役者バカになれ――東出昌大×新田真剣佑×羽住英一郎監督が示した “夢中”の強さ
2018年5月31日 09:00
[映画.com ニュース] 「役者バカになれ」。東出昌大と新田真剣佑はそんな発破を受け、映画「OVER DRIVE」(6月1日公開)の撮影現場に立った。羽住英一郎監督が指揮する現場で、バカは最大級の褒め言葉だ。東出と新田は自動車競技「ラリー」に命を捧げる兄弟を演じ、羽住監督は2人の熱量をあますことなくスクリーンに焼き付けた。彼らが明け暮れた“バカになること”。その真意とは――。(取材・文/編集部、写真/間庭裕基)
「海猿」「劇場版 MOZU」などで知られる羽住監督が、長年夢見てきた悲願の企画。スピカレーシングファクトリーの実直なチーフメカニック兼エンジニア・檜山篤洋(東出)と、無謀とも言える攻めの姿勢を全面に打ち出す天才ドライバー・檜山直純(新田)の汗、涙、苦悩、歓喜、そして絆を描く。
新田は脚本のページをめくるたび、体の底から湧きおこる高揚感を抑え切れなかったという。天才肌かつ激情家の直純に心情を重ね、「実際に映画を見たような感覚がして、すごくワクワクしたんです。それからはもう、『OVER DRIVE』のことしか考えられない。とにかく早く兄貴・東出さんに会いたいし、早く直純というキャラで生きたかった。そう思わせてくれる作品に出合えて、すごく嬉しかった」と熱弁。抜群の手腕と愛情で車を最高の状態に仕上げる篤洋に扮した東出も、その言葉に大きく頷き、羽住監督への全幅の信頼を口にした。
撮影前の数カ月間、キャスト陣には役づくりへの“課題”が用意されていた。東出は、約1カ月にわたり車をいじり倒すメカニック訓練。一方の新田は、世界ラリー選手権ドライバーの肉体に近づくため、約2カ月におよぶ筋力トレーニングを積んだ。
筋トレに次ぐ筋トレで大幅にパンプアップした新田は「自分は人の何倍も自信がない人間なので、どこかで自信をつけなければなりませんでした。それが、今回は外見。できることはすべてやりきり、燃えて、燃え尽き、すべてを出し切りました」と振り返り、「役に近づけることが、とにかく楽しかったんです。こんなに頑張りたいと思えることは幸せでした。なので、撮影終了後の“直純ロス”はすごかった」と追想する。実際に工具を手に車と向き合った東出は、「実際のラリーカーを目の前に『はいバラして。はい組み立てて』と、いきなり突きつけられるんです」と吹き出しつつ、「手元が映っている時だけではなく、本当のメカニックになれ、と。そういう現場が経験できることは、役者として大変嬉しい」と目を細めた。
苦労どころか、役と一体になれることに歓喜しながら没頭した2人を、羽住監督は「まさに役者バカ」と頼もしそうに見つめる。「バカというのは、思考を停止させることではありません。どれだけ夢中になれるか、です。夢中になっている姿は本当に尊敬するし、『自分にはできない』と思うことを見せる、それが重要。リサーチの過程でたくさんのラリーバカやメカニックバカに出会えました。話が噛み合わないメカニックさんでも、ターボチャージャーの質問になった瞬間、よだれを垂らす勢いで専門用語をしゃべり出して(笑)。そういう部分を、篤洋にフィードバックしています」。
「バカ=夢中になれた瞬間は?」と問いかけてみた。自身が写るポスターをしげしげと眺めた新田は、「役のためなら何でもできちゃうんだな、と感じます。今見ても、良い体していると思います」と破顔し、「すべてはこの作品、直純、そして監督のためです! そう思わせてくれた作品、何度も言いますが幸せでした。本当に生きる実感がありました」と繰り返し感謝を伝えた。
物語終盤、優勝争いを演じるスピカを大きなアクシデントが襲う。ラリーカーが走行不能となり、篤洋らメカニックは総力を結集して復旧にあたっていく。東出は、油やタイヤの匂い、そして笑顔と熱気が充満する現場に思いを馳せた。「車をバラすシーン。メカニック一同が車を整備できる腕前に達していたので、映っていないところでも現場が早く進むようにと、みんなが率先して車をいじっていました。『そっち外すぞ。せーの!』。本当にメカニックバカな連中だったんです。僕は先輩でも後輩でも、親しみを込めて“連中”と呼んでいます。あの瞬間は映画を象徴するひと幕だったと思いますし、『連中が好きだ』と思いました」。
作品と魂が混ざり合い、全身を奮い立たせるのを心地よく感じていた日々。羽住監督をはじめ新田、東出の口ぶりからは、全員一丸となって“バカ”になったことが、本番の演技や演出に想像以上の力を与えていたことがうかがえる。
Amazonで関連商品を見る
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。