はすべてを受け止めて、自分はどうするのかがはっきり分かっている。おろおろしているのは壮介だけです」
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