橋本愛、「寄生獣」2部作で得た大きな手ごたえ
2014年11月18日 04:00
[映画.com ニュース] 岩明均氏の伝説的な漫画を山崎貴監督が2部作で映画化する「寄生獣」が、いよいよ11月29日から全国で封切られる。映画.comでは、製作決定を報じた2013年11月以降、1年間にわたり撮影現場などに密着し取材を敢行。インタビュー第1弾を飾るのは、2010年の銀幕デビュー直後から筆者が成長を見守り続けてきた女優・橋本愛だ。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)
「月刊アフタヌーン」(講談社刊)で1990~95年に連載された同名SF漫画が原作だが、2005年に米ニューライン・シネマが原作権を獲得したため、日本では“手が出せない”企画として知られてきた「寄生獣」。13年に入って契約期間が終了したため、日本では数十社による争奪戦が繰り広げられ、東宝が映画化権を取得。待望の実写化に際し、山崎監督をはじめ原作に深い愛情をもつ日本最高峰の才能が結集した。
橋本は、染谷将太扮する新一の同級生で幼なじみのヒロイン・村野里美役でオファーを受けた。中島哲也監督作「告白」での演技が大きな話題を呼び、現在18歳ながら今作は銀幕デビューから20本目。「寄生獣」というタイトルだけは知っていたという橋本は、「原作を読んだとき、あの時代特有のヒロイン像みたいなものがあって、これを現代劇でやると、もしかしたら違和感が生まれるかもしれないと思いました」と当初の印象を明かす。そのうえで、「新一との関係性はきちんと引き継がなければいけないと思いました。前編と後編を通した脚本があったのですが、新一と里美の関係が書かれている平和なシーンって冒頭の2シーンくらいだったんです。物語が進んでいくうちに2人の関係性にも変化が出てくるので、最初のところでいかに日常の関係性を出せるかに気持ちを注いでいきました」と話す。
都内某所で撮影中、筆者が橋本の話題を山崎監督に振ると、嬉々とした表情で語りだしたことがある。「彼女は面白い。僕のオーダーとズレがあるんですよ。典型的な要求をしても、少しズレてくる。そこは素材力なんでしょうね。思いもよらないものが出てくるんですから、いろんな監督やプロデューサーが彼女とお仕事をしたがるのが理解できます」。3度目の共演となった染谷も、「何が出てくるかわからないので、こっちも何を出すかわからない(笑)。予想がつかないんですよ。自分もどういう演技を返すのかわからないという感覚を抱かせてくれる女優さん」と賛辞を惜しまない。
現場では、「告白」「渇き。」の撮影・照明チームと再会を果たしたが、「監督が違うと、皆の仕事が変わってくるんだなあって戸惑った」そうで、その結果、「今まで私が培ってきた感覚がすごく乱れて、本当にわけがわからなくなってド素人の位置まで落ちちゃった」という。そんなとき、図らずも平常心を取り戻させてくれたのが、染谷だった。
「たくさん失敗したんですけれど、染谷さんを見ていると先生みたいで、大先輩ではありますが密かに『先生』って思っていました。一緒にいると、役割をまっとうすることの具体性みたいなものが学べましたし、いちスタッフのように現場に紛れ込んでいる感じが尊敬できます。ラッシュを見ていても、弱虫だった新一から、どんどん狂気を帯びていくところに驚かされました。現場で対峙したときも、『あーあ、こんな目しちゃって……』と思わせられたり。染谷さんの行動に引っ張られましたし、引力というか、人を引きつける力がすごいですよね」。
橋本のことを寡黙、人見知りと評する人がいることは否定しない。だが、日進月歩で成長を遂げている18歳の少女であることも忘れてはならない。「寄生獣」の現場では、「人の顔を見るのが苦手なんだと改めて気づいたんです(笑)。現場にもよりますが、人が多すぎるとアタフタしちゃって……」と述懐。クランクアップ後には、フジテレビ系の連続ドラマ「若者たち2014」の撮影に突入した。「第1話、第2話では出来なかったんですが、それ以降は落ち着けるようになりました。今までよりも視野が広くなったというか、いろんな自分に気づけるようになった気がするんです」と表情を綻ばせる。
数カ月前からは、写真共有サービスInstagramを始め、貴重なオフショットなどをアップしている。「1カ月限定のつもりだったんですが、映画を見終わった後の興奮をどこにぶつければいいのかがわからなくて。書き込めば反応してくれる方もいらっしゃるし、素敵な出会いも増えたから良かったのかもしれないと思って」。現在も多忙な毎日を送るが、時間を見つけては劇場に行くといい、池袋・新文芸坐で行われた現役最高齢となるポルトガルのマノエル・ド・オリベイラ監督のオールナイト上映にも足を運んだ。「映画館に行かないと落ち着かないんですよ。でも、18歳っていいですね。いろんなところに行けますし」とほほ笑み、最近見た作品で印象的だったものは「スウェーデン映画祭2014で見た、イングマール・ベルイマンが脚本を担当した『もだえ』(1944)を見ました。ベルイマンっていい人なんだなあって思いました」と瞳を輝かせる。
橋本を初めて取材した10年6月から、約4年半が経過する。あどけなさとぎこちなさを内包した不器用な中学生は、自らの胸のうちでしっかりとかみ砕いて話をする18歳の少女へと成長した。今も変わらず不器用かもしれないが、橋本が映画を愛する限り、今後も多くの映画人たちがその動向に注目し続けていくことだろう。
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