「日本映画の世界発信柱にさらなる発展を」椎名保ディレクター・ジェネラルが掲げる野望
2015年11月6日 23:45
[映画.com ニュース]ようやく国際映画祭としての体裁が調ったというのが実感ではないだろうか。就任3年目を迎えた東京国際映画祭の椎名保ディレクター・ジェネラル。これまでは世界へ向けた認知度アップに注力してきたが、土台が固まったことで攻めの姿勢を打ち出した印象が強い。
大きな軸としたのが「日本映画の情報発信」で、「Japan Now」部門の新設だ。インディペンデントを中心としたコンペ「日本映画スプラッシュ」は従来通りに、未公開の新作も含め今年のヒット作、話題作を網羅し、原田眞人監督の特集もラインナップした。
「何が映画祭に欠けているのかといろいろな人に聞いたら、作品もさることながら監督だろうと。海外の映画祭で活躍している人は、カンヌだったら是枝裕和さんや河瀬直美さん、ベネチアなら塚本晋也さんや園子温さんという感じで、新しい日本の監督が入っていくのが難しい。そこで、海外の人にこれが今の日本映画の代表作です。ここを頼ってくれれば作品の配給会社やこういった監督や俳優がいますよというのが見せられる。また、これをパッケージにして海外の映画祭に持って行くというもくろみもあるんです」
コンペに「FOUJITA」「残穢 住んではいけない部屋」「さようなら」の3本が入ったのも象徴のひとつ。加えて、就任当初からこだわっている日本の強力コンテンツであるアニメも、昨年の庵野秀明監督に続く「機動戦士ガンダム」の特集をはじめさらなる充実を図った。
「手応えはありますよ。エバンゲリオン、ガンダムという流れは正しいから来年もちゃんとした特集を組む。イメージとしてはJapan Nowに実写部門とアニメ部門があるという形にできればいいのかなと思っている」
サブ会場は昨年の日本橋から新宿に移した。観客動員数で全国1、2位の新宿ピカデリー、新宿バルト9と今年4月にオープンしTOHOシネマズ新宿で開催。新宿区主催の「大新宿区まつり」と連動する形になったが、各サイト2スクリーンずつでしか上映していなかったため、映画祭をしているという雰囲気は乏しかった。
「映画興行の最もホットな場所に行ってみたいというチャレンジ精神で、新宿商店街に話したらぜひ来てください、と。新宿区長も歓迎しますとなって、大新宿区まつりも開催を映画祭の時期にずらしてくれたけれど、やってみての感想はおっしゃる通りで分散していた。これをどうしていくかが大きな課題。定着させていきたいから、理想としては1館でも全スクリーンを使ってやるべき。港区(六本木)のように、街ぐるみでそういう形を目指していくべき。新宿に来る映画ファンにリーチさせて、六本木と新宿が両立する形がいいんですよ」
それでも海外の関心は確実に上がっており、外国プレスの登録者数は昨年の789人から820人にアップ。この数は2年後の第30回、東京五輪が行われる2020年に向けて、さらに上昇カーブを描くと見ている。それでいて自身のイメージに達する達成度は「60%」と昨年比10%増と相変わらず辛口だ。
「優良可の可であって不可ではないけれど、やるべきことはまだたくさんある。30年たって認知度、知名度でもなかろうと思うが、他の映画祭に比べれば落ちるわけだから、上げなければいけない絶対の課題はある。インターナショナル・スタンダードに達していないんです。でも、3年でいろんなことができたし、さらなる問題点も分かってきた。ある日本の監督から『何か変わったんですか。すごく良くなったって皆言っていますよ』と言われた。日本の監督にスポットを当てたからねと答えておいたけれどね(笑)。来年70、80になるかは難しいかもしれないけれど、続けていかないとまた逆戻りなんです。政府のバックアップも含め映画祭のあるべき姿にいくのは相当な大変な道だね」
言葉こそいばらの道を示唆しているが、決して悲観的ではない。椎名氏の目は次なる一手ならぬ二手、三手先を見据えている野望に満ちていた。