是枝裕和監督&坂元裕二、役所広司の“曖昧さ”に驚嘆「怖くなりました」
2017年8月26日 11:15
[映画.com ニュース] 福山雅治主演作「三度目の殺人」のメガホンをとった是枝裕和監督が8月25日、Apple銀座で行われたイベント「Perspectives」に出席。テレビドラマ「最高の離婚」「カルテット」の脚本家・坂元裕二を相手にトークを繰り広げ、「三度目の殺人」に関する秘話を披露した。
勝利至上主義のエリート弁護士・重盛(福山)が、30年前にも殺人の前科がある三隅(役所広司)の弁護を“負け戦”と覚悟しながら引き受けるという視点から描かれる本作。既に5回も鑑賞したという坂元は、「見れば見るほど面白くなる。導かれるというより、どこに連れていかれるかわからない不安に駆られる」と絶賛し、是枝監督が撮影中にスタッフの隙をつき“行方知らず”になるという裏話を引き合いに出し「本作は是枝監督がどこかに行ってしまったような映画」と表現した。
是枝監督は“役所広司”という俳優は「演出家としては一度向き合って勝負をしないといけない相手」と敬意を表す。「特別な役づくりをするわけではないのに、何を演じてもその人物に見える。どこかでまだ向き合うのは早いと思い続けていたんですが、この企画の話をする前に届いた年賀状に『そろそろですね』と書いてあったんです」と奇妙な縁を感じたそうだ。やがて最初の打ち合わせでは「この役は最後まで“曖昧なもの”が残った方がいい。7回の接見室での芝居は、自分は本当のことだと思ってしゃべりますが、見た人にとっては善人に見えたり、悪人に見えたりするといいなと思う」という発言があったという。
本作最大の見どころは、重盛が接見を重ねるほど、三隅が本当に殺人を犯したのかという点が不明瞭になっていく点だ。坂元から「役所さんは、殺したのか、殺していないのかという明確な答えを持って演じていたのか?」という質問が飛び出すと、是枝監督は熟考した後「(役所から)そういう問いかけがなかったんです。一方で、福山さんからは『僕が知らないのは納得できますが、役所さんはわからないまま演じられるんですか?』という疑問が出た。それが面白いなと。ハマっているなと感じた。福山さんは二重の意味で、目の前の役所さんが謎になってしまったんです」と告白した。
さらに撮影を進めるうちに、是枝監督も役所の“魔術”にハマってしまったようで「脚本を僕以上に読み込んでしまっているので、お芝居として出てきた時に、自分が書いたシナリオという感じがしなくなっていたんです。ドキュメンタリー作品のディレクターとして撮らせてもらっているという距離感になっていました」と驚きを隠せなかった。そして、役所が行った予想外の所作について「出てくるものを見逃すまいと必死だったんです。『なんでここで笑ったんだろう』と考えている時点で、福山さんと同じ状態。役所さんは『すべて本に書いてありますよ』と言うんです。怖くなりましたよ(笑)」と明かしていた。
また、三隈をあて書きとして創出するうえで、坂元が脚本を担当したドラマ「それでも、生きてゆく」に登場する若き殺人者・三崎文哉(風間俊介)が参考になったようだ。「坂元さんは、三崎文哉という人物をどのように理解できるかという風に書いていったはず。僕自身も理解できないものを残しながら、重盛と三隅の関係を演出していくうえで、坂元さんのスタンスがヒントになった」と話していた。「三度目の殺人」は、9月9日から全国で公開。