田中麗奈、思いを募らせ「燃え尽きた」赤堀雅秋監督との初タッグ
2016年6月18日 08:00
[映画.com ニュース]デビュー当初から注目し続けている役者の、新たな一面が見られた時には格別の喜びがある。「葛城事件」の田中麗奈がまさにそれだ。死刑囚となった青年と獄中結婚する女性という難役だが、直感でキャスティングしたという赤堀雅秋監督の期待と粘り強い演出に応え新たな境地を見いだした。(取材・文/鈴木元、写真/江藤海彦)
田中は、劇作家・舞台演出家である赤堀氏の初映画監督作「その夜の侍」(2012)に衝撃を受け、思いを募らせていたという。
「この組に入りたいって、すごく思ったんですよ。エネルギッシュですごいリアリティだし、人間の呼吸や体温が伝わってくるようで目が離せない、強烈な個性を感じたんです。だから、お話が来た時はヤッタって感じでした」
念願のマイホームを建てた葛城清だったが、理想的な家庭への思いが強いがために封建的となり、長男・保はリストラされたことを誰にも言い出せずに思い詰め、妻は精神を病み、次男・稔は通り魔殺傷事件を起こし、死刑判決を受ける。死刑制度反対を唱え稔と獄中結婚する星野順子が田中の役どころで、赤堀監督はキャスティングについて、主演の三浦友和らと同様、「直感でしかない」と振り返る。
「カタルシスや着地点があるわけでもないので、役者としてはどこに向かって演じたらいいのか数学的に考えると難しい役だと思うんです。気持ち悪い負のイメージだけになってしまってもいけない。どこか説得力を帯びていなければいけないので、感覚的にこの人だったら負の面もそうでない面もお客さんの想像力を喚起できるようなたたずまいができるんじゃないかなって」
順子は稔と面会し、「あなたを愛します」「夫婦になりたいんです」と諭し、葛城家を訪れ清に「家族になりたいんです」と訴える。見方によっては偽善的にとらえられ、共感を得にくいキャラクターだ。
「どこから手をつけようかなって、まず思ったんです。おおっ、難しいぞって。でも、なんだこの面白い脚本はっていうことの方が大きかったですね。まずは、死刑反対に関わっている人たちのサイトを見つけたので、そういう運動をされている方たちの言葉を読んで彼女の信念や目的、生きている世界などを自分の中で膨らませていって、あとは監督とお話しして現場で見てもらって修正したり確認したりという感じでした」
中でも、順子が清に対して叫ぶ「あなた、それでも人間ですかっ」というセリフは圧巻。赤堀監督が、「彼女はあそこがスタート地点。自己崩壊して、そこからの生活に光明を見いだせるようになったらいいなという思いで撮影した」という見せ場だ。
田中「本音だし本心だし、野性的な言葉が出るってところが、演じていて楽しかった。でも、カットがかかった瞬間に腰が抜けましたけれどね。なんか分からないけれど、ストンと落ちて立てなかった」
10代のデビューから映画に重点を置き、30代になってからはドラマ、舞台へと視野を広げていったが、その蓄積がスクリーンに回帰したかのごとく、堂々とした印象を受ける。
「この現場にいられて本当に幸せだって、あらためて実感しました。仕事が好きだし現場が好きだし、お芝居はやっていってうまくなっていくこともあると思うんです。どん欲だし、現場で学ぶことも多いので、常に作品に関わっていたい気持ちはあります。映画、ドラマ、舞台に関わらず、お芝居を通して人と関わり、人に伝えていきたいですね」