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吉沢悠「エキストランド」製作陣と生み出した映画業界への痛烈なメッセージ

2017年11月10日 19:00

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取材に応じた吉沢悠、坂下雄一郎監督(右)、 田中雄之プロデューサー(左)
取材に応じた吉沢悠、坂下雄一郎監督(右)、 田中雄之プロデューサー(左)

[映画.com ニュース] 「映画はみんなを笑顔にしてくれる、そう思っていますか?」という痛烈なキャッチコピーに対し、すぐさま「その通り」と答えられるだろうか。「神奈川芸術大学映像学科研究室」「東京ウィンドオーケストラ」の新鋭・坂下雄一郎監督が、主演・吉沢悠、プロデューサー・田中雄之氏と撮り上げた「エキストランド」によって投げかけるこのメッセージは、映画産業に携わる人々が最も聞きたくなかった問いかけなのかもしれない。(取材・文/編集部)

本作の企画がスタートしたのは、田中氏が撮影場所の誘致や支援を行う機関「フィルムコミッション」に興味を抱いたことがきっかけ。「お金ももらっていないのに、誰よりも頑張ってくれる。この人たちのモチベーションは一体どこからくるのだろうか?」と考えた田中氏は、約2年半の歳月をかけて全国13の「フィルムコミッション」に取材を敢行。その後、東京藝術大学大学院映像研究科の同期でもある坂下監督とともに、かつてタッグを組んだオムニバス映画「らくごえいが」の1編「猿後家はつらいよ」の要素を織り交ぜながら、脚本を練り上げた。

企画の始まりから、4年越しの完成。様々な事情が重なり、一時は製作がストップしたこともあったようだが、リスタートの起爆剤となったのは、座長を務めた吉沢の存在だ。脚本に惚れ込んだ吉沢の出演が確定し、製作は一気に加速。「見た目は爽やか。だが極悪」という坂下監督&田中氏の意図をくみ取った吉沢が演じるのは、過去の大失敗から映画を撮れなくなったプロデューサー・駒田恵太。「こういうキャラクターを演じる機会は少ない。チャンスだと思ったんです」という吉沢は、“虎の威を借る狐”ならぬ“映画の神様の威を借るプロデューサー”を見事に体現している。

映画で地元を盛り上げたいと思っているえのき市の人々を騙し、自分の成功のためだけに製作を目論む駒田。“映画の力”を信じてフィルムコミッションを立ち上げた市役所職員・内川譲二(前野朋哉)にプロデューサー業務を丸投げ、監督の石井光太郎(戸次重幸)には出世をちらつかせて「予算100万円で撮影」といった無理難題を課す。駒田の悪行によって巻き起こる騒動の一部は、嘘のような実話で構築されている。「作品を見たフィルムコミッションの方が『あるよね、全部』と。そのリアリティはできている」という“リアル”のプロデューサー田中氏が「勿論、僕は駒田とは違いますよ。1ミリも参考にしていません(笑)」と念を押すと、“フィクション”のプロデューサー・吉沢は「『僕と駒田は絶対に違う!』とずっと言ってましたよね(笑)。きちんと撮影のバックアップをされていました」と賛辞を惜しまない。

一方、初タッグを組むことになった坂下監督について「最初にお会いした時、駒田に関するインフォメーションはあまりもらえなかった(笑)」と話しながらも、「前野君を含めた昔からやっている仲間が、坂下監督のキャラクターをよくわかっていた」と吉沢。「坂下監督は『こういうタイプだから』というのが許されているんですよ。周りの人々が支えているという感じがすごく強くて、愛されてるな、人徳だなと。“坂下愛”が生まれているのを感じたんですよね。だから、周りの人々が坂下監督という人を教えてくれたんです」と大きな信頼を寄せていた。

本作の特筆すべき点は、映画製作の現場を題材にした内幕劇を描きつつ、市民同士の対立にもフォーカスを当てている部分だ。撮影にスタッフとして参加した市民は、次第に映画の魔力に魅了され、愛すべき地元を自覚なく破壊し尽くしていく。「僕は映画業界と地方という二項対立でしか見ていなかったが、ここにも分裂はあった。地方創生のリアルな一面」と田中氏が分析する要素は、坂下監督の発案だ。「映画の撮影というものは、そんなに良いものではないという思いがあったんです。例えば、これは映画の撮影だから『あの車をどかしたい』『人の流れを止めたい』という瞬間がある。当初は東京から訪れた撮影クルーが行うという展開だったんですが、それをロケ地のスタッフが暴走してやってしまったら余計にマズいのではないかと思ったんです」と意図を明かしていた。

坂下監督の言葉が象徴するように、映画業界に通底しているルールは、時として一般社会の非常識ともなり得る。役者として業界に身を置く吉沢も「撮影現場で普通だと思っていることは、一般社会では通用しないんだろうなという瞬間は、他業種の方と話している時に感じることがあります。『これは映画だから』というワードで様々なことが許されてしまう。“モノづくり”という呪縛にとらわれすぎているのかもしれない」と胸中を吐露する。そして田中氏も「わざと『映画は偉い』と表現することがあるんですが、それほど暴力的な行為であることをきちんと自覚しています。プロデューサーの立場としては、それをコントロールしなければならない。良い作品が完成しても、関わってくれた方が怒っていたら、自分の仕事としては失敗なんです。観客の皆さんも含め、作品に携わってくれた方が『参加できてよかった』と感じていただけたら成功だと思う」と熱い思いを告白した。

自身の損得勘定のみを優先し、映画のクオリティを担保せず、えのき市の人々の良心も踏みにじる駒田は、まさに“プロデューサー失格”の代表格だろう。では、理想的なプロデューサー像とはなんなのだろうか。「あくまで理想ですが“モノづくり”と“ビジネスライン”のバランスがとれていることかもしれません。どちらかに偏れば、不満が出やすい環境が生まれてしまう」と吉沢が答えると、坂下監督は「面白さに対する価値観がある程度合致していることです。企画開発中から、作品が目指す場所を共有していないといけない。勿論100%考えが合う人はいないのですが、逆にその“ズレ”は幅に繋がるはず。異なる考えがあるからこそ作品の幅が広がっていくんです」と思いの丈を述べていた。

劇中とは対照的に、ロケ地となった長野県上田市の人々の全面協力によって完成した「エキストランド」。ドローンでの撮影やハイスピードカメラの使用など映像面でもこだわり抜いた坂下監督の軽妙な語り口、怪演とも言うべき吉沢の芝居が兼ね合い、えのき市で巻き起こる騒動の数々は常に“笑撃”の連続だ。しかし、その根底にある問題提起は、クリエイターのみならず、スクリーンに投影される“完成された映画”しか見る機会の少ない観客の心にも深く突き刺さるだろう。

エキストランド」は、11月11日から東京・渋谷ユーロスペース、長野・上田映劇、12月1日から北海道・ユナイテッド・シネマ札幌ほか全国順次公開。

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