山崎貴監督、「海賊とよばれた男」を撮るまでに抱いた大いなる葛藤
2016年12月11日 11:00
[映画.com ニュース] 山崎貴監督の最新作「海賊とよばれた男」は、2013年度本屋大賞第1位に輝いた百田尚樹氏のベストセラー小説を岡田准一主演で映画化した話題作だ。興行収入87億6000万円を記録した「永遠の0」に続く百田原作のメガホンをとった山崎監督が、製作に至るまでの経緯を映画.comに語った。(取材・文・写真/編集部)
筆者は「永遠の0」公開前の2013年、山崎監督と「海賊とよばれた男」について話している。映画化の可否を尋ねると、「どの時代を軸に描くかで面白いものになるのか、つまらないものになるのかが決まってくると思う。無鉄砲だった若い頃のエピソードは、相当に面白いですよね」と笑顔で答えている。
ただ一方で、「壮大な大河ドラマですし、これは難しい、無理だなあ……と思ってもいたんですよ。でも、日本テレビさんから実際にオファーを受けてみると、『他人が撮っているのを見るのは辛いな』と思ってしまったんです。うまくいってもつまらないし、失敗してもつまらない。これは、やるしかないなと決断しました」と当時の胸中を明かす。
その後、主人公の国岡鐡造を誰が演じるのかという壁にぶつかる事になる。「60代の役者がやれば、若い頃はどうなるんだって話になる。また、若い役者がやれば60代はどうするんだって話にもなる。でも、若い頃はこの俳優、60代はこの俳優っていう、複数の俳優が演じ分けるのだけはやりたくなかった。どうしても気持ちが離れちゃいますから。あの当時は、岡田くんで撮るだなんて思っていませんでしたから」。
そして、プロデューサーサイドから「潔く、岡田さんでやりませんか?」と提案されたことにより、山崎監督の心も大きく動いた。「岡田くんならやれるかもしれないと思いました。そもそも、岡田君のなかにある若者とはまた違う落ち着きみたいなものを感じ取っていたのでね。特殊メイクも『寄生獣』ですごくいい仕事をしてくれた人がいたので、気持ちが固まりました」。
3年前に筆者に話した内容からもぶれることなく、脚本を執筆していった。「若い頃の成り上がっていく時が一番面白いんですよね。そこをちゃんと描きたいと思ったし、年を取ってからの姿もきちんと撮りたかった。ある人物の生涯を見たような映画を作りたいと考えていたんです。頭にあったのは『ラストエンペラー』。ああいうアプローチはあるかなと思いましたね」。
そんな中でも、山崎監督らしさは随所にちりばめられている。今作におけるVFXの描写で最も神経をすり減らしたのは、「日承丸のシーン」だという。それもそのはずで、国岡商店が石油事業を通じて戦後の日本に大きな勇気と希望を与えていく姿を描いているだけに、「日承丸が現実として存在していないと、この話は成立しない。当然ですが、現代であんなタンカーありませんから、ブリッジの中もセットで作らざるをえなかった。タンカーを魅力的に見せなくちゃいけないというのは、なかなか大変でした」と述懐。それでも、「作っていくうちに、『タンカーって格好いいじゃん!』と思ってしまう自分がいて、世間との温度差を意識しないといけなかった(笑)。今作のおかげで、だいぶタンカーが好きになりましたよ」と穏やかな面持ちで語る姿は、撮影現場で岡田の演技を見つめる眼差しと相違なかった。