リドリー・スコット監督が語る「ゲティ家の身代金」再撮影で生きた“哲学”「くよくよ考えず、やる」
2018年5月23日 19:00
[映画.com ニュース] 「エイリアン」「アメリカン・ギャングスター」「悪の法則」の巨匠リドリー・スコット監督が、アメリカで実際に起きた誘拐事件を描いた「ゲティ家の身代金」の舞台裏について語った。
1973年に発生した、石油王ジャン・ポール・ゲティの孫ポールの誘拐事件を基にした本作。誘拐犯から連絡を受けたポールの母アビゲイル(ミシェル・ウィリアムズ)が、息子の命を救うため、誘拐犯だけでなく身代金の支払いを拒否したゲティ(クリストファー・プラマー)とも対決することになる。完成間際の2017年11月、当初ゲティ役だったケビン・スペイシーがスキャンダルによって降板。急きょプラマーが同役に起用され、第90回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされたことでも話題を集めた。
スコット監督は、スペイシーのスキャンダルを受け、すぐさま再撮影を決断。公開延期も止むなしといった状況にもかかわらず、10日に満たない時間で怒とうの撮影を行い、当初の予定通りの上映スケジュールに間に合わせた。スコット監督は「素晴らしい効率の良さと、たくさんの経験だよ。そこには何のマジックもない」とさらりと言ってのけ、「僕には豊富な経験があるから、(最終的に)やらないといけないことがわかっていた。それは、基本的にケビン・スペイシーを(別の俳優と)入れ替えることだった」としつつ、「さもなければこの映画は、公開日に行き着く前に死んでしまっただろう」と当時の窮地を振り返る。
「そんな事態を起こさせることはできなかった。なぜなら、(製作費を出したのは)ソニーじゃなく、投資家なんだ。だから僕は彼のところに行って、『僕たちはこれを直せる。誰をキャスティングし直すことができるかわかっている。再撮影をして、予定通りに公開できるよ』と言ったんだ。僕には、それをできることがわかっていた。なぜなら僕のチームは、どんなことでもとてもうまくできるからだよ」。スコット監督によれば、当初からゲティ役のリストにはスペイシーとプラマーの名前しかなく、新たに誰に打診するか迷うことはなかったそうだ。80歳にしていまだ衰え知らずのスコット監督は、「(これまでの経験で)じっくり考えないことを学んだ。くよくよ考えず、ただ“やる”のさ。本作で(ゲティ役を)入れ替えたように、何か実際にやることだよ」とフィルムメーカーとしての“格言”を披露した。
本作は実在の事件を基に組み立てられており、「僕が普段やっているようなSFとは違って、ジャーナリスティックな扱いが要求される」と自己分析したスコット監督は、「でも、僕は、現代社会や“今”についての題材をやるのが好きなんだ」と続ける。「この映画は、みんなが考えているものじゃないと思う。裁判ものであるとか、トーキングヘッズ(画面に語り手の顔が出てくるもの)じゃない。今作には、とてもストレスフルで、時にはかなり暴力的なところが出てくる。多くの意味で、家族の崩壊についてのストーリーなんだ。また、子どものために(困難に)立ち向かった女性の人生における、とても緊張した瞬間でもある。ミシェル・ウィリアムズが演じたこの女性の意志の強さや勇気は、最も重要なものだ」。
「ゲティ家の身代金」は、5月25日から全国公開。