「大林宣彦映画祭2017」9月3日開幕!秋吉久美子、最初はイヤだった「異人たちとの夏」
2017年8月30日 12:00
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[映画.com ニュース] 末期がんを宣告されながら、第43作となる最新作「花筐」(12月16日公開)を完成させた“映像の魔術師”大林宣彦監督。そんな大林監督にエールを送ろうと企画された「~ワンダーランドの映画作家~ 大林宣彦映画祭2017」が9月3日から同17日まで東京・池袋の名画座「新文芸坐」で開催される。DVD化されていない貴重な作品を含め全29作品を上映。大林作品ゆかりの俳優によるトークショー(聞き手は、すべて映画監督、映画評論家の樋口尚文氏)もある。9月3日に登壇する女優の秋吉久美子に、大林作品の舞台裏や魅力を聞いた。(取材・文・写真/平辻哲也)
秋吉は、「可愛い悪魔」(1982)、「異人たちとの夏」(88、いずれも9月3日上映)、「淀川長治物語・神戸篇 サイナラ」(2000、9月4日上映)の3作の大林作品に出演している。
「可愛い悪魔」は日本テレビ「火曜サスペンス劇場」枠で製作された初のテレビ映画。結婚パーティー中の転落事故で姉を失ったヒロイン(秋吉)が洋館で暮らす義兄の姪アリス(ティナ・ジャクソン、現・川村ティナ)のピアノ教師になるが、惨劇が続いて起こり……というホラーテイストのサスペンスだ。“小悪魔的な妹”キャラで売り出してきた秋吉が一転、8歳の少女に狙われるヒロインを演じた。未DVD化で、スクリーンで見られる貴重な機会となる。
「最初、『可愛い悪魔』って、自分のことかなと思ったんですよ。でも本を読んだら、私じゃないんだ。私がやられてしまうんだ、と思って、唖然としました。常に、少女というフォルムを通した社会的な加害者を演じてきたのに、被害者を演じたという意味で違った役でしたね。女の子は自分に邪魔なものを殺してしていくんです。私の場合は、自分が大好きなお兄ちゃんが、私のことを大好きだから、『こいつもやっちゃえ』と。私を精神的におかしくするためにいろんな罠を仕掛けるんですが、面白かったのは、吊るされたことですかね。初めての経験だったので」
2時間ドラマだったが、撮影には劇映画並の1カ月を要した。「スタッフも途中で交代して、予算的にも2、3倍かかったんじゃないですか。なぜかというと、その先には映画館でかけようという思いがあったから。全部に凝っちゃったんですね。こんなこともありました。お母さんが誰かに突き落とされて、2階から落ちていくシーンがあったんです。目を開けたまま落ちないといけなかったのですが、どうしても目をつぶってしまう。そうしたら、大林さんはまぶたの上に目を書いちゃった。えー、こんなことをするんだ、とビックリしました。でも、作品を見ると、不自然ではないんですよ。動いているから」
「異人たちとの夏」は秋吉にとっても、代表作のひとつだ。キネマ旬報賞、毎日映画コンクール、ブルーリボン賞で助演女優賞に輝いた。山田太一の原作を、市川森一が脚本化。中年の脚本家(風間杜夫)がある事件をきっかけに、生まれ育った下町・浅草で12歳の時に交通事故で亡くなった両親と不思議な再会を果たすというストーリー。当時、ほとんど演技経験のない片岡鶴太郎と夫婦役を演じた。
「企画段階では、『氷の微笑』をやろうとしていたんですよ。マンションに住んでいる女(映画では名取裕子が演じた)がセクシャルな誘惑をする。そのつもりでいたら、こっちの役だ、ということになって……。何、これって思いました。私は、(ルキノ・)ビスコンティや(ジャン=リュック・)ゴダールみたいな映画をやりたいのに。本を読んでも、まったく(情景が)浮かばなかった。『こんなホームドラマをやるなら、もっと前にホームドラマをやっていた!』と言って、マネジャーをすごくいじめたんです。当時、テレビはホームドラマが主流だったけども、ホームドラマをやらないと決めて、仕事を選び、イメージを選んで、苦労してきたのにという思いでした」
