カンヌ審査員賞「ラブレス」、ロシアでオスカーノミネートは喜ばしいことではない!?
2018年4月6日 22:00

[映画.com ニュース]2017年、第70回カンヌ映画祭審査員賞受賞作で、第90回アカデミー賞外国語映画賞の最終候補にもノミネートされたロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフ監督新作「ラブレス」が、4月7日公開する。離婚協議中のロシアの富裕層の夫婦が、失踪したひとり息子の行方を追う姿を冷ややかな映像で描いたサスペンスドラマだ。来日したズビャギンツェフ監督が作品を語った。
自身が演劇大学出身ということもあり、人間の心の深淵を描くドラマとキャスト陣の卓越した演技が見どころだ。「主役のふたりは、モスクワの観客にもほとんど知られていない俳優です。主演のマリアーナは劇団で10年のキャリアはありますが映画初出演です。ボリス役の俳優は私の作品で3本目ですが、やはり演劇畑の俳優です」
スター俳優を使わない理由をこう語る。「スクリーンで初めて見る顔の中で、人間の本質を見出して欲しいのです。特に、スターはこれまで演じた役が頭をよぎりますし、こうやって演じるだろうと、観客に先を読まれてしまうと思うのです。私はキャスティングには半年から1年とかなり時間をかけます。それぞれの役者から最大限真実に溢れた存在感を求め、役として自然に存在してくれる才能に賭けるのです」

演劇大学在学中にミケランジェロ・アントニオーニの「情事」を見て映画界への憧れを募らせ、演劇の世界に身を置き俳優としてのキャリアを積み上げながら映像を撮り始め、2000年に監督デビューを果たした。「父、帰る」「裁かれるは善人のみ」など過去作も世界的に高く評価されており、悲劇的な題材を得意とする。
「私が深く心を動かされるのは人間ドラマであり、悲しい出来事なのです」という。過去35年間で、オスカーの外国語映画賞にノミネートされたロシア映画は4本、そのうち2本がズビャギンツェフ監督の作品だ。しかし、アメリカと政治的に敵対関係にあるため、オスカーノミネートを単純に喜ぶことができないそうだ。
「残念ながら現在のわが国の大衆は、アメリカは敵であるいう認識が主流です。ロシア人の監督の映画がオスカーの最終候補になることは、裏切りであるとみなされてしまうのです。『ラブレス』はロシア人を醜く、モンスターのように描き、ロシアの様々な俗悪な側面を見せる映画だからノミネートされたと捉えられるのです。評論家からも『ロシア人を愚かに見せるような映画を作っている』と言われることもありました」と複雑な胸中を明かした。
「ラブレス」は、4月7日から新宿バルト9ほか全国公開。
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