深津絵里&浅野忠信、同年代の2人が築く慈愛にあふれた信頼関係
2015年10月3日 08:00

[映画.com ニュース] 吸引力がどこにあったかは、いまだに分からない。だが、深津絵里と浅野忠信は何かに導かれるように「岸辺の旅」で3度目の共演を果たしたと声をそろえる。3年前に死んで突然帰ってきた夫と、その失そうしていた3年間を一緒に追体験する妻の旅路。黒沢清監督によってつむがれた夫婦の道行きは、厳しさ、切なさの中にも慈愛にあふれ、心地よい余韻を残した。(取材・文/鈴木元、写真/江藤海彦)
「何かに導かれているような感じというんでしょうか。原作がすごく興味深く、それを黒沢監督が演出されるというのも面白そうでしたし、夫役が浅野さんということで、これはもうやることになっていたんだと思うほど、楽しみしかありませんでした」
深津のこの説明を聞く限り、運命としかたとえようがない。浅野とは「ステキな金縛り」、「寄生獣」2部作に続く共演となる。対する浅野にとっては待ち焦がれた夫婦としての邂逅(かいこう)だったと力説する。
「40代になって男女の話や人と人との関係を、今の世代の人と表現できたらとずっと欲していたので、深津さんと黒沢監督というのは本当に与えていただいたという感じで、感謝しましたね。深津さんも10代からいろんな作品をやられてきて、違う場所で同じような経験をしてきた人は妙に安心感があるんですよ。一緒に戦ってくれる人はこの人以外にいないって感じがしたんです」
瑞希は3年ぶりに帰って来た夫・優介に「俺、死んだよ」と告げられる。そして、誘われるまま3年の間に優介が過ごした場所を再訪する旅へ。深津にとっては再び2人の時間が戻ってきた喜びと、いずれは夫の死を受け入れなければならない苦悩が相半ばする難役だ。
「現場でキャッチして何が生まれるかということをいつも考えていました。ただ、2人が3年ぶりに出会うシーンはこの映画のすべてで、それがうまくいかないとすべてがうまく転がっていかないと思ったので、大切にしたかった。浅野さんはいるだけで安心感があるので、お互いの波動で夫婦の関係性を築き上げていった気がします」
2人の旅は、カンヌ映画祭の「ある視点」部門という大舞台でも称賛され、黒沢監督も交え3人で感動を共有した。
深津「カンヌ映画祭に初めて参加して、受賞する作品に関わらせてもらえるなんて、本当にしつこいですけれど何かに導かれているとしか思えない(笑)。映画祭で受けた刺激は、絶対に大きな財産になると思うので、本当にいい経験をさせてもらえたと思います」
浅野「映画に対して強い思いを持たないと、自分にとって受け取るものがなくなるのではないかと、ある時から思うようになったんです。その強い思いがあったからこそ、深津さん、黒沢監督に引き寄せられたんだと。そして監督賞を獲った時は、めちゃくちゃうれしいのと同時に、監督の強い思いが届いたんだ、やっぱり強い思いを持たなければいけないというところにたどり着いた感じでした」
同年代の2人から垣間見えた信頼関係は、映画とは趣の違う魅力的なものだった。
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