ベルリン映画祭終盤、難民問題映した伊ドキュメンタリーが高評価
2016年2月20日 07:30
[映画.com ニュース] 現在開催中のベルリン映画祭は早くも終盤を迎え、受賞の行方を占う声がささやかれている。これまでのところもっとも評価が高いのは、イタリアのジャンフランコ・ロージのドキュメンタリー「Fire at Sea」。地中海に浮かぶ牧歌的な小さな島に、難民たちが漂着し、あるときは遺体となって発見される様子を、島に住む少年の目を通してとらえる。ロッシ監督特有のリアルな人々の生活の向こうに、現代社会の深刻な問題が浮き彫りにされる。
続いて高評価なのは、フランスのミア・ハンセン=ラブの「L'Avenir」だ。人生の折り返し地点に差し掛かり、母の死と離婚を一度に経験することになったヒロインを、イザベル・ユペールが凛とした魅力をもって演じる。ユペールはドイツ映画「24 Weeks」に主演したユリア・イェンチとともに、女優賞の候補として有力である。
今年で第10回目を迎えたベルリンのキュリナリー(料理映画)部門は、年々人気を増し、チケットを取るのが至難の技になってきた。今回の話題はなんといっても、料理界きっての異端児と言われ、世界のレストラン・ランキングでトップに輝いたコペンハーゲンの名店NOMAのシェフ、レネ・レゼピを追ったドキュメンタリーが2本並んだこと。1本目はレゼピとそのスタッフが、昨年日本のマンダリン・オリエンタル・ホテル東京に期間限定で出店した際の様子を追った「Ants on a Shrimp(原題)」。不慣れな環境や新しい食材との格闘、スタッフの体調不良など、嵐のような滞在中のエピソードを手堅い作りで描く。もう一本は、3年以上レゼピを追いかけ彼のクリエーションの秘密に迫った、より独創的な「NOMA My Perfect Storm(原題)」。レゼピの型破りな人と成りやその哲学が、詩的なアプローチによって描かれる。しきたりを無視し、テクニックなんて糞食らえ、直感こそ大事と説くレゼピの天才性かつ努力の姿勢が浮き彫りにされ、胃とハートを直撃する。
黒沢清、ウェイン・ワン監督に続き日本からベルリンに参加したのは、出演作「Fukushima, Mon Amour」(パノラマ部門)と、監督、脚本、主演を兼ねた「火 Hee」(フォーラム部門)の2本が入選した桃井かおりだ。ドイツ人監督、ドリス・ドリーが日本で撮影した前者は、福島を舞台に、東日本大震災に遭い仮設住宅に住む主人公がドイツからやってきた若い娘と出会い、反発を乗り越えて心の交流を得るまでの様子を、美しいモノクロの映像で描く。ドリー監督は2008年の「Cherry Blossoms」に続きこれが2度目の日本ロケ。紋切り型の観光映画ではなく、言葉の壁を超えた魂の触れ合いを描きながら福島の現状もとらえ、ベルリンの観客の心を掴んだ。一方、中村文則の短編「火」を脚色した後者は、ロスを舞台に落ちぶれた娼婦に扮した桃井のなりきりぶりが度肝を抜く。上映後のQ&Aで英語を交えながら茶目っ気たっぷりに対応した桃井は、「最初は自分で監督するつもりはなかったけれど、自作、自演なら“スーパー・チープ”だから(笑)。監督としても女優(としての自分)を失望させないようにしたかった。ベルリン映画祭は今回で3回目。明日死んでも後悔はないほど、ピークにきている感じです」と、その感動を語った。(佐藤久理子)
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父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
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奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。