是枝裕和監督が語り尽くす「海街diary」 満席のファン聴き入る
2015年10月24日 16:30

[映画.com ニュース] 第68回カンヌ映画祭コンペティション部門に選出された是枝裕和監督作「海街diary」が10月24日、開催中の第28回東京国際映画祭「Japan Now」部門で上映され、是枝監督は東京・新宿ピカデリーでのティーチインに登壇した。
是枝監督は同作の海外公開を控え英ロンドン、蘭アムステルダム、ベルギー・ヘント、仏パリをめぐり、22日に帰国。各国で「どこでも必ず小津(安二郎監督作を彷彿させる)と言われます」と苦笑いを浮かべ、「ほめ言葉として受け止めていますが、自分ではそんなに似ているとは思わないし、意識したこともありません」と明かす。
吉田秋生氏の傑作漫画を映画化するに際し、主に参照したのは「若草物語」だそうで、小津作品では「麦秋(1951)」を見直したくらいだという。さらに、「ふだん参考にしているわけではないんです。ただ、『じゃあ小津ってなんなんだろう?』『成瀬(巳喜男)とは何が違うんだろう?』と考えざるを得なくなる。そういう思考は自分にとって良いことだと思っています」と語った。
今作は、鎌倉に暮らす3姉妹と離れて暮していた父の異母妹が、父の死をきっかけに共に暮らし始め、本当の家族、姉妹になっていく姿が鎌倉の四季とともに描いている。是枝監督は、綾瀬が扮した長女・幸の心情を例に挙げ「幸の中では、すずを引き取ったことで『自分たちを捨てた父』から『すずを残してくれた父』と解釈が変わっていったはず。そうやって再解釈することは美しいし、その美しさを僕は撮りたいと思ったんです」と原作の秀逸さを説明した。
また、映画のファーストカットは、長澤まさみが演じた次女・佳乃が年下の恋人(坂口健太郎)の部屋で朝を迎えるシーンだが、これは原作第1巻の冒頭でも同じように描かれている。是枝監督は、「原作のファーストシーンがあそこから始まるのはなぜだ? 家から始まるべきなんじゃないか? と思った。ただ、漫画の中で佳乃の部屋ってほとんど描かれていないんです。それは、彼女の居場所が自宅ではなく、男性の横にあるからではないか。家を守る幸は祖母、佳乃は母(大竹しのぶ)に似ている。佳乃もいつか家を出る日が来るかもしれないけれど、過去に展開されたであろう家族のドラマが、原作ではすごく丁寧に描かれているんですね」と新たな見どころを話し、静かに聴き入っていた場内を埋め尽くすファンをうならせていた。
第28回東京国際映画祭は、10月31日まで開催。
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