「神々のたそがれ」アレクセイ・ゲルマン・Jr.が語る作品と父との思い出
2015年3月20日 17:30
[映画.com ニュース]ストルガツキー兄弟のSF小説を、ロシアの巨匠アレクセイ・ゲルマン監督が映画化した「神々のたそがれ」が、3月21日から公開される。ゲルマン監督は撮影後、仕上げの直前に2013年に急逝。監督の意志を継ぎ、脚本家でゲルマンの妻のスべトラーナ・カルマリータとともに本作を完成させたのが息子のアレクセイ・ゲルマン・Jr.だ。自身も映画監督として活動し、ベネチア映画祭で受賞経験もあるゲルマン・Jr.が、本作と父との思い出を語った。
原作はアンドレイ・タルコフスキーの代表作「ストーカー」の原作者として知られるストルガツキー兄弟が1964年に発表した「神様はつらい」。父ゲルマンが原作に魅了された理由を「父は1968年に映画化を思い立ったときに、原作が当時のソ連社会が抱える諸問題を非常によくとらえているものだと感じたようです。架空の惑星の架空の人々をドキュメンタリー風に撮り、この映画のことを『アルカナル年代記』というタイトルで考えていました」と説明する。
しかし、68年8月に起きた「チェコ事件」により企画は中断。その後数十年の年月を経て政治状況が変わった事をきっかけに製作が再開された。「父は、68年にはソ連社会の問題ということを強く捉えていました。2013年に完成した本作に現在のロシアあるいは世界の姿を反映している面があるとすれば、たとえば現在のウクライナをめぐる争いを映画に重ねることはできると思います。ニュースで映し出される人々の姿はこの映画に登場する人々と似ていないでしょうか。父から話を聞いた記憶があるのですが、彼がストルガツキー兄弟の原作に普遍性を感じるようになったのは、かなり後のことで、最初の頃にあの小説と重ね合わせていたのは、やはりあくまでも60年代末期のソ連だと思います。これは、父の世代に特有の問題意識に端を発するものでしょう」と分析した。
撮影と編集にそれぞれ数年間を要したのは、ゲルマンの体調悪化が原因だと話すが、やはり画作りには並々ならぬこだわりを持っていた。「病室のベッドから指令を出して監督するといったことはできませんからね。もう一つの理由として、撮影をするにあたって相当な粘り腰で臨んだ事実を挙げることができます。まず撮影前に、何度も何度も、繰り返しリハーサルを行います。そして実際に撮影に入ると、場合によっては1つの場面を撮るだけで数週間かかることもあったのです。3度から4度テイクを繰り返すのはザラだったのですけど、とにかく1回撮影して、気に入らず、もう一度脚本を書き直して構図や人物の動きを変えたうえで再撮影して、でもやはり気に入らなくて……と繰り返し同じ場面を撮り続けるわけです」
そして、父の映画哲学をこう明かす。「ドキュメンタリー映画と劇映画は非常に近しい関係にある、と父は考えていたと思います。映画とは何か本物らしいもの、真に迫ったものを伝えるべきものだ、と。その意味で、ドキュメンタリー映画だけでなく劇映画もまたそうあるべきだと考えていました。『フルスタリョフ、車を!』がカンヌ映画祭で受けなかったことを、父は当然だと思っていました。自分は映画祭の審査員のためにみずからの映画を作っているのではなくて世界的な芸術を作っているのだ、と考えており、映画祭で評価されることは重視していなかったのです」
「父が作っていたのは、“映画以上のもの”だったと言って良いと思っています。彼が作ろうとしていた「かくあるべき映画」というのは、映画とはこうあるべきだと思われているのとは別の“映画”だったと言いますか。他方で、父はハリウッドで映画を作れないかと考えていたふしもあります。どうしてかというと、映画産業そのものや興行システムに唾する映画を撮りたくて、そんなことを考えていたようですね」
「映画史は80年代で終わり、ポストモダニズムはクソくらえ」と発言し、スタンリー・キューブリックやクエンティン・タランティーノは評価していなかったというゲルマン監督。その一方で、最も尊敬していたのが黒澤明だった。「彼にとっての尊敬すべき映画人というのは黒澤が一番で、タルコフスキーは4番目くらいでしょうか(笑)。だから『七人の侍』を上映するというといつも駆けつけていました」と在りし日の父の姿を語った。
「神々のたそがれ」は地球から800年ほど遅れた発展を遂げた惑星が舞台。調査のため、地球から派遣されたドン・ルマータは、未来から知識と力を持って現れた神のごとき存在として崇められるが、政治介入は許されず、ただただ権力者たちによって繰り広げられる蛮行を圧倒的な映像で映し出す。3月21日から渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。
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