秋吉は地方公務員だった父を持ち、福島県いわき市で育った。映画で描かれるような一般的な家庭は、自身が歩んできた道で、何も魅力を感じることができなかった。「ドラマが何もないんですよ。もし、私が複雑な家庭に育ってきたら、あこがれをもって、この役を演じてきたと思うんですけど、そうじゃないから」
その気持ちを聞いた大林監督からは直筆の手紙が届いた。「和紙に書かれた達筆なお手紙でした。なぜ、これをやらなければいけないかというと、日本中が君を求めているみたいな内容でしたね。読んだら、うっとりしそうな……。でも、うーん、そうかな? と思っていましたね(笑)」
そんな気持ちが一変したのは、撮影初日だった。「セットに照明が入って、第一声を出したら、もうすべてが分かって、『時をかける少女』のシーンじゃないけども、フワーとその世界に入っていく感じがした。疑うところはなくなり、全部を掌握している感じになって、おせっかいにも、鶴太郎さんに『あなたが下町出身だったら、何も考えることはない。リズムに乗せていけば、すべてあなたが出る。大成功なんだ』と言っちゃって(笑)。イジイジした気持ちもなくなって、晴れ晴れ。大林さんにも、『もうご心配しなくても大丈夫です。全部分かりましたから』と言っちゃいました」
「異人たちとの夏」は数少ない、心から楽しい現場となったという。「あの映画のことを考えると、走馬灯のように浮かんできます。鶴太郎さんとお出かけだと言って、おめかしする場面、物干し台で、手を振るシーン。スリップ姿でおいちょかぶをやるシーン。鶴太郎さん、風間さんとは親交はありません。でも、あの時は普段の自分とは違う、もう一つの本当の現実というか、あの時は親子であり、親友のようでした」
「淀川長治物語」は、映画評論家の淀川氏の少年時代を描いた伝記映画。長治の母、りゅうを演じた。「この役も、なんで、私がお母さん役なのか、不思議だったんです。大林さんは、チャキチャキと物分りよくお母さんを演じてほしくなかったんでしょうね。あえて、私に演じさせて、演じることを封じさせたのかな。動きを封じられた時のエネルギーが入っているのがいいみたい。(芸者の少女時代を演じた)宮崎あおいちゃんがとてもよかった。内面に硬質なものがあって、素敵だった」
大林監督はあまり演者に注文をつけなかったと語る。「パキ(藤田敏八)さんとも似ているかもしれません。自分が入ってくるのではなく、全体の調整を考えながら、見ている感じ。遊びから本気、クラシックからモダン、娯楽からこだわりまで、のりしろが大きい。精神的にも大きい人。ご本人は柔らかい感じなんですけども、作品には硬質な感じのものを入れる。すべて楽しめるように娯楽にしながら、自分の意思やこだわりがありますね」
新作「花筐」も、いち早く試写で見た。檀一雄の同名小説を原作に、1941年、佐賀県唐津を舞台に、我が「生」を自分の意思で生きようとする8人の若者の姿を描く群像劇。大林監督のデビュー作「HOUSE/ハウス」(1977)より以前に書き上げた幻の脚本を、がんと闘いながら、映画化したまさに渾身の作品だ。「3時間近く(169分)あるのに、まったく時間を感じさせない。エネルギーが失速しない。自分自身に悩んで自滅していく人たちなんですが、毅然と自滅していくんです。私達、日本人には、こういう部分があったんだな、と思い出させてくれる映画です。また見たいです。絶対見てください」
今回の特集上映についても「見たい作品がいっぱいあります。私も早起きして、見ようかなと思います」と秋吉。ふと気づくと、映画館の隣の席に、秋吉久美子がいるということもあるかもしれない。
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