ルシール・アザリロビック、「エヴォリューション」は「感覚的にリアルなものを再現」
2016年11月25日 17:00
[映画.com ニュース] 男性のいない寄宿舎で生活する少女たちを描いた長編デビュー作「エコール」で注目を集めたルシール・アザリロビック監督の新作「エヴォリューション」が11月26日公開する。今作では、女性と少年だけが暮らす謎めいた島で繰り広げられる美しい悪夢のような世界を描き出す。来日したアザリロビック監督に話を聞いた。
少年と女性しか住んでいない島で母親と暮らす10歳の少年ニコラ。その島の少年たちは、全員が奇妙な医療行為の対象となっていた。島に違和感を覚えるニコラは、こっそり夜遅く外出する母親の後をつける。2015年サン・セバスチャン国際映画祭で審査員特別賞と最優秀撮影賞を受賞。喜劇でも悲劇でもない、夢の中に迷い込んだような世界が幻想的な映像表現で展開する。
「悪夢に近い夢ではないでしょうか。私にとっての現実は映画の中にある感情そのものなので、そこを感じてほしいのです。感覚的にリアルなものを再現することにとてもこだわり、海水の感覚や壁の質感、村の雰囲気は実際にそこにあるものを撮影しただけなのです。そういう有機的なリアル感は、スペシャルエフェクトではなく、現実にあるものです」
出世作「エコール」にも共通する、自伝的な要素が強い作品だという。「思春期を迎える前に抱えていた、自分の肉体の成長や変化、妊娠出産を経験するのではないかという大きな不安」が根底にあると明かす。「エコール」同様、今作にも大人の男性のキャラクターはほとんど登場しない。
「少年の不安をより増長させるためです。自分の将来の姿がそこに無いのは、大人の男性がすべて死んでしまったのか、あるいは別の生き物に変化していくのだろうかと、少年たちの心の不安を大きくさせる要素になっています。大人の男性を敢えて不在にすることで、その存在感を強くするという意図がありました。不在が疑問を抱かせ、不完全な世界がより怖さや不安をあおるのです」
芸術的に影響を受けた作品やアーティストはデビッド・リンチ監督の「イレイザーヘッド」だそう。「夢をテーマにし、映像も、抽象的で有機的な世界を描いているのですが、現実的リアルであるということで大きな影響を受けました。後は、ジョルジョ・デ・キリコ、イブ・タンギー、マックス・エルンストらシュールレアリズムの絵画です」
「よく眠るので、夢をたくさん見る」ということから、夢を作品のモチーフに選び、自身もどこか浮世離れした雰囲気をかもし出しているアザリロビック監督。社会問題やゴシップなど現実のニュースに興味は?と問うと「テレビはほとんど見ませんね。ただ、私も別の世界に住んでいるわけではないので、今世界で何が起きているかは知っているつもりでいます。でも、自分の中でそういう現実を見ている自分と、遠いところにいる自分のような二面性があると常日頃感じています」と、性格を分析した。
「エヴォリューション」は11月26日アップリンク渋谷、新宿シネマカリテで公開、アザリロビック監督が2014年に発表した短編「ネクター」を夜間帯に限定併映する